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止まらないマンション管理費上昇を解決できる? 「アプリ管理」登場から3年の今

櫻井幸雄住宅評論家
「アプリ管理」はマンション管理費上昇の対抗策になりうるか。写真はイノベリオス提供

 7月14日にマンション管理に関する記事「24時間ゴミ出しOK」がNGになる?止まらないマンション管理費上昇の深刻な裏事情を出したところ、大きな反響があった。想定より多くの人に読まれ、質問も複数来たのである。

 「マンション管理」はこれまで地味なテーマだった。その記事に関心が高まったのは、費用の上昇に頭を抱えるマンション管理組合が増え、解決策が求められているからだろう。

 7月14日の記事では、最後に、その解決策のひとつとして「アプリ管理」があることを紹介した。アプリ管理の内容は、2021年の記事を参照いただきたい。上昇するマンション管理費を抑制する切り札 「アプリ管理」がゆっくり動き出した

 今回は、紹介してから2年(登場から3年)が経過した「アプリ管理」の現状について解説を行いたい。

 ちなみに、マンションの「アプリ管理」を提供している会社は当時も今も三菱地所コミュニティが設立した「イノベリオス」社だけ。同社のアプリ管理が今どれくらいの管理組合に、どのように、そして毎月の費用がどれくらいで利用されているのか、取材で明らかにしたい。

最初の1年、アプリ利用はかろうじて二桁

 マンションのアプリ管理が登場したのは2020年7月だった。

 それからほぼ1年後の2021年6月にイノベリオス社を取材した際、アプリを利用しているマンション管理組合は4つに過ぎなかった。加えて、6つの管理組合が導入の調整中で、まもなく正式導入の見通しと説明された。

 つまり、予定も含めた利用数は1年でかろうじて二桁。10の管理組合がアプリ管理に手を付けた状態だったので、まだ認知度も利用度も低かった。

 その2年後の現在はどうか。

 2023年7月1日の時点で、アプリ管理を導入した管理組合は60に増加。導入予定の管理組合が18あるので、100の大台が見えてきた状況にある。

 その数は年ごとに増えており、来年は大きく増加することが見込まれている。理由は、いうまでもなく管理会社からの費用値上げが絶えないから。「今年の値上げは対応できたが、来年も値上げを要求されたら、どうなるかわからない。なので、来年からアプリ管理を利用するかもしれない」……そんな管理組合が増えているので、アプリ管理の採用事例が年ごとに増えているわけだ。

 実際、採用理由で多いのは「自主管理を続けてきたが、作業の効率化を図りたかった」とともに、「管理会社が値上げを要求してきたり、契約の更新をしないと言ってきたから」というもの。以上2つの理由が約8割を占めている。

 管理会社に頼らず、すべて自主管理を行う、もしくは清掃など一部の作業だけを管理会社や専門業者に依頼することで管理費用を抑えようとするマンションで採用例が増えていることになる。

 さらに、アプリ管理の「クラセル」が一部の料金を下げたのも、利用が拡大した理由として大きそうだ。

アプリ利用料は、1戸あたり月額・税込み550円から

 その利用料は、当初どんなマンションでも月額・税込みで3万8500円だった。その料金表に「30戸以下は同1万6500円」「50戸以下は同2万7500円」という設定が加えられた。

 30戸で1万6500円ならば、1戸あたり月額・税込みで550円。それくらいなら利用してみたい、という管理組合が多いわけだ。

 といっても、1戸あたり月550円でマンション管理をすべて行えるわけではない。

 マンション管理は人の手で行うことが多く、その作業は相変わらず管理会社や専門業者、住人の手に委ねられる。一方で、アプリ利用で簡略化できる仕事もある。アプリ利用で住人達が行えることを増やし、管理会社や専門業者に支払う費用を削減する。そのためのアプリ利用料金が1戸あたり月550円から、ということになる。

機能不全に陥ったマンションからの依頼も

 イノベリオス社によると、アプリ管理を導入したマンションの平均戸数は58戸となっている。が、それは、総戸数200戸以上の大規模マンションがいくつかあり、その戸数が平均値を引き上げたから。中央値をみると、29戸と小規模のマンションが多くなっている。

 次に、アプリ管理を導入したマンションの平均築年数をみると、平均で38年。中央値が40年だという。

 まとめると、総戸数30戸以下、築40年程度のマンションでアプリ管理が積極的に利用されていることが分かる。

 スマホやパソコンを利用したアプリ管理なので、最新のタワマンに住む若い住人がスマートに使いこなしているような印象を持ちがち。が、実際には、マンション暮らしのベテランが、長く住み続けたマンションでアプリ管理を導入している姿が浮かび上がる。

 これには3つの理由がありそうだ。

 まず、総戸数が少ないマンションは、管理会社に委託する費用が割高になりがち。ところが、高い管理費は払えないとなると、管理会社も管理を引き受けることに及び腰となる。結果、しかたなく管理会社に頼らない自主管理になることが多い。そのようなケースで、アプリ管理が積極的に採用されているわけだ。

 また、総戸数が少なく、古いマンションでは住み続けている所有者が少なく(賃貸として貸し出されるケースが増える)、管理組合の役員・理事が頻繁にまわってくる。管理活動に慣れた人が多くなり、基礎知識が豊富なのでアプリも使いこなしやすい、というのが、2つめの理由となる。

 そして、3つめの理由は、小規模で築年数も古いマンションの場合、管理不全のケースがあることを挙げるべきだろう。

 管理費の徴収も滞りがちで、誰がどれだけ滞納しているかもわからない……そんな状態のマンションでは、管理会社も委託契約をしてくれない。

 ところが、管理不全のマンションのほうでは、お金がかかっても管理運営のすべてを任せたいというニーズが出る。なんとか、今の状況を打破したいわけだ。

 そこで、イノベリオス社はアプリ管理を中心にマンション管理士をつけて管理全般をアシストするサービスを始めた。

 その場合は、アプリ管理の費用に月額6万円程度の費用を追加することになる。それで、管理の健全化を図ることができる。

 ワラにもすがりたい、という管理組合のニーズにも応えているのが、3つめの理由となる。

管理業界全体が、アプリ管理に興味津々

 マンションのアプリ管理は、2年間で着実に成長していた。

 しかしながら、それを手がける会社はイノベリオス社のみ。他の管理会社に追随する動きはみられない。

 理由として考えられるのは、アプリの開発費用が膨大であること、そして、現状、アプリ開発の費用を捻出する余裕が多くの管理会社にないことも理由だろう。

 新たにアプリを開発するよりも、イノベリオス社と提携したほうが現実的と考えているのかもしれない。

 つまり、アプリ管理が今後、どのように伸びて行くかについては、管理業界全体が興味津々なのである。

 といっても、イノベリオス社はすべてのマンション管理を「アプリ管理」にしてゆこうとは考えていない。

 多くのマンションは管理費用が上がっても従来通りの管理方式を採用するはず。しかし、一部は管理会社頼りではない方式を選ぶだろう。

 そのニーズに応えるためのサービスが今、次々に誕生している。

 たとえば、ゴミ収集日、建物内のゴミステーションから収集場所までゴミを運ぶことに特化したサービスを提供する会社が誕生している。

 アプリ管理は、そのような新世代の管理を実現するためのツールのひとつということになる。マンション管理の選択肢のひとつとして、アプリ管理はゆっくりと、そして確実に広まっている。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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