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エジプトの大統領選挙

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

エジプトの大統領選挙が今月末に行われる。立候補しているのはシシ将軍と社会主義的な政策を掲げるサバーヒー候補である。前者は昨年のクーデターでムルシー大統領を逮捕した張本人である。後者はサダト時代からの反政府運動で10回以上の逮捕歴のある人物である。

ムバラク大統領の没落後の2012年の大統領選挙に立候補し第三位の票を集めた。その後に上位二人の決選投票が行われムスリム同胞団のムルシーが大統領に選ばれた。

支持勢力がメディアを支配していることもあって、シシ将軍の当選が広く予想されている。焦点は第一にサバーヒー候補が、どのくらいの票数を集めるかである。第二に投票率である。前回の新しい憲法の批准を求める国民投票では、投票率は4割程度であった。シシ将軍としては、自らの正統性を強めるためにも、もっと高い投票率が欲しいだろう。

しかしながら、どのような結果になるにしろ、新しい大統領の下でエジプトが安定するとは考えにくい。というのは、シシはムスリム同胞団をテロ集団だとして弾圧しており、同胞団を政治過程から完全に排除しているからである。

2012年の大統領選挙ではムスリム同胞団のムルシーが勝利を得た。多数の候補が争った第一回目の投票で、ムルシーは六百万票近くを獲得した。しかし過半数の表を得た候補者がいなかったので、2回目の決選投票が行われ、ムルシーとシャフィーク候補の一騎打ちであった。ムルシーが千三百万票で勝利を収めた。2回目の決選投票では、ムバラクと関係の深い候補者であったシャフィークを落選させようとした人々がムルシーに投票した。したがってムルシーの千三百万票の半分は、本来の同胞団支持の票ではなかった。しかし1回目でムルシーが獲得した六百万票は確実に同胞団の票である。

これだけの有権者をテロ組織のメンバーだとして政治過程から排除して、エジプトは安定するだろうか。昨年のクーデター以来、同胞団によれば2万人以上が投獄され、千名以上が死んだ。アルジャジーラの特派員が拘束されているように、メディアから言論の自由は奪われている。そしてテロ事件が続発している。こんな状況の国に観光客や外国からの投資が戻って来るだろうか。

大統領選挙後のエジプトも大統領選挙前のエジプトのように不安定だろう。

国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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イラン革命、イラン・イラク戦争、湾岸危機・戦争、アメリカ同時多発テロ、アフガン戦争、パレスチナ問題、イラク戦争、アラブの春と続発する事件に関して30年以上にわたり発言を続けてきました。またオフレコでメディア、官庁、政党、企業などに対し、そして名前を公表できない人々を含め日本の指導層のために助言とブリーフィングを行ってきました。高橋和夫の情報への感性に共鳴する方々のために分析を提供します。

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