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無名の存在からドラフト指名候補に! BC栃木・石田駿が歩んできた超日陰人生からの完全脱却

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今やドラフト指名候補として注目を集めるBC栃木の石田駿投手(筆者撮影)

【NPBからも注目されるBC栃木の23歳右腕】

 9月11日の栃木県小山運動公園球場。この日BCリーグの栃木ゴールデンブレーブス(以下、BC栃木)は茨城アストロプラネッツを迎え、今シーズン初のナイター試合を戦っていた。

 この日はBC栃木との再契約が発表されたばかりの西岡剛選手のホーム初戦であり、しかも西岡選手と合同会見を行い、同チームの入団が決まった川崎宗則選手の存在も手伝って(この日は出場せず)、観客席にはいつも以上に多くのファンが集まった。

 試合は立ち上がりからBC栃木の打線が爆発しやや一方的な展開になる中、9-3の6回からBC栃木は2番手の投手がマウンドに上がると、バックネット裏に陣取っていたNPBチームのスカウトたちの動きがにわかに慌ただしくなった。この投手が彼らから注目されているのは、一目瞭然だった。

 投手の名前は、石田駿。今年3月に九州産業大を卒業し、今シーズンからBC栃木に加入した23歳の右腕投手だ。

 シーズン開幕から目を見張る快投を続け、すでにスポーツ紙や野球専門サイトなどで取り上げられる存在になっている。

【13試合ぶりに失点されるも3奪三振】

 この日の石田投手は先頭打者に四球を与えると、次打者が放った二遊間の詰まった当たりが内野安打となり、無死一、二塁のピンチを迎えてしまう。

 ここからやや力んでしまった石田投手は制球を乱し、暴投で無死二、三塁とピンチを広げ、三振で1アウトを奪った後にどん詰まりの小飛球が遊撃手の頭を超え、7月29日以来13試合ぶりに失点を許してしまう。

 さらに2四死球を与え2点目を献上したものの、点差もあることからチームはそのまま続投。そこから石田投手は踏ん張りを見せ、2者連続三振でイニングを投げ切った。

 3四死球と制球の乱れはあったものの、打たれた2安打はいずれも詰まった打球で、奪ったアウトはすべて三振。この日も速球は148~151キロを計測し、常に相手打者を圧倒し続けた。それでも試合後の石田投手は「自分で苦しいカウントをつくって不利な状況から入ってしまった」と、真っ先に反省を口にした。

バックネット裏で石田投手の投球をチェックするNPBスカウト陣(筆者撮影)
バックネット裏で石田投手の投球をチェックするNPBスカウト陣(筆者撮影)

【2つの大きなケガで高校、大学7年間で公式戦登板はほぼ皆無】

 すでにスポーツ紙などで紹介されているように、石田投手はBC栃木入りするまでまったく無名の存在だった。それもそのはずだ。高校、大学の7年間で公式戦登板はほとんどなかったのだ。いかな優秀なスカウトでも彼を発見するのは無理な話だった。

 それは石田投手が、2度にわたり不運なケガに見舞われていたことが大きく影響している。1度目は高校時代に足首を骨折し、2度目は大学時代で左ヒジを骨折してしまった。もちろん骨折はリハビリも含め完治に相当の時間がかかることもあり、長期間練習にすら復帰できない状態に置かれてしまった。

 そうした状況が高校、大学で立て続けに起こってしまったことで、登板の機会を失っていった。結局高校1年の秋の新人戦を最後に、公式戦に登板できないまま大学の卒業を迎えることになった。

【BC栃木デビュー戦でいきなり153キロを計測】

 それでも石田投手は、自分を見失うことなく自分の投球と向き合い続けた。その1つが、大学4年で行った投球フォームの修正だ。あくまで自分が理想とする投球を目指してずっと取り組み続けた。

 そしてBC栃木入りした最初の試合で、最速153キロを計測。当然のごとく関係者を驚かせることになった。そこから石田投手の注目度は俄然高まることになった。

 「(いきなり150キロが出るとは)思っていなかったです。150を目標にいつか投げるぞという気持ちでいたので、それが(BC栃木に)入って1発目の試合で出たのであれ?みたいな(笑)…。

 正直ここまで注目されるとは思ってなかったです。自分でもビックリしています」

【今も実戦を重ねながら進化し続ける】

 いきなり関係者を驚かせた石田投手だが、その投球は今も進化し続けている。約6年もの間、公式戦に登板してこなかった彼にとって、今まさに経験を積み重ねている時期だ。投げる度に課題を見つけ、確実に投手として成長を続けている。

 寺内崇幸監督も、石田投手の成長を確認できている1人だ。

 「率直に(これまで公式戦で)投げていない投手とは思えない投手だと思います。(やはり150キロ右腕として注目される)山田綾人もそうですけど、みんな自分たちでちゃんと練習できるというか、自分が上手くなりたいという意志を持ちながら、コーチにも相談しつつ自分のやるべきことをできる子たちだと思っています。結果もついてきていると見ていますし、プロ(NPB)に行くための準備もできていると思います」

 もちろん石田投手本人も、自分が成長していることを実感できている。

 「自分の中でリリースポイントの位置と、(腕が)上がってくる位置のポイントをラインで決めるという意識でずっと取り組んできていて、変化球もなるべく腕を振るということで、梅雨も明けて身体も動くようになってきたので、それで大分(投球が)まとまってきました」

 現在は150キロ前後の真っ直ぐに加え、120キロ前後のカーブ、130キロ台のシンカーを投げ分ける。またカットボールとスプリットの習得にも取り組んでおり、さらに投球の幅を広げようと努力している。

13試合振りに失点し厳しい表情でマウンドを降りる石田投手(筆者撮影)
13試合振りに失点し厳しい表情でマウンドを降りる石田投手(筆者撮影)

【背中を押してくれたある先輩の一言】

 こうしてBC栃木入りしたことで、いきなりNPBからも注目される存在になれた石田投手だが、これまでまったく公式戦で投げてこなかった投手がNPB入りを目指し、独立リーグに挑戦すること自体、相当な勇気と覚悟が必要だったはずだ。

 実は大学時代に石田投手の頑張っている姿を見てきた、1人の先輩が「お前はそのまま前に進んでいけばいい」という言葉をかけてくれた。この先輩は石田投手が絶大な信頼を寄せる人物で、その一言が見事に彼の背中を押してくれることになった。

 そして石田投手は今もその先輩の言葉を胸に、NPBを目指し真っ直ぐにその道を突き進もうとしている。

 「そこを目指してきているので、そこに行くまでの道のりは明確にしておかないといけないと思いますし、そこはちゃんと見ています」

 果たして石田投手は彼の夢を実現することができるのか。早くも今年のドラフトが楽しみで仕方がない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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