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北京五輪で快進撃を続ける女子アイスホッケーの裏で内部に不協和音を発生させてしまったアジアリーグの現状

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
公式戦が延期になり急きょ紅白戦を実施したアイスバックス(提供アイスバックス)

【アジアリーグ内で発生した不協和音】

 北京五輪で女子代表チーム「スマイルジャパン」が史上初の決勝トーナメント進出を果たし、アイスホッケーが脚光を浴びる中、国内では男子のアジアリーグが公式戦開催を巡り、不協和音を生じさせている。

 今シーズンから企業チームがすべて消滅し、独立自営のプロチームだけで構成されるようになり、アジアリーグとしても今シーズンは更なる飛躍を期すシーズンだったはずだ。

 本来ならリーグとチーム、選手の間で内輪もめしているような場合ではなく、すべての関係者が一丸となってリーグ運営に邁進すべきところなのだが…。

 果たしてアジアリーグに何が起こったのだろうか。

【リーグ側の判断で先週末の4試合を延期に】

 事の発端は、2月5、6日に予定されていたひがし北海道クレインズ対横浜GRITS戦とH.C.栃木日光アイスバックス対東北フリーブレイズ戦の計4試合が、リーグの判断で延期になってしまったことだ。

 ちなみに今シーズンのアジアリーグは上記の4チームに加え、レッドイーグルス北海道、アニャンハルラ、サハリンの7チームで構成されているのだが、コロナ禍ということで現在は「ジャパンカップ2021」と称し、国内5チームのみでリーグ戦を戦っている。

 この延期決定に対し、本拠地アリーナで開催予定だったアイスバックスが公式サイト上に声明文を発表し、リーグの決定に不満を表明することになったのだ。

 アイスバックスの主張は非常に明確で、以下の3点から延期を決定したリーグの判断に疑義を呈している。

 ・各チームとの事前協議や合意形成の会議等が開催されない中でのチェアマンによる決定は、ガバナンス上、合理性と正当性を欠いていること

 ・現状、栃木日光においては国体が開かれ、他の競技においても試合が実施されている中、日光の試合を中止する、一定レベルの科学的かつ納得性のある根拠の提示と議論の必要性について

 ・翌週以降のリーグ運営の展望について

【福藤選手「一方的な決定だったんじゃないか」】

 アイスバックスに追随するように、アイスバックスに所属し、昨年設立された日本アイスホッケー選手会の会長を務める福藤豊選手も、選手会の公式サイトを通じて声明文を発表し、やはりリーグの決定を疑問視している。

 そこで今回の一連の事態について、選手の立場から感じた思いを率直に語ってもらった。

 まず延期に至るまでの流れについて…。

 「僕たちは協議の場に参加していたわけではないので詳細は分からないですが、日光の試合に関しては延期にする理由がないんです。リーグが出しているガイドラインに従い、試合を実施できるという環境は整っていました。

 『開催できる試合は積極的に開催していく』というリーグの方針も聞かされていましたし、僕たちは試合ができるものだと思っていました。2月4日の練習前にチームから延期になる可能性があるとの報告を受けていて、最終決定は午前11時にリーグから連絡が入ることになっていたんですが、結局連絡があったのは真夜中だったみたいです。

 選手たちは試合が延期になる理由も分からなかったので、できる可能性があると信じて試合の準備をすることに集中していた感じですね。

 チームとしてはギリギリまで協議を続けていたと思うんですけど、リーグの決定に納得できていないということは、一方的な判断だったんじゃなかったのかと考えています。うちは最後まで納得できていません」

 福藤選手によれば、アイスバックスの声明にあるように、アイスバックスの本拠地アリーナで1月26~30日の日程で国体が開催され、無事に全試合を消化している。またアイスバックスのチームスタッフも、選手として国体に参加していたと話してくれた。

【リーグが定める基準はクリアしていたはず】

 アジアリーグの公式サイトに掲載されている「開催判断基準」によれば、以下のような項目がある。

 「当該試合の開催が困難であるとチェアマン及びジャパンオフィスチーフが判断した場合、当該試合は中止することができる。試合開催判断は、当該試合開催日の午前10時までに行うものとする」

 これを読む限り、試合実施の最終決定者はリーグでありチェアマンなのは明らかだし、先週末の試合に関しても2月5日の午前10時までに判断すればいいわけで、今回の延期通達も決して遅かったわけではない。

 ただし「開催が困難である」と判断するための基準が設けられており、福藤選手が説明するように、今回のアイスバックスはそれらの基準をすべてクリアしていたことになる。

 しかも開催判断基準には、基準がクリアできなかった場合でも「当該チームは、ジャパンオフィスに連絡し、試合開催に向けて最大限努力しなければならない」とも記されている。アイスバックスは最大限の努力をしたのに、試合を開催することができなかったのだ。

 またアジアリーグの公式サイトには、ニュースリリースとして今回の延期理由を公表しているのだが、今回延期された4試合が、リーグの定める基準に達していなかったかどうかについては一切触れず、「全国的に新規陽性者数の増加がとどまらない状況であることを踏まえて」と曖昧な説明に止まっている。

 確かにここ最近のアジアリーグは各チームで陽性反応者が確認され、1月15日に予定されていたアイスバックス対レッドイーグルス戦を皮切りに、リーグ全体で計10試合が実施できない事態に追い込まれていた。

 だが今回のケースは、明らかに事情が異なる。アイスバックスは試合を実施できる環境を整えていたのだから、リーグが自ら定めた基準を無視したと捉えられても仕方がないだろう。

【アジアリーグから回答は届かず】

 そこでアジアリーグの公式サイトを通じ、「アイスバックスが指摘する3点について回答する考えはあるのか?」と「同じくシーズン中にあるBリーグやリーグワンがガイドラインに則って試合を開催している中、なぜアジアリーグは基準に則った決定をしなかったのか?」の2点について質問状を送ったのだが、残念ながら要望していた期限までに回答をもらうことができなかった。

 結局延期を受け入れるしかなかったアイスバックスは、2月5日にファンのために紅白戦を実施することを決め、ネット上で生配信している。

 福藤選手は前述通り、選手会長として声明を発表したわけだが、その複雑な胸中を明かしたくれた。

 「今シーズンから全チームがプロチームになり、やはり集客やスポンサーが大切になってきます。それなのに試合ができないとなれば、チームだけでなく、選手の生活にも影響してきます。もう少しリーグには危機感を持ってほしいです。

 選手会を立ち上げたのも、リーグと対立するのではなく一緒に盛り上げていこうと話をしてきた中で、こうした決定をされてしまっては、僕としては限界だったし、声を上げるしかありませんでした。

 オリンピックで女子が頑張ってくれている中で、正直こんなことをしたくはなかったです。(声明の)文章を考えながら悲しくなってました」

 アイスバックスや福藤選手たちの思いは、リーグに届いているのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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