韓国が鍵となる、日本の新たな防衛計画
17日に、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(防衛大綱)が閣議決定されました。防衛大綱とは、概ね10年ほどを想定した中長期的な安全保障政策の指針の事で、日本を取り巻く安全保障環境に変化が無ければ10年以上経っても改訂されない事もありましたが、今回の改訂は平成23年度に防衛大綱が定められたばかりでしたので、わずか3年という短期間での改訂になります。防衛大綱の閣議決定と同時に、今後5年間の防衛力整備、つまりどれだけ装備を調達して人員を割り当てるかを定めた、中期防衛力整備計画も明らかになりました。
さて、これら中長期の安全保障政策と防衛力の整備計画では、陸上自衛隊はこれまで地域ごとで独立した指揮権を持っていた方面隊の上に陸上総隊を新設して、陸上総隊に指揮を一元化する組織改編を行い、機動力の高いMV-22オスプレイや機動戦闘車、水陸両用車両を新たに配備します。水陸両用団と呼ばれる島嶼部戦闘に特化した部隊も新設されます。海上自衛隊や航空自衛隊でも同様に、戦闘機部隊の増勢や、多用途性とコンパクトさを両立させた新たなタイプの護衛艦の導入、警戒監視能力の強化などが謳われています。
一方、これらの新たな装備の配備や増強の反面、陸上自衛隊の主力装備である戦車・火砲を大幅削減し、戦車の配備は北海道、九州のみとし、これまで各師団に配備されていた火砲も方面隊直轄とするなどの方針が明らかになっています。
このような新しい防衛大綱は「南西シフト」であると各種報道は伝えています。冷戦期にソ連を仮想敵として北海道に重点配備していた自衛隊を、中国を睨んで九州・沖縄等の島嶼部の防衛に注力すべく、日本の南西部に防衛力の再配置するというものです。
近年の中国の軍事力整備の方向性は、圧倒的な経済力を背景にした正面装備の充実を図っています。2013年に中国が建造した水上戦闘艦の数は、自衛隊がこの10年間に建造した護衛艦の合計を既に上回っており、急ピッチで拡大し続けています。また、中国海軍は空軍とは別に海軍航空隊を保有しており、現在の増強ペースを見れば、あと数年で海軍航空隊だけで航空自衛隊より強力な戦力になると見られます。中国海軍は陸上部隊を運搬し、上陸させる揚陸艦の整備も今後進めると見られ、かなりの水陸両用戦力もいずれ持つ事になるでしょう。
これら中国の軍事力の拡大に、日本一国のみで対抗するのは不可能で、日米同盟の強化や周辺諸国との軍事的連携、国際的な協調による紛争防止等、多国間の協力が必要となります。新しい防衛大綱でも、アジア太平洋地域の国々との連携や、国際社会との協力を推進することが謳われています。
ところが、新しい防衛大綱では、日本が今後連携推進を目指すとされた国の中に、外交的に険悪な状況にある国があります。韓国です。
新しい防衛大綱では以下のように韓国との関係強化を謳っています。
ところが、ここで謳われている情報保護協定の締結は、本来は昨年に締結が予定されていたものですが、締結直前になって韓国から延期の申し入れがあり、それ以降は進捗が見られません。また、そもそも今回の新しい防衛大綱策定の基本概念である国家安全保障戦略について、韓国外務省は竹島問題が明記されていることを遺憾とし、削除を要求するなど抗議しています。
韓国との協力関係構築を目指すとする日本の新たな安全保障政策ですが、当の韓国が様々な問題から乗り気ではありません。その背景には領土問題や反日感情と言ったものが挙げられていますが、一番大きな問題は中国への配慮にあるでしょう。国内市場が小さい韓国経済は、貿易依存度が極端に高く、韓国最大の貿易相手が中国であることからも、中国の韓国に対する経済的影響力は計り知れないものがあります。また、北朝鮮と関係の深い中国と良好な関係を築くことで、北朝鮮の暴発を抑える事も期待されており、韓国としては中国の機嫌を損ねる日米との連携強化を表立ってできない状況にあります。
日本、ひいてはアメリカにとって、韓国を日米側に引き留める事が重要になってきます。先日、訪韓したバイデン米副大統領は朴槿恵韓大統領との会見で、日本との関係改善を促した上、「米国の反対に賭ける(betting)のは良くない」と発言し、中国と関係を深める韓国に釘を差したと、韓国国内では大きく取り上げられました。日本も韓国が「反対側に賭ける」のを阻止する為、米国と強調して、日米側に留める努力を強める必要があるでしょう。
歴史を振り返れば、日清・日露の両戦争は、日本が大陸勢力からの緩衝地域として朝鮮半島を日本側勢力に留めようとした為に起きています。更に遡れば663年に白村江の戦いで唐・新羅連合軍に日本軍が敗れ、朝鮮半島における日本側勢力が一掃された後、日本が九州に防衛用の城を多数築いて防人を置き、首都を海沿いの難波宮から内陸の近江宮に移すなどの防衛力強化に努めた事が知られていますが、これは朝鮮半島における緩衝地帯が無くなった事で、日本本土が最前線になった為に防衛力強化が必要となった為と言えます。今、朝鮮半島に緩衝地帯を無くすと、1300年前を繰り返す事になりますが、これは避けねばなりません。
前述した通り、新しい防衛大綱と中期防衛力整備計画では陸上装備が大幅に削減されます。これは我が国が島国であり、直接的な陸上戦力の侵攻を海が阻んでいる為に可能になったものです。ですが、韓国が「反対側」に賭けた場合、日本は大陸勢力と対馬海峡という狭い海峡を挟んで対峙する事になり、大幅に防衛への負担が高まります。
防衛大綱で示された他国との連携では、アメリカ、オーストラリア、ASEAN諸国、インドといった国々との連携も謳われ、それらの国々とは成果も出ておりますが、韓国だけはうまくいっていません。防衛大綱で示された安全保障環境の実現の、最大の障壁にして鍵が、韓国と言えるでしょう。韓国では中国との関係は良好と考えられていましたが、中国が防空識別圏を韓国が管理権を主張する蘇岩礁上空に設定した事への反発や、張成沢氏処刑による中国の北朝鮮への影響力についての疑念などで、メディアが日本との関係改善を主張し始めるなどの兆しを見せています。ここでどう韓国側をこちらに取り込むかが、日本外交の見せ所になるでしょう。
※この記事は、dragoner.ねっと「韓国が鍵となる、新しい日本の防衛計画 」のYahoo!ニュース向け転載です。