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コンピューターだけで採用人事を決める時代が来たら? 米国の人達の思いをさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ コンピューターが採用人事を決める時代。イメージ的には…?(筆者作成/撮影)

企業において採用人事は非常に重要な業務だが、昨今では判断材料にコンピューターのプログラムを用いる企業も登場している。現状では人事担当のサポート的な立場に留まっているが、将来的にはプログラムのみで採用・不採用を決定する企業も登場するだろう。そのような時代の到来に、求職者側はどのような思いを抱いているのか、米国の民間調査会社Pew Research Centerが2017年10月に発表した、技術と人々の暮らしに関わる調査結果「Automation in Everyday Life」(※)を基に、米国事情を確認していく。

まずは「コンピューターのプログラムが求職者の採用判断」を人の関与なしに行う、つまり完全に人事判断をコンピューターのプログラムのみで実施する企業が登場する可能性について、それがありうるとの話を見聞きしたり自分で考えたことがあるかと、その実現性について聞いた結果。

↑ コンピューターのプログラムが人の関与なしに求職者の採用判断を行うことが将来あると見聞きしたり考えたことはあるか・実現すると思うか(2017年5月、米国、18歳以上)
↑ コンピューターのプログラムが人の関与なしに求職者の採用判断を行うことが将来あると見聞きしたり考えたことはあるか・実現すると思うか(2017年5月、米国、18歳以上)

サポートのレベルなら極論として履歴書の記載事項のデータの整理や抽出もコンピューターのプログラムによるものとなるので、すでにほとんどの企業が実施しているはずだが、人が関与せずに求職者の採用・不採用を決定してしまう仕組みを持つ企業の登場に関しては、見聞きだけでなく自身で考えたことすらない人の方が多数に及ぶ。

しかしながら現実性の度合いでは、多数の企業が将来はそうなるだろうと考えている人は12%、そこそこの企業がその仕組みを用いるに違いないとの人は47%と、合わせて6割近くの人はそれなりに普及するだろうと考えている。機械化、自動化が推し進められているのは世の常のため、採用人事にも適用されても何ら不思議はないということか。

それでは仮に、そのような企業があった場合、求職したいと思うだろうか。報告書の限りでは特に補足はないものの、その企業のみ求職したい企業がなかったとの仮定ではなく、同等の労働条件が提示され、採用人事が完全なコンピューターのプログラムでの判断か否かで複数の企業の選択肢があった場合、いずれを選ぶのかと考えればよいだろう。また最初の設問では明記されていた「完全にコンピューターのプログラムのみの判断」との説明もないが、事実上人の関与なしに採用・不採用が決定されるとの解釈で問題はない。

↑ コンピューターのプログラムが求職者の採用判断を行うような仕事に求職したいか(求職したい人の割合)(2017年5月、米国、18歳以上)
↑ コンピューターのプログラムが求職者の採用判断を行うような仕事に求職したいか(求職したい人の割合)(2017年5月、米国、18歳以上)

全体では22%が求職したいと答えている。報告書の限りでは76%は求職したくない、2%はその他無回答。コンピュータのプログラムのみで採用が判断される企業は、あまり人気が無いようだ。

属性別では男性、若年層、高学歴ほど求職したいとの意見は増える。しかし最大でも18~29歳の37%で、過半数には及ばない。性別はともかく若年層と高学歴は、新技術への好奇心や自分がよく判断されるとの自負によるものだろう。

残念ながら属性別の具体的数字は非公開だが、求職したい・したくない人それぞれに、その理由を聞いた結果から、若年層や高学歴が比較的コンピュータのプログラムのみでの採用判断に比較的寛容な理由が透けて見える。

↑ コンピューターのプログラムが求職者の採用判断を行うような仕事に求職したい/したくない主な理由(2017年5月、米国、18歳以上)
↑ コンピューターのプログラムが求職者の採用判断を行うような仕事に求職したい/したくない主な理由(2017年5月、米国、18歳以上)

求職したい人の理由のトップは「人よりも公平」。人による判断では見かけなど印象による好き嫌いといった、企業の採用に本来関係のない部分で、人事担当者の偏見が影響する可能性があるが、コンピューターのプログラムならばそれもないだろうとの期待。技術に対する信頼が多分ににじみ出ている。次いで「自分は高評価される」「評価に合わせた姿勢を見せられる」が10%。つまり自分は数量的な評価に自信がある、評価判断の対策を練ることができるとするもの。

他方求職したくない人の理由のトップは「プログラムが求職者の全てを掌握できるわけではない」で41%。要は数量化できる値だけでは、人の実力を見極めることはできないとするもの。次いで「非人間的過ぎる」が20%。これは介護ロボットの話でも挙がっていた指摘だが、機械任せにすることで自分がモノ扱いされた気分になり、どれほど公平な、合理的なものでも、否定的感情が生じてしまうとするもの。

コンピューターのプログラムの判断で人事採用をするにしても、結局はその判断の材料となるデータは人が打ち込むものであり、変更のできない値(年齢や性別、資格や経験年数)以外は、入力者のさじ加減となる。また、その入力値を元に行われる振り分けの条件付けも、人が決定するもの。「コンピューターのプログラムのみで採用判断」も人による判断とさほど違いはないのが実情ではあるのだが。

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※Automation in Everyday Life

調査専用の調査対象母集団(RDD方式で選択された固定電話・携帯電話を有するアメリカ合衆国の18歳以上を対象に選択)を対象に2017年5月1日から15日にかけて実施されたもので、有効回答数は4135人、うち就業者は2510人。国勢調査の結果を基に性別、年齢、学歴、人種、支持政党、地域、就業中か否かなどの属性でウェイトバックが実施されている。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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