テネリフェは「柴崎フィーバー」に沸くも。日本人MFがこれから挑む難問
スペイン、テネリフェでの「柴崎岳フィーバー」を、地元メディアが盛んに伝えている。
クラブの公式Twitterのフォロワー数は9万前後だったが、一気に9万5千を超えたという。入団会見には50人もの報道関係者が訪れ、会場のキャパを超えてしまった。地元メーカーがCMを依頼なんていう話も出てきた。
これは、90年代に最終節で2度レアル・マドリーに煮え湯を飲ませ、ヨーロッパカップ戦でも上位に進出した「ユーロ・テネリフェ」時代以上の盛況だという。当時とはメディアの構造も大きく変化しているだけに、同じには語れないが・・・。
柴崎の周囲には、すでに狂騒曲が流れている。
これは、危ういサインである。
柴崎が挑むことになる難問とは
予想通り、練習に参加した柴崎のプレーは高い評価で受け入れられたようだ。柴崎のように軽やかに両足でボールを操り、攻撃のビジョンやアイデアを持っている選手は、スペインでも決して多くはない。特長だけで言えば、1部リーグの選手にも匹敵する。
おそらく、テネリフェでも最初は出場機会が与えられるだろう。そして、悪くないプレーをやってのけて見せるはずだ。そして4,5試合は続くだろう。
しかし、本番はそこからだ。
リーガエスパニョーラの選手たちは2部であっても、対戦する相手の特徴を読み取り、つかみとりながら、対応し、技を応酬していく。Jリーグと圧倒的に違うのは、そうした勝負の部分の対応力、適応力にあるだろう。戦いの幅、奥深さというのか。戦術的な理解度という人もいるが、戦闘力とも言えるかもしれない。
おそらく、柴崎のプレーは肌を合わせるうちに読まれてしまう。
三列目から二列目にかけ、フリーでボールを持てた瞬間の柴崎は、無双感が漂う。数多く溢れだしたアイデアから、最も相手に致命傷を与える選択ができる。PASILLO INTERIOR(扉のある回廊)はバックラインを横切るスペースを指すのだが、そこで前を向いてボールを持ったときに、鍵の開いたドアを探し当てられる。これは彼の異能と言っていいだろう。
しかし、中央では相手をはがす強さは足りず、サイドでは抜き去るスピードも足りない。そして、ボランチで守備に回ったときは、ディフェンス強度の低さが浮き彫りになる。また、高さも足りない。
対戦相手は研究し尽くし、対策を立ててくる。
「相手の技術を出させない、弱い部分を抉る」
そう仕向けてくる。技術は持っているだけでは意味がない。出せるかどうかだ。
このとき、柴崎の引き出しが問われるだろう。駆け引きにおいて、相手の対策を上回れるか。
テネリフェのボランチとしてポジション争いをすることになりそうなアルベルト、アイトール・サンスは、どちらもタフで戦術眼が鋭い選手だ。目立った特徴はないが、弱点も少ない。いわゆる、計算が立つ選手である。攻撃的MFではスソ、アーロンは一人で勝負に持ち込める技術を持つ。1対1の強さをそのままチームのアドバンテージにしている。
柴崎はこうした逆風を進むことで力をつけるべく海を渡ったのだろう。
ただ、風はつむじを巻くことを覚悟すべきだ。
新人選手のもたらす熱狂は一つの波が去ると、必ず羨望や嫉妬を生む落とす。スペインでは過去、ほとんどのケースでこの現象が起きている。しかも、日本人選手はスペイン語を理解できない。
「ちやほやされてばかりで、言葉も分からない東洋人にポジションを奪われるんだ!」
ロッカールームでネガティブな風潮ができると、日本人選手は必ず孤立する。こうなっては厳しい。友人関係、信頼関係を築く前に、コミュニケーションが破綻するのだ(こうした現象はスペインやイタリアに顕著で、ドイツやオランダではあまり起きていない)。
「誰も彼のセンスを疑っていない。順応してくれると期待している」
テネリフェのスポーツディレクター、アルフォンソ・セラーノはそう言って、柴崎にエールを送っている。