もしも「羽田-伊丹便」が廃止されたら――近い未来のシミュレーション
コロナ禍は我々にいや応なしに「ニューノーマル」のライフスタイルへの移行を迫った。常時マスクの生活も大変だが、最大の変化はリモートワークの普及だろう。その勢いで通勤の概念が崩れ、都会と地方の2カ所居住が始まり、高層ビルを抜け出して公園のカフェで仕事ができる時代になった。だがそんなコロナ禍も数年かけて収束しつつある。それで「ノーマル」に戻れるか、と思ったら甘い。次には「CO2削減」の大波が海外から押し寄せてくるだろう。
○欧州の2時間半ルール
欧州ではCO2削減のため、列車で2時間半以内の都市間の航空機が廃止されつつある。例えばパリ-ボルドー、パリ-リヨン、ウィーン-ザルツブルグなどだ。CO2排出量全体に占める航空機の比率は2%と小さい。だが列車の方がエネルギー効率は良いし、空港は駅より街のはずれにある。空港アクセスの自動車輸送が出すCO2も加味すると2時間半の距離は「飛ばなくてもよい」と言われても仕方がないだろう。
○羽田-伊丹便の廃止案
我が国に2時間半ルールを当てはめると羽田-伊丹便は廃止となる。東京-大阪間は新幹線が走る。伊丹空港から大阪中心部まではバスで40分ほどかかり、羽田も都心から遠い。東京-大阪間をどうしても飛行機で移動しなければいけない人はあまりいない。そもそも羽田-伊丹便はリニア新幹線ができたら不要になるとも言われてきた。その意味では、CO2削減政策は単に廃止の時期を早めるだけとみることもできる(このあたりは「コロナのせいでリモートワークが”早まった”」という見方と似ていて興味深い)。
○ぽっかり開いた穴をどう埋めるか
さて、羽田-伊丹便が廃止されたら新幹線は大幅な増収となる。だがこの利益をJR東海が独り占めするのはおかしい。航空会社の損失補填にいくばくかの資金は回すべきだ。また赤字に苦しむ北海道や四国、九州のいわゆる3島会社の生活路線を維持する資金に充てるべきだ。歴史を紐解けば、東海道新幹線は国鉄の分割民営化の過程でたまたまJR東海のものになったにすぎない。同社が自分の努力で引いた路線ではない。東海道新幹線は多額の税金を投入してできた国民全体の財産である。だからそもそも、すべての収益をJR東海が独占している現状自体に疑問があろう。本来は、たとえば国が全国の鉄道ネットワークを維持するための基金を設立し、そこに東海道新幹線の収益を半分程度は入れるとする制度を設計すべきだった。いまさら遅い。JR東海はそもそも上場企業でもあり、株主の利益を召し上げるわけにはいかない。しかし羽田―伊丹便の廃止による増収は政策変更による外部経済効果である。これは国が差配してもいいだろう。
○羽田空港は新たに生まれる枠を元に民営化
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