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正月休み、「上司からの連絡」に対応する? 高まる“つながらない権利”を求める声

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 コロナ禍を契機にテレワークが普及し、会社に出勤せず、自宅で仕事をするのは普通のことになってきた。テレワークには様々な利点がある反面、労働時間と私生活の区分が曖昧になり、結果的に長時間労働になってしまうケースが少なくない。

 自宅でも仕事ができるということは、終業後や休日であっても、上司が部下に仕事をさせやすくなるということでもある。

 上司から電話等ですぐにやってほしいと頼まれるケースもあるだろうし、そうでなくでも、メールなどで仕事を頼まれると、「すぐにやらないと上司の評価が下がってしまうかも」、「早くやらないと同僚に迷惑がかかってしまうかも」というような心理が働き、本来余暇に充てるべき時間を犠牲にして仕事をするということになってしまいがちだ。

 実際、連合が実施した調査の結果では、多くの労働者が勤務時間外に業務上の連絡を受けており、それによってストレスを感じていることが明らかになっている。

「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」は7割超

  労働組合の全国組織である連合が今年9月に実施し、今月発表した「“つながらない権利”に関する調査2023」の結果によると、雇用者(924名)の72.4%が、勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがあると回答している。内訳を見ると以下のとおりである。

 「連絡がくることがあった/ある」と回答した人の割合は、コロナ禍前(64.2%)から8.2ポイント上昇している。テレワークの普及等により、労働時間と私生活が曖昧になっていることが、この調査結果からも窺える。

 緊急時やトラブル発生時など、勤務時間外でもやむを得ず連絡を取らなければならない場面はあり得る。しかし、頻度が「週に2〜3日」ともなってくると、やむを得ない範囲をはるかに超えているといえるだろう。

 勤務時間外に部下に連絡し、業務を行うように指示を出す行為はパワーハラスメントに該当する可能性が高いが、そうした行為が当たり前に行われている職場もある。

 こうした実態もあり、注目されているのが勤務時間外の“つながらない権利”だ。

 “つながらない権利”とは、勤務時間外や休日に仕事上の電話やメールなどの対応を拒否できる権利のことをいう。

 例えば、会社がメールを送信してよい時間帯を定め、それ以外の時間のメール送信を禁止すれば、労働者の“つながらない権利”を守ることができる。

 日本では法制化されていないが、海外には法的な権利として確立している国もある。2021年には、欧州議会が「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採決している。

労働者の健康を守るためにも“つながらない権利”の確立を

 いうまでもなく、勤務時間外の上司等からの連絡は、労働者のストレスの要因になっている。連合の調査では、雇用者(924名)に、勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくるとストレスを感じるかを尋ねた結果、「感じる」が62.2%、「感じない」が37.8%となった。勤務時間外の連絡は、労働者の休息を妨げ、過労の要因にもなる。

 パーソル総合研究所が今年7月に実施した調査でも、過去1か月の間に、業務時間外の連絡に対して、すぐに対応することを要求されたことがあったかを尋ねている。結果を見ると、「毎回ある」が3.2%、「しばしばある」が8.6%、「たまにある」が46.6%となっており、合計で実に58.4%が業務時間外の即時対応を求められたことがあると回答している。

 自宅にいても連絡がきて即時対応を求められるのであれば、気持ちが休まる暇もなく、本当の意味で休息を取ることはできないであろう。

 そして、そのような形で勤務時間外に業務を行った場合に賃金(残業代)が支払われず、実質的にサービス残業になっていることは想像に難くない。

 勤務時間外の連絡が無制限に行われていることが長時間労働やサービス残業の温床となり、また、労働者を追い詰め、その健康状態を悪化させているのである。

 このような現状を改め、労働者の健康を守るためには、日本社会においても“つながらない権利”を確立・保障していくことが求められているといえるだろう。

ルールがある職場は2割程度

 連合は、勤務時間外の業務上の連絡を制限する必要性を感じている人がどのくらいいるのかについても調査を行っている。

 雇用者(942名)を対象に、“働くこと”と“休むこと”の境界を明確にするために、勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思うかを尋ねると、「思う」が66.7%、「思わない」が33.3%との回答であった。

 このように勤務時間外の業務上の連絡を制限する必要性を感じている人が多いにもかかわらず、そうしたルールが設けられている職場は少ない。

 自身の職場で、“勤務時間外の職場内の連絡(業務上の連絡)”についてルールがあるか(公式なルールか非公式なルールかは問わない)を尋ねると、「ある」が25.8%、「ない」が46.3%、「わからない」が27.9%となっている。

ルールが設けられている職場は3割にも達しておらず、いかに勤務時間外の連絡を制限していくかが今後の課題になっているといえよう。

“つながらない権利”を求める労働者は多い

 “つながらない権利”が行使できるようになることを望む労働者は多い。

 “つながらない権利”によって勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、そうしたいと思うかという問いに対しては、「非常にそう思う」(29.2%)と「ややそう思う」(43.4%)の合計が7割を超えている。

 長時間労働に歯止めをかけ、労働者の働き過ぎを防止し、その健康と権利を守るために、各企業は、勤務時間外の連絡を制限すべく、ルールを設定すべきであろう。労働組合もまた、上記の労働者の声を踏まえ、そうしたルールの設定に向けてアクションを起こすべきであろう。

 さらに、テレワークが普及し、労働時間と私生活の区分が曖昧になりがちな現状を踏まえ、“つながらない権利”の法制化についても検討がなされるべきだろう。

〔参考〕

連合「“つながらない権利”に関する調査2023」

パーソル総合研究所「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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