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雲霧仁左衛門みたいな直秀(毎熊克哉)と「盗賊みたい」と言われるまひろ(吉高由里子)「光る君へ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
大河ドラマ「光る君へ」より 写真提供:NHK

「光る君へ」第4話レビュー

身分が高い低いなど何ほどのこと

「あんなところに座っておったら 尻が痛かろうに」

道長(柄本佑)が、屋根の上から話しかけてきた直秀(毎熊克哉)のことからかうように言った。たしかに。

直秀は散楽の一員で、貴族社会のあれこれをおもしろおかしく皮肉めいた芝居にして、辻で演じて見せている。

脚本家の大石静は、初回放送前のインタビューで、オリジナルキャラクター・直秀についてこのように語っていた。

貴族以外の視点も描きたくて生まれた人物です。紫式部も下級とはいえ貴族です。貴族は当時、1000人くらいしかいなくて、日本の人口がどれくらいだったかはわからないけれど、それにしても0.01%くらいだと思うんです。その1000人だけの世界を描いていては偏ってしまう。当時の庶民の視点を最初に出しておかないといけないと思って、設定したのが散楽の劇団員・直秀です

「光る君へ」初回、衝撃のラストは史実なのか、大石静に聞いた

「光る君へ」より 直秀(毎熊克哉) 写真提供:NHK
「光る君へ」より 直秀(毎熊克哉) 写真提供:NHK

貴族の話ばかりでなく、当時、生活していた庶民代表として、直秀は存在している。でもそれだけだろうか。それと同時に、本来、自由に個人行動のできなかった貴族である、まひろ(吉高由里子)と道長をつなぐ、伝書鳩的な役割も果たしているのだ。

自由にあちこち行き来できる、いわばお役立ちキャラでもある、直秀のおかげで、まひろと道長は偶然の出会いをすることができた。

神出鬼没で、屋根の上から語りかける仕草が、少女漫画のキャラクターのようだとSNSでは評判の直秀。たしかに、昔の少女マンガには、謎のイケメンが、木の上や屋根の上からヒロインをからかうような場面がよくあった。

屋根から語りかける直秀を批評的に表したのが、先述の「あんなところに座っておったら 尻が痛かろうに」である。

直秀はじめ、散楽の人たちは軽業師的な動きができる。第4回「五節の舞姫」では、その力を生かして、雲霧仁左衛門のような盗賊行為を行っていた。左大臣・源雅信(益岡徹)の家に盗みに入ったのだ。

こうやって、お屋敷に忍び込んでは金品だけでなく、貴族の秘密も盗んでいたのであろう。だから、普通は知りえない、藤原詮子(吉田羊)の秘密を演劇化していたのだ。そして、まひろや道長が何者なのかも知っている。

家に盗賊が入ったと語る倫子(黒木華)に、まひろは義賊の存在を語る。直秀であるとは知らずに(その予感はすこしあるのかもしれないが)。

義賊の話は辻で耳にしたもので、「辻も歩けば、馬にも乗ります」と堂々語るまひろに、サロン倫子の、世間知らずの姫たちは「盗賊みたいー」ときゃっきゃと大騒ぎ。まひろは高貴な姫たちとはちょっと違う行動をしているのだ。

まひろはその流れで、「竹取物語」のかぐや姫には「やんごとない人々への怒りや蔑みがあったのではないかと思います」「身分が高い低いなど何ほどのことという考えはまことに颯爽としていると感じました」と持論を述べ、倫子に「私の父が身分が高いのをお忘れかしら」と釘を刺される。

貴族と庶民はまったく違う世界の住人だが、貴族のなかでも厳然なる差異がある。まひろは貴族の娘とはいえ下級。だからこそ、身分の違いで物事が進行する世の習いに不満や疑問を抱いている。

そのときまひろは、道長が身分の高い貴族であるとは知らず、自分のほうがまだ上と思っている。だから、散楽が行われるときにもう一度会おうと思っていたのに、顔を出さない道長に、「なぜ来ないの」「身分などいいのに」と思っているのだ。すれ違いの滑稽さ。

「光る君へ」より まひろ(吉高由里子) 写真提供:NHK
「光る君へ」より まひろ(吉高由里子) 写真提供:NHK

第4回で、倫子の代わりに、まひろが参加する「五節の舞」は、本来、まひろが参加できるものではなく、もっと身分の高い者たちの行事である。

五節の舞は、紫式部(まひろ)が後に執筆する「源氏物語」や「紫式部日記」にも登場する神事で、毎年、11月の丑、寅、卯、辰の4日間にわたり行われる朝廷での新嘗会・大嘗会で、少女たちが舞う。舞姫は公卿と国司の家から選ばれることになっていた。

昨年、この「五節の舞」の場面の撮影に関する記事が発表されたとき、まひろ(紫式部)が五節の舞を舞うことはおかしいのでは、という声がSNSであがっていた。

「光る君へ」ではそれは折り込み済みだったということが、第4回でようやくわかった。まひろは倫子の代わりに参加したのだ。それが、後の「源氏物語」で光源氏が惟光の娘を五節の舞に出すくだり(少女の巻)と重なって見える。

その舞の最中、まひろは、とんでもない秘密を知ってしまった。母ちやは(国仲涼子)を殺しながら、罪を免れている人物・藤原道兼(玉置玲央)と道長が藤原3兄弟であることを。

このときのまひろの心は、道兼への憎悪と、彼と道長が家族であることへのショックがほとんどを占めているとは思うが、自分よりも断然高位の道長に「身分などいいのに」なんて思っていた自分が恥ずかしさもあっただろう。

『光る君へ」より 右:道兼(玉置玲央)、左:道長(柄本佑)写真提供:NHK
『光る君へ」より 右:道兼(玉置玲央)、左:道長(柄本佑)写真提供:NHK

身分という大きな河が、まひろと道長の間に重く横たわっている。この河をふたりがどう渡るのか、渡らないのか。

平安時代の歴史を描くということよりも、平安時代の枠組みやルールに登場人物たちを投げ込んで、そのなかで彼らがどう生き生き泳ぐか、その様子を楽しむ、「光る君へ」はまさに物語が躍動している。

五節の舞で倫子に「お目に止まらな自信がありますの」と卑下するまひろもかわいかった。

倫子も、一見、優しそうで怖い感じなのかと思ったら、そうでもない、知性的な人物のようで、まひろを気に入っているように見える。

また、まひろが舞ながら、ことの真相に気づくところは「ハムレット」の劇中劇のようなスリルもあった。

2月4日放送の第5話「告白」は、道長の秘密を知って寝込んでしまったまひろと、道長の関係はどうなる?

「光る君へ」相関図 提供:NHK
「光る君へ」相関図 提供:NHK

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大 
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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