イスラエルがシリアのダマスカス、アレッポ国際空港を再び爆撃:非難を免れる理由はどこにあるのか?
パレスチナのハマースが10月7日にイスラエルに対する「アクサーの大洪水」作戦を開始し、イスラエルがガザ地区を封鎖し、爆撃を続けるなか、再びシリアがイスラエルの標的となった。
「アクサーの大洪水」作戦開始以降の侵犯行為
イスラエルがシリアに対して爆撃をはじめとする侵犯行為を行うのは、今年に入って32回目、ないしは37回目となる。このうち、「アクサーの大洪水」作戦開始以降、イスラエル軍がシリアに対して行った侵犯行為は以下5件、ないしは7件である。
10月10日午後2時半頃
シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸のイラク国境に位置するブーカマール市近郊の複数ヵ所に対して、戦闘機1機が爆撃した。反体制系メディアのナフル・メディアやノース・プレスによると、これにより、イラン・イスラーム革命防衛隊が管理し、「イランの民兵」が物資の輸送に使用しているハリー村の非正規の国境通行所(鉄道通行所)、ブーカマール市一帯に設置されているイラン・イスラーム革命防衛隊の陣地複数ヵ所、パレスチナ人民兵組織のクドス旅団の陣地が狙われた。ハリー村の通行所には、爆撃時に10月9日午後にイラクからシリア領内に入った貨物車輌12輌が駐車していたという。また爆撃は、シリア領内に限られず、ブーカマール国境通行所に面するイラク側のカーイム国境通行所に近いハスィーバ地区にも及んだ。
爆撃を行った戦闘機の所属は不明だ。だが、これまでに同地に対して有人・無人爆撃機によって爆撃を行ったことがあるのは、イスラエルと米主導の有志連合以外にはない。
10月10日午後10時半頃
イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官は同日午後10時半頃、シリア領内(シリア政府支配地)からイスラエル領内(占領下ゴラン高原)に向けて多数の砲撃があり、その直後にイスラエル軍が、砲弾が発射されたシリア領内の複数ヵ所を砲撃したと発表した。英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、政府支配地に砲撃を行ったのは、ヒズブッラーとともにシリア国内で活動しているパレスチナ諸派で、イスラエル軍が砲撃したのは、シリア政府支配地(スィースワーン地区)内のシリア軍の拠点や装備だったという。
10月12日午後1時50分
シリアの国防省が発表した声明によると、イスラエル軍がダマスカス国際空港とアレッポ国際空港に対して多数のミサイルで爆撃を行い、これによって両空港の滑走路が損害を受け、利用不能となった。スプートニクス・アラビア語版によると、イスラエル軍は占領下のゴラン高原上空からミサイルを発射、イスラエルのチャンネル10によると、爆撃は10日のシリア政府支配地からの砲撃への報復、シリア人権監視団などによると、イランがシリアを経由してヒズブッラーに武器や装備を供与するのを阻止するのが狙いだとされた。
10月14日午後11時35分
国防省の声明によると、イスラエル軍がラタキア県西の地中海上空からアレッポ国際空港に対してミサイルで爆撃を行い、これによって物的損害が生じ、同日午前8時に復旧したばかりの空港が利用できなくなった。
10月16日晩
スプートニク・アラビア語版によると、イスラエル軍の無人航空機(ドローン)複数機が首都ダマスカス西方に飛来、シリア軍がこれを迎撃した。一方、シリア人権監視団は飛来したドローンが1機だったとしたうえで、シリア軍の迎撃は失敗、ドローンは帰還したと発表した。
10月17日(時刻不明)
ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、所属不明の無人航空機(ドローン)複数機が、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のブーカマール市近郊にあるサーリヒーヤ町一帯にある「イランの民兵」の陣地1ヵ所や四輪駆動車1台に対して爆撃を行った。爆撃による死傷者はなかった。
なお、今年に入っての侵犯行為の回数を32回目、ないしは37回目としたのは、攻撃主体を特定できない侵犯行為が5件あるためである。5件のうち3件は「アクサーの大洪水」作戦以前の8月13日に首都ダマスカス西の山岳地帯で発生した爆発、9月5日にダイル・ザウル県ダイル・ザウル市に対して行われたドローンの爆撃、そして10月1日にダマスカス郊外県クラー・アサド村で発生した4回の爆発で(「イスラエルが「イランの民兵」を狙ってシリア南東部のダイル・ザウル県各所を爆撃:沈黙する欧米、ロシア」を参照)、残り2件は上述した10月10日と17日のダイル・ザウル県ブーカマール市近郊に対する爆撃である。
5回目、ないしは7回目の侵犯行為
「アクサーの大洪水」作戦開始以降5回目、ないしは7回目となるイスラエルのシリアに対する侵犯行為は、10月22日、ダマスカス国際空港とアレッポ国際空港に対して行われた。
シリアの国防省の声明によると、10月22日午前5時25分頃、イスラエル軍はラタキア県西の地中海上空方面と占領下ゴラン高原方面から多数のミサイルを発射し、ダマスカス国際空港とアレッポ国際空港を爆撃、これによってダマスカス国際空港で民間の職員1人が死亡、1人が負傷した。また、18日に復旧したダマスカス国際空港と16日に復旧したアレッポ国際空港の滑走路が損害を受け、利用不能になった。
「アクサーの大洪水」作戦開始以降のイスラエルの攻撃によってシリア国内で死者が出るのはこれが初めて。シリア人権監視団によると、ダマスカス国際空港に対する爆撃で負傷していた1人も死亡、死者数は2人となった。
シリア運輸省は声明を出し、ダマスカス、アレッポ両国際空港がイスラエル軍のミサイルによる爆撃で航空機の運航が不可能になり、乗客の移動やニーズなどに混乱が生じたとしたうえで、両空港に旅客便を就航している各航空会社に対して、フライトのキャンセルの有無、旅程の変更などについての変更の進捗を随時公開するよう呼びかけた。
また、ダマスカス国際空港に対する爆撃で死亡した航空管制局職人のアンマール・アブー・イーサー氏を追悼し、遺族に哀悼の意を示すとともに、負傷者が必要な治療を受け、一刻も早く回復することを願うと表明した。
外務在外居住者省も声明を出し、パレスチナのハマースがイスラエルに対して「アクサーの大洪水」作戦を開始してから、イスラエルによる犯罪行為の継続は、その敗北とヒステリーの増大の新たな証拠だと非難、そうした感情は、シリアを弱体化させ、パレスチナ人民の解放闘争への支援を阻止しようとするあらゆる試みに、シリアが毅然と抵抗してきたことの結果だと断じた。
シリア人権監視団が複数筋から得た情報によると、イスラエル軍は両空港においていかなる武器も標的としておらず、また「イランの民兵」の武器を積んだ貨物機の到着は確認されなかったという。
パレスチナのガザ地区では、イスラエルによって連日続けられている爆撃や包囲、そして秒読み段階に入ったとされる地上作戦に対する非難の声が上がっている。その矛先は主にイスラエルの行為が、国際法や国際規範の違反に対して向けられている。
同じような非難の声は、シリアに対するイスラエルの攻撃に対して上がってしかるべきではある。だが、欧米諸国や日本のメディアにおいて、イスラエルがシリアで繰り返してきた侵犯行為が取り上げられることは驚くほど少ない。あるいは、欧米諸国や日本の価値観に抗う国(低俗な呼称で言うところの「独裁国家」)での出来事として、「仕方ないこと」、あるいは「当然のこと」として一蹴されているようである。