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「独立リーグ」は北の大地に根付くのか:新しい【プロ野球】のかたちを模索する北海道フロンティアリーグ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
美唄での開幕戦の様子

 2005年に四国アイランドリーグがスタートして18年。日本でも「独立リーグ」という新たな野球競技の場はそれなりのポジションを確立したと言える。その一方で、昨シーズン末、最大規模のルートインBCリーグから日本海オセアンリーグが分立する「騒動」が起こり、続いて北海道ベースボールリーグからも加盟4球団中3球団が脱退を表明し、新リーグを立ち上げるという「お家騒動」が起こった。

 「本場」アメリカでは1993年に2リーグが発足し、「近代独立リーグ」の歴史に幕が開けたが、その後は、分立と統廃合を繰り返しながら、現在に至っている。ある意味、日本においても「いつか見た道」を辿っているのだろう。

 北海道には日本ハムファイターズという「メジャーリーグ」が本拠を置いている。トップリーグ球団と商圏の重なる独立リーグ運営については、潜在的な需要があるという見方がある一方、「メジャー球団」がある中で、「マイナー球団」である独立リーグの運営は困難という意見もある。その中で、北海道の場合は、道央という同一地域に2リーグが展開するという「共食い」状態にある。「北の大地を野球で立て直す」という高邁な精神の下、始まった北海道における独立リーグという取り組みは今後どうなってゆくのか、「新リーグ」である北海道フロンティアリーグの当事者に話を聞いた。

選手たちは地元企業に努めながら野球にとりくんでいる
選手たちは地元企業に努めながら野球にとりくんでいる

「分裂」ではない、ともに同じ未来を見ている

 「くれぐれも『分裂』とは書かないでくださいね。喧嘩別れしたわけではないので」

 リーグ理事も務める石狩レッドフェニックス球団代表の老田(おいた)よし枝はインタビューの冒頭に釘を刺してきた。レッドフェニックスは、新リーグ立ち上げに際して日本ハムファイターズでもプレーした坪井智哉を監督に招聘して話題になった。

 元々、地元石狩でスポーツ関連のビジネスに関わっていた老田が独立リーグの世界に足を踏み入れるようになったのは、北海道ベースボールリーグの創始者で当時の代表だった人物と出会った2年前に遡る。「野球を通じて北海道を活性化させる」というコンセプトに共感した老田は、球団づくりに関わるようになったという。

「最初は、私が代表になるようなつもりはなかったんですけど(笑)。最初、市長さんに相談にうかがったら、『石狩はソフトボールも盛んなんで、きちんとできるようなら応援しますよ』っていうお言葉をいただいて…。それから一緒に運営していく仲間を集めて、スポンサーを募って。気がつけば、代表になっていたんです」

と老田は笑う。

 しっかりした球団を立ち上げようということで、運営会社を立ち上げたが、その資本金は微々たるもの。まさに手作り球団として、スタートを切った。「プロ球団」とは言え、その年間運営費は四国やBCといった老舗リーグとは比べ物にならない。それでも北の大地で独立リーグを運営していく理由を老田はきっぱりと言う。

「やっぱり北海道をにぎやかにしたいですから。野球で盛り上げていきたいというのは(北海道ベースボールリーグも含めて)みんな同じです」

 新リーグ設立に至った理由は、「スピード感」だったと老田は言う。

 新リーグを立ち上げるに至った3球団が目指していたのは、日本独立リーグ野球機構(IPBL)への加盟だった。四国アイランドリーグplus、BCリーグの両リーグによって設立されたこの一般社団法人への加入により、選手の退団後の社会人野球への復帰のハードルが下がる。なんといっても「元プロ」対象の「学生野球資格回復研修」への参加が可能になり、高校・大学レベルの指導者としての道が拓ける。選手のことを考えた場合、とくに後者においてメリットを感じた球団が、IPBLへの加盟を急ぐため、新リーグを設立したのだと老田は言う。

「やっぱり選手たちの将来のことや球団の今後の発展を考えると、そこは急がなきゃならないというのが我々の認識だったんです。でも、向こう(北海道ベースボールリーグとリーグを主導していた富良野球団)は『いつかそのうち』というスタンスだったんですね。そのスピード感の違いですね」

 IPBLへの加盟に関してはそれなりの「加盟料」が発生する。また、組織のあり方に対する審査もある。これらに不安を抱いた「旧リーグ」側は、リーグを運営していく中で漸次ことを進めていこうという姿勢だったが、「新リーグ」組は、これを急いだ。

「だから、我々は先に加盟しますよというだけなんです。先にうちができることをやって、向こうさんも後から来ればいいじゃないかと。だから、交流戦だってやってもいいし、将来的にまた一緒になってもいいわけです」

 老田は、新リーグ、旧リーグとも目指すところは一緒だと力説する。

 新リーグ、北海道フロンティアリーグは、リーグ戦開始に当たってIPBLへの加盟を果たした。「プロリーグ」としてのお墨付きを与えられたと言って良い。

「ウィズ・キャリア」という新たなコンセプト

 ただ、北海道ベースボール時代からもそうだが、「プロリーグ」としての北海道の両リーグのあり方については、少々疑問が残るのも確かだ。「プロ」であるにもかかわらず、両リーグの選手たちは、野球での報酬はなきにひとしい。この疑問については、リーグ代表の荘司光哉は、独立リーグの新たなあり方の模索だとする。

 彼自身、老田と同じく、もともとは地元の企業家である。独立リーグに関わるようになったのも、老田同様、北海道ベースボールリーグ創始者である当時のリーグ代表との接触がきっかけだったという。現在も、自身の会社経営とリーグ、球団運営の二足のわらじで毎日奔走している。

「もちろんどのリーグも地域と一緒に歩むという姿勢は変わらないとは思うんですけど、我々はそれをよりいっそう、そこを第一の目標にしてやっています」

 つまりは、独立リーグが担う、「上位リーグ(NPB)への選手輩出」という役割より、「北海道の地域活性化」という地域密着策により重点を置いているということだ。これはもともと旧リーグである北海道ベースボールリーグが立ち上げたコンセプトでもある。

「もちろん独立リーグと名乗っている以上、NPBへ選手を送るという目標は置いてはいるんですけど、北海道でやらせていただいている以上、道庁や各自治体からの後援もいただいていますので、地域の中でのセカンドキャリアということに重点を置いています」

 これを荘司は「ウィズ・キャリア」と表現する。野球競技継続の場を若者に与える一方、地域での就労を促し、独立球団によって地域の若年労働力を確保しようというわけだ。

「その部分は、IPBLにもご理解いただいていると思います。このウィズキャリアを含めたプログラムを認められて加盟を認められていますので。もちろん、プロリーグというかたちでやらせていただいている以上、(北海道ベースボール時代の)昨年から球場に足を運んでいただくということは地道にさせていただいていますが」

 選手たちの契約はAからCの3段階。Cランクは「育成契約」扱いなので無報酬だ。リーグでは上限25人の選手登録内で各ランクの人数を決めて選手待遇を統一するよう努めている。それでも最高のAランクで月額10万円以下となっている。選手たちは、球団が用意する寮やアパートなどの住居費などは自己負担するので、正直なところ球団からの報酬では生活できない。それを補う意味もあり、選手たちに地元企業への就労を斡旋する。というより、この就労は義務化されていることを考えると、むしろこちらの方に主眼が置かれているのが現実だ。

 選手は、基本的に、地元企業で平日はフルタイム、もしくは半日就労し、平日の午後、夜に練習し、週末に公式戦を行う。その中から、競技生活を終えた後も、地元に残る人材を育てるというのがコンセプトだ。これにより過疎化の進む、北海道の地方都市を活性化させようというのが狙いだ。

 しかし、このことは選手サイドから見れば、「プロ」としての独立リーグに在籍することのメリットを放棄することにもなりかねない。彼らにとってはたとえ薄給であっても、独立リーグでプレーする最大のメリットは、「上位リーグを目指して野球漬けの日々を送れること」にあるはずだ。

「それについては、IPBLからもご理解はいただいていると考えています。独立リーグも球団数が増えて選手の方向性も多様化してきています。もちろん競技に専念したいという選手もいるだろうし、NPBを目指す選手もいます。一方でとにかく野球を続けたい、上位の独立リーグが目標という選手もいますから。だからうちでは、そういう選手も受け入れようということです」

 他の独立リーグに進む選手がいれば、喜んで送り出すと荘司は言う。その結果、競技レベルにおいて、他リーグに劣ることになるのも仕方がないと考える。

「元NPB選手がいるようなリーグとは全然違うでしょうね。我々はあくまで『野球で北海道の未来を拓く』というスローガンの下、北海道と一緒にやっていくという考えですから」

 持続可能性という点では、この方針は身の丈に合っていると言えるだろう。これまで「プロ」の看板に拘泥するあまり、算盤勘定がうまくいかず破綻したリーグや球団は少なくない。

 少ない予算ながらも、北海道フロンティアリーグは、「若者への競技継続の場の提供」と「野球を通じた地域活性化」という二兎を追おうとしている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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