10月から橋上化工事が始まる築130年の木造駅舎 関西本線・名鉄尾西線 弥富駅(愛知県弥富市)
木曽川デルタの海抜ゼロメートル地帯に位置し、金魚の生産地として知られる愛知県弥富市。その中心部には近鉄名古屋線、JR関西本線、名鉄尾西線の3つの鉄道路線が乗り入れている。3線の駅のうち、うち近鉄弥富駅だけは少し離れて近接しているものの、JRと名鉄の弥富駅は改札口を共用する共同使用駅だ。そんな弥富駅だが、橋上化工事によりまもなくその姿を大きく変える。
弥富駅は明治28(1895)年5月24日、名古屋とを結ぶ関西鉄道の終点・「前ヶ須(まえがす)」駅として開業。11月7日の桑名延伸と同時に「弥富(やとみ)」に改称された。当時の所在地は海西郡彌富村で、「前ヶ須」の駅名は明治の町村制まで存在した前ヶ須新田という村名に由来する。「弥富」は末永く栄える意味の「弥」と豊かな水田を表す「富」の二字を合わせた瑞祥地名だ。
彌富村は海西郡役所が置かれ、駅が開業して以降、地域の中心として発展していく。明治31(1898)年4月3日には尾西鉄道(現:名鉄尾西線)も乗り入れ、明治36(1903)年8月26日には町制施行で海西郡彌富町(のち弥富町)となった。関西鉄道は明治40(1907)年10月1日に国有化されている。
弥富駅の駅舎は関西鉄道開業時から使われているもので、建物財産標には駅開業前の明治27(1894)年12月の文字がある。130年もの歳月を経てきた日本でも有数の古い駅舎だが、平成9(1997)年8月の改装により原型を留めていない。
大都市近郊の駅らしく駅舎内には自動改札機が設置され、天井には名産の金魚が描かれたステンドグラスが設置されている。
ホームは2面3線で、駅舎側の1番線(亀山方面)と2番線(名古屋方面)の間に貨物列車待避用の中線がある。ホームの上屋や跨線橋も歴史を感じさせるもので、エレベーターは設置されていない。橋上化により駅舎だけでなくホームも大きく変わることだろう。
駅舎から一番遠い3番線は名鉄尾西線のホームで、乗換え客用に簡易TOICA改札機が設置されている。改札口を共用するこうした共同使用駅も近年は減りつつあり、弥富駅においても橋上化と同時に名鉄専用の駅舎とホームを建設して解消される予定だ。名鉄の新ホームは駅裏の現在駐車場となっているところに建設される。
弥富駅を再開発しようという話が初めて出たのは、実に70年以上も前の昭和25(1950)年のことで、この時は国鉄・名鉄弥富駅と近鉄弥富駅の間に駅前広場を設置して両駅をつなぐ案が示された。20年後の昭和45(1970)年には橋上駅で両駅をつなぐ案が出、昭和54(1979)年からは駅整備に向けた協議・検討も始まったものの、結局平成5(1993)年から翌年にかけて近鉄弥富駅を橋上化しただけで終わった。再開発については地権者の合意を得られずに頓挫している。
計画が再び動き出したのは平成の大合併で弥富市が誕生してからのことで、一時凍結されたものの、調査や協議を経て令和3(2021)年度には市とJRとの間で橋上化工事に関する覚書、名鉄との間で確認書が締結された。
今年10月からはついに工事が本格的に始まり、駅の一部に仮囲いが設置される。
新駅舎は令和11(2029)年度供用開始予定だが、駅前整備も含めたすべての工事が完成するのは令和13(2031)年だ。橋上化と同時に駅の南北を結ぶ自由通路が設置され、北口には名鉄の駅舎が建設される。明治の面影残す今の弥富駅が見られるのもあと少しだ。