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天才児の育て方:ハイクオリティ中学生38912 DIGITALさんの記事を読んで

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■中学3年生が一人で作った映像作品がすごすぎ

YouTubeに投稿された「2045」という自主制作映像がすごいと話題となっています。映像そのもののクオリティの高さはもちろん、作者の「38912 DIGITAL」さんは、なんと2000年生まれ。まだ中学3年生だというから驚きです。

出典:これを独学で!? 中学3年生が自主制作した映像作品がハイクオリティすぎて将来性の塊 ねとらぼ 2月29日

中学生でなくても、素人が一から全部一人で作った作品として秀逸。しかも38912 DIGITALさんは、独学で学んだそうです。将来が楽しみです。

■天才児の育て方

天才児の育て方と言っても、普通の子を天才にする方法ではありません。こどものころ何か特別なことをすると天才になるわけではありませんから。そうではなくて、才能に恵まれた人を、あなたの家庭で、私たちの社会で、どう育てるのかという問題です。

天才、生まれつき天性の才能を持った人、神童と呼ばれるような人はいるものです。統計学的にいえば、全体の上位2%は、なかなか大したものです。

知能(学業成績)、スポーツ、芸術、IT分野などで、すばらしい才能を示す人たちがいます。おそらく、生まれつきの優れた能力があり、子どものころからその能力を活かす環境があったのでしょう。

記事によれば、「小学1年生のときに映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のVFXを見て感動したことがきっか」で、「小学3年生のころには家のPCで映像編集や画像加工」を始めたそうです。才能、やる気、環境、が伴わないと難しいことです。

他の分野でも基本は同じでしょう。スポーツチームに入れたり、芸術の偉い先生を指導につけたり、あるいは海外留学をさせてもらった青少年達が、豊かに才能を開花させ、成功者の道を歩みます。

ただ、その道は険しいものです。

■天才達の挫折

たとえば、天才と言われるほどテニスが上手い少年。周囲には敵なしです。みんなの期待と恵まれた環境によって、海外の超一流のテニススクールに入学します。しかし、そこで挫折する少年達がいます。失意の中で帰国し、二度とラケットを持たない子もいます。みんなが錦織圭選手のようになれるわけではありません。

そこまでの才能だったのだと言えばそうですけれども、もしも普通の中学校高校でテニスを続けていたら、一流のプロにはなれなくても、きっと全国大会で活躍できていたでしょう。どこかで挫折したときの支えが必要です。

中学生でオリンピックに出たり、天才子役として大金をかせぐ子もいますが、その後長く苦しむことになる人もいます。

アメリカでは、飛び級で幼い子どもが大学生になることもあります。小学校の授業はあまりにも簡単すぎて、大学の授業がちょうど良い子どもです。小学校では上手く行きません。

ところが、いくら勉強ができても、子どもは子どもです。他の大学生たちの輪の中にはいって、一緒に青春を楽しむことはできません。せっかく入学した大学なのに、上手く行かない子達もいます。その結果、天才的能力のある分野とはまったく畑違いの職業につく青年もいるほどです。

知的障害や身体的障害のある子達が能力を生かして幸せに生きるためには、配慮や特別な支援が必要です。同様に、天才達にも配慮と支援が必要なのです。

■38912 DIGITALさん

今回の記事では、匿名ですね。記事ではインタービューをしているようですが、顔写真も出ていません。報道記事ならば、本当はどこの誰という情報は必要なのかもしれませんが、本人と関係者が様々考えた結果でしょうか。

小さいころの才能を騒がれすぎて、つぶれていく人は大勢います。騒がれながらも、自分を失わず、成功を重ねていく人たちは本当にすごいと思いますが、周囲の大人たちがもう少し配慮すれば上手くいっていたケースもあるでしょう。

インタビューに答えて、38912 DIGITALさんは言っています。「学校なども忙しくなるのでしばらく公表できる作品が作れるかどうかは分かりませんが、趣味である映像制作は続けていきたいと考えています。まだまだ技術不足なのでこれからもさらに映像を学んで行けたらなと思います」。

とても落ち着いたお答えですね。

才能を持った子ども達には、ぜひその才能を活かせる環境を与えたいと思います。どんどん才能を伸ばして欲しいと思います。同時に、その分野以外の豊かな体験をさせ、総合的な支援をしていきたいと思います。

ノーベル賞やアカデミー賞を取るような人たちも、野原を駆け回り、友情を育て、読書をし、バラエティに富む経験を重ねてきました。アカデミー賞をとったスタジオジブリの宮崎駿さんも、アニメしか見ない人間に良いアニメは作れないと言っています。

能力を開花させ、そして幸せな人生が歩めるように、子ども達を支援したいと思います。

作品の中で彼が伝えようとしているように、私たちには子どもという希望があります。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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