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波にさらわれて溺れるってどういうこと? 8月10日と11日は要注意

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
波にさらわれた瞬間。数秒で10 m以上流されることも(筆者撮影)

 「人が海岸で波にさらわれた」という水難事故がある日に集中して発生しています。波にさらわれるとはどういうことでしょうか。そしてなぜある日に集中するのでしょうか。8月10日と11日の海岸は要注意です。

ある日に集中する水難事故

31日午後6時9分ごろ、茨城県鉾田市滝浜のヘッドランド(人工岬)北側、通称滝浜エメラルドビーチで、同所、ベトナム国籍の27歳と24歳の工員男性2人が波に流された。その後24歳男性は自力で海岸に泳ぎ着いたが、27歳男性が行方不明になった。

7/31(土) 20:53 茨城新聞社

31日午後、静岡県磐田市の海岸で、溺れた人を救助しようとした男性が溺れて意識不明の重体となる事故があり、病院で手当てを受けています。午後4時40分頃、磐田市豊浜の福田漁港東側の海岸で、溺れた人を救助しようと数人が海に入ったところ、男性1人が溺れて意識不明の重体となりました。(中略)また午後4時過ぎ、下田市と河津町の海水浴場では男性3人が相次いで波に巻き込まれて海底に頭などを打ち、病院で手当てを受ける水難事故が相次ぎ、警察が注意を呼びかけています。男性3人は命に別条はないということです。

7/31(土) 21:25 テレビ静岡

1日午後2時52分ごろ、茨城県神栖市日川の日川浜海水浴場で、海水浴に来ていた同市内の男子児童(8)が波に流され、児童を助けようと海に入った男性も波に流された。児童はサーファー男性に救助されて軽傷。助けに海に入った男性もサーファー男性2人に救助されたが、搬送先の病院で死亡が確認された。

8/1(日) 18:23 茨城新聞社

 一見するとそれぞれがあまり関係のなさそうな水難事故ですが、これらは「波に流された」とか「波に巻き込まれた」とかいう表現で一致しています。

 さらに事故によっては「波にさらわれた」という表現も使われます。そして海岸の水難事故は静岡県と茨城県のように遠く離れた場所にもかかわらず、同じような日に発生するという特徴があります。

波にさらわれて溺れるとは

 「波に流された」「波に巻き込まれた」「波にさらわれた」という表現ですが、意識してニュースを読まれたことはあったでしょうか。

 海での水難事故を扱ったニュースの表現を集めてみると、「波に流された」「波に巻き込まれた」と言う時には、事故に遭った人が海水浴中やサーフィン中だったように、海に入っていた場合に多く使われています。一方、「波にさらわれた」と言う時には、事故に遭った人が海岸を散歩していたりして海に入っていなかった場合に多く使われています。

 波にさらわれるって、あまりイメージがわかないかもしれません。「今日は天気があまりすぐれないから、砂浜で波と戯れて遊ぼう」と、泳ぐつもりはないのに波にさらわれて溺れる事故を再現しました。動画1をご覧ください。

動画1 砂浜海岸で波にさらわれた様子。波の高さは人の背丈より低い。被験者二人は赤十字水上安全法指導員で水中での自己保全ができる。さらに陸上には救助要員を配置している。調査は予め地元の海上保安署に届けてある(水難学会撮影 47秒)

 動画の最初です。一人が砂浜に座り込んでいます。もう一人が少し沖にいて砂浜に戻ろうとしています。そのもう一人がなんとか歩いて戻ってきていますが、座り込んだ人は腰が抜けたように立ち上がれません。

 動画の中盤では二人がくっつきあい、手をつないで波から脱出をはかっています。その後、新たな波を受けてひっくりかえっています。起き上がろうとしますが、さらなる波に倒されたことで自然と陸地に流されて帰ってきました。

 二人とも水難救助のエキスパートですが、これくらいの波でも体の自由が利かず、波に遊ばれている感がありました。なんとなく二人仲良く遊んでいるようにも見えますが、実際の現場であればこれはまさに溺れる直前の様子でもあります。

 次に動画2をご覧下さい。これは動画1のような状態になるきっかけの部分です。

動画2 砂浜海岸で人がもみくちゃにされる様子。被験者二人は赤十字水上安全法指導員で水中での自己保全ができる。さらに陸上には救助要員を配置している。調査は予め地元の海上保安署に届けてある(筆者撮影 1分47秒)

 二人のうちの一人がカメラで実況を撮影しています。最初、一人が突然襲ってきた波で砂浜に倒れこみます。立ち上がろうとして立ち上がれず、そのまま回転しながら流されていきます。被験者によれば、最初にゴロゴロ転がるのは回転が始まって「止めようと思ったが止まらなかった」そうです。そのまま波に吸い込まれていく様は、これが現実です。

 そして、次の波が襲ってきました。一瞬姿を見失いますが、次に姿が見えたのはすでに15 mほど沖に流されたあとです。ほんの1、2秒でこれだけ流される威力、これが「波にさらわれる」という現象です。専門用語では戻り流れと言います。

 波にさらわれる事故では、まずこのようにして流された子供を大勢の大人が追いかけて、そしてさらなる犠牲者が出るのです。

波にさらわれる海岸の特徴

 こういう砂浜海岸では過去に何回か波にさらわれる事故が繰り返されています。遊泳禁止の看板が必ず掲示されています。でも、波が穏やかだととても安全な海岸に見えてしまいます。そういう時に遊んでも全く危険性を感じません。それが、沖合からうねりが入ってきた瞬間から海が豹変し牙をむきます。

 こういう危ない海岸の特徴は、砂が流れやすく、しかも砂浜の傾斜が比較的あることです。

 砂浜に波が上がってくれば、かならず沖に向かって引きます。砂が流れやすいと人は砂とともに流されて海に引きずり込まれていきます。だから、動画1と2でみたように、なかなか立ち上がれないのは、砂が流れていて足元がすくわれているからなのです。

 また、流されやすさは砂浜の傾斜がきつければきついほど高くなります。斜面を滑り落ちていく様は、ため池水難にも通じるところがあります。一度飲み込まれたら、這い上がることはできません。

【参考】ため池に落ちると、なぜ命を落とすのか

8月10日と11日は要注意

 上述した水難事故は遠く離れていても関連がありました。ポイントは2つあります。ひとつは、7月31日朝に関東の南東に熱帯低気圧があったことです。それが徐々に北進して、茨城県沖を通過したのがその日の夜です。もうひとつは、夏の土日で休日を海岸で楽しんでいた人が多かったことです。

 台風などで発生した風は台風の周囲で高い波を発生させます。それらは1日で500 kmくらいの速度でうねりとなって進みます。東京と大阪との間を1日かけて進むようなイメージです。そのうねりが静岡や茨城の海岸に到達したころ事故が発生したと考えられます。

今日、8月10日は台風9号から変わった低気圧が東北地方を抜け太平洋に出る予想です。各地に暴風を巻き起こした台風です。台風が去ったとは言え、うねりについては500 km離れた場所で1日遅れ。一般には実際の台風の位置よりも、少し遅れて波の影響があると考えるとよいです。そのため、海岸を歩くだけだと言ってもここ数日は波にさらわれないように注意が必要です。

 今日と明日11日は関東から西の各地で気温が上がりそうです。そしてお盆でお休みされている方も多いのではないでしょうか。晴れて暑いとはいっても、海に近づくのであれば波にさらわれないように要注意です。でも、できれば海には近づかず、冷房の効いた部屋の中でのんびりすることをお勧めします。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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