ベルルスコーニの悪あがき、再びユーロに暗雲
8月に最高裁で脱税の有罪判決を受けたイタリアのベルルスコーニ元首相の自由国民に属する全5閣僚が28日夜、辞意を表明した。10月4日に上院特別委員会がベルルスコーニ現上院議員の資格剥奪を決議する見通しになったことに対するあからさまな妨害工作だ。
2月の総選挙後、「国父」と呼ばれるナポリターノ大統領の裁定で2カ月間の政治空白を経てようやく誕生したレッタ政権は発足からわずか5カ月で崩壊の危機に瀕している。民主党のレッタ首相は29日にナポリターノ大統領と会談、自由国民を外した連立政権の樹立が可能か協議する。
ナポリターノ大統領はユーロ危機が再燃するのを懸念して「われわれにとって必要なのは選挙運動の継続ではなく政府の継続だ」と、解散・総選挙は極力避けたい考えを示した。
しかし、新たな連立交渉のカギを握る野党・五つ星運動のグリッロ氏は「われわれは勝ってイタリアを救うために選挙を行う必要がある。これが最終列車だ」と早期解散・総選挙を求めている。
イタリア政局はベルルスコーニの悪あがきで再び混迷状態に陥った。4%台前半に落ち着いていたイタリア国債の金利が週明けの30日、再び急騰する恐れもある。
市場はイタリアの競争力の低さを問題視している。ベルルスコーニ氏がイタリア政界を牛耳るようになってからというもの、仲間内の企業や人を優遇、元トップレスモデルを閣僚に抜擢するなど、私利私欲をむさぼってきた。
おかげで、00~10年の経済成長率がイタリアを下回ったのは中南米ハイチとアフリカ・ジンバブエという有り様だ。
世界銀行によるビジネス環境調査(13年)の契約施行ランキングでイタリアは160位。納税のしやすさランキングは131位。建設認可のしやすさは103位。資金調達のしやすさは104位。
イタリアのビジネス環境は先進国レベルとはとてもいえないのが実情だ。しかも、大学では新陳代謝が進まず、女性を性の対象としてしかみない男尊女卑の風潮がはびこる。
人気サッカークラブACミランを所有する「メディアの帝王」ベルルスコーニ氏が1992年の「タンジェントポリ」と呼ばれる大疑獄で生じた政治空白をついて政界を目指した理由は、不逮捕特権や権力を悪用して自分の利権を守るためだった。
これまで何とか塀の中に落ちるのを避けてきたベルルスコーニ氏もついに有罪判決が確定。12年に導入された反汚職法に基づいて上院特別委員会で議員資格を剥奪されるのが筋なのだが、ナポリターノ大統領に恩赦を要求。連立からの離脱を突きつけるなど、なりふり構わず議員資格剥奪決議を阻止しようとしてきた。
自由国民内ではベルルスコーニ氏の長女マリーナさん(47)を首相候補に立てて世代交代し、秋に総選挙を戦う案も浮上したが、マリーナさんは今のところ出馬の可能性を否定している。
10月中にベルルスコーニ氏は刑罰として1年間、自宅軟禁を受けるか、公共サービスに従事するかを決めなければならない。さらに公職停止の期間も確定する予定だ。レッタ首相による新たな連立交渉が失敗して解散・総選挙になれば、ベルルスコーニ氏自身は出馬できない恐れが出てくる。
目の前の議員資格剥奪決議を避けるためとはいえ、ベルルスコーニ氏にとってはわずかな時間稼ぎにしかならない可能性があり、断末魔のあがきと言えるかもしれない。
レッタ首相はこれまで、ベルルスコーニ氏の要求に屈し、モンティ前政権が復活させた住宅税の廃止をのまされて、年間30億~40億ユーロの歳入を失った。
しかし、財政再建目標が達成できなく恐れがあるため、日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)を21%から22%に引き上げることを決めようとしたところ自由国民の閣僚の反対で閣議決定できなかった。
そこでレッタ首相は来週、上下両院で政府の信任を問う方針を表明したが、ベルルスコーニ氏は「最後通牒は受け入れられない」と反発、自由国民の全閣僚を引き揚げてしまったのだ。
さすがに温厚なレッタ首相も「ひどいウソだ。正気の沙汰ではなく、無責任だ」と激高している。
連立を組もうにも上院では過半数を形成できず、総選挙になれば今と同じように宙ぶらりんの状態が繰り返される可能性が強いという行き詰まりの状態。
イタリアと欧州を人質に取って自分の政治生命を守ろうとするベルルスコーニ氏は欲望民主主義の権化となり、再びイタリアを窮地に陥れ、ユーロと世界経済を揺さぶる恐れがある。(おわり)