「新・ガザからの報告」(38)2025年1月2/3日―川上泰徳氏の批判への回答ー
2023年12月31日に、中東ジャーナリスト・川上泰徳氏からの私の記事に関して批判文が「X」で公開された。
私はその批判文を翻訳AI「Deeple」で英訳し、「新・ガザからの報告」の報告者、ガザ地区在住のMに送信した。
そして1月2日と3日の両日、インターネット通信で、この批判文に対するMの意見を聞いた。今回は川上氏の批判文とそれに対するMの回答の翻訳を掲載する。
【中東ジャーナリスト・川上泰徳氏の批判】
ジャーナリスト土井敏邦氏がガザ北部のハリール・オイダ学校のイスラエル軍攻撃について「校内にいたハマスとイスラム聖戦の戦闘員数十名を殺害し、さらに数十人の戦闘員を逮捕しました。学校に避難していた人々は全員…ガザの中心部に向かうよう命じられた」と書いているが、イスラエル軍発表そのままなのに驚いている。 ■「新・ガザからの報告」(36)24年12月20日(土井敏邦)#Yahooニュース https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/38a70e5fbb93e1f49f26d816d44feb39e0794e87…
記事の中ではさらに「イスラエル軍は最近、いくつかの学校や避難所に対して集中的な空爆を行っています。先週、ガザ市内の2つの学校が襲撃されました。ハマスとイスラム聖戦の両方の戦闘員数十人がこの攻撃で死亡しました」と、イスラエル軍の攻撃で市民の犠牲はないかのような証言が続く。 しかし、12月15日にあった、その国連学校の攻撃については、アルジャジーラは現地にいるジャーナリストが目撃者の証言として「民間人を含む少なくとも市民15人を殺害。死者の中には子どもを含む4人家族も含まれている」と報じている。 ■Israeli forces storm Gaza school sheltering displaced, killing 15 https://aje.io/crqnio@AJEnglish
西岸の自治政府のパレスチナ通信も「民間人15人の死亡」を報じ、「イスラエル軍は民間人に向けて銃撃砲撃を行った」と報じる。 ■Israeli forces storm Gaza school, kill and injure displaced c ivilians https://english.wafa.ps/Pages/Details/152556…
さらに救助にあたったガザの民間防衛隊の広報担当は「少なくとも40人が死亡し、遺体は焼けて炭化している」と証言している。
土井氏の「現地報告」はガザ中部に住む一人のパレスチナ人ジャーナリストの話をQ&A形式でまとめているシリーズだが、ガザの中でも北部で起こっていることは間接的にしか分からないはずのに、一人の人間の言い分だけで、情報源も示さず、パレスチナの民間人の犠牲は出さず、「戦闘員殺害」とイスラエル軍の「対テロ戦争」の言い分だけだしているのは疑問である。 ガザ北部では10月以来、病院、避難所の国連学校を含む徹底的な破壊と住民の排除が続き、世界の人権組織からは人道に反する「民族浄化」と批判され、ハリール・オイダ学校の攻撃も、その一つの例と見なされている。
イスラエル軍の学校攻撃で「戦闘員の殺害・拘束した」と軍の発表として出ることはあるだろうが、同じ内容をガザ在住のジャーナリストの言葉として「事実」として出すなら、それを事実と信じる根拠や証拠が示されなければならない。 「ガザ報道」で影響力を持つ土井氏が発信すれば、多くの人は書かれていることを「事実」と考えるだろうが、本当にそれが「事実」かどうかは記事を読んでも分からない。「ガザのパレスチナ人ジャーナリストの話を伝えた」というだけでは通らない重大な内容を含んでいる。
【川上氏の批判に対するMの回答】
私としては、意味のない批判だと思います。たしかに民間人の犠牲者については言及しませんでした。しかし以前、土井さんに報告したことをよく覚えています。
イスラエル軍がベイトハヌーン町にある学校を襲撃したことを報告しました。タファ地区にある学校で、両方の事件で数十人のハマスとイスラム聖戦の活動家が関与していた。
私は、標的とされた人々、殺された人々は全員が武装勢力であり、活動家であったとは言わなかった。私たちの会合をすべて振り返ってみると、私は常に、それぞれの事件を一つずつ取り上げていた。
例えば、ヌサイラート難民キャンプ学校について報告したとき、17人が殺され、そのうち8人はハマスらの戦闘員で、残りは民間人でした。ですから、明確な数字や特定の数字、あるいは数字の推定値がある場合には、私はいつも報告しています。私は、このような学校では、戦闘員と民間人の数の詳細を報告するのが常です。
しかし、タファ学校、ハリール・アウェイダ学校など、ベイトハヌーン町のケースでは、民間人と戦闘員の正確な人数は把握しておらず、両方の学校で、犠牲者のうち戦闘員が数十人いると、一般論として報告しました。殺された人全員が戦闘員だとは言っていません。民間人の犠牲者については言及しなかったその報告のどこに問題があるのか私には分かりません。
民間人が犠牲になるのはいつも普通のことです。多くの場合は、民間人の犠牲が多数派です。民間人の犠牲者が多数派になることも
以前、いくつかの学校で目撃したように、いくつかの学校で殺害された人のうち民間人は全体の60%、70%を占めていました。これは普通の事です。
診療所、通り、市場、学校、テントの集落など、常に民間人の犠牲者が出ています。
(Q・私たちを批判するこのジャーナリストは、あなたのニュースソース(情報源)がイスラエルから来ている、イスラエルの情報だと疑っています。あなたはその主張にどう反応しますか?)
実際、ガザ地区で砲撃にさらされながら暮らしている私としては、私が持っている事実や情報を伝えるしかありません。なぜなら、私はプロパガンダをしたいわけではないからです。イスラエルを優位に立たせたいわけでも、ハマスを優位に立たせたいわけでもありません。
事実を伝えるために、倫理的・論理的に正しい情報を伝えなければなりません。数字など詳細な事実の情報源は私にはたくさんあります。
医療関係の情報源があります。医師や看護師、救急車の運転手、民間防衛で瓦礫の撤去や倒壊した建物の下から死体を回収する作業をしている人びとも私の情報源です。地元のジャーナリストも、写真家も、活動家もたくさん知っています。ベイトラヒヤ町、ジャバリア難民キャンプ、南部のラファ市、ハンユニス市などに住んでいる大勢の大学(イスラム大学)の友人たちや学校時代の友人たちがいます。本当に多くの情報源を知っています。
ですから、私の報告は私の想像から作り出したものではありません。私は、真実のニュースを伝えようと必死に奮闘しています。私を支援してくれる土井さんへのお礼でもあります。私は土井さんに、できるだけ正確な数値を伝えるようと、SNSでの毎週の報告のために備えようと常に努力しています。
私は苦労して入手したニュース、数字、詳細を伝えています。それは容易ではありません。場合によっては、電話を何度もかけたり、インターネットを通じて何度もメールを送信したり、ガザ北部の何人かの人々と連絡を取ったりして、確認を取って知らせしようとしています。
(Q・ガザ北部の状況について、ベトラヒヤ町、ベイトハヌーン町、ジャバリア難民キャンプなどについあなたは私に非常に詳細な報告してくれています。おそらくこのことをこのジャーナリストは疑っているでしょう。「Mは北部には移動できないはずなのに、どうやってこのような詳細な情報を入手できるのか」と彼はあなたの情報源を疑っています。おそらくイスラエルなどから情報を入手しているのではないかと)
このような質問にはとても驚いています。ガザ北部について情報を得ていることに、私がまるでスウェーデンやフィンランド、メキシコで起こっている事件の情報を得ているかのような尋ね方をする。おそらく彼には、今、ガザ北部とインターネットでつながっていることを知らないのでしょう。
戦争が始まってから、私たちは携帯電話にお金を払っていません。すべての通話は無料です。パレスチナの携帯電話会社「ジャワール社」がそうしたのです。私たちはすべての電話を無料でかけています。だから、私は、北部にいる友人たちや親戚たちと自由に話をしています。それは特別な問題ではないのです。
彼は、私の報告がイスラエルの情報源からのニュースであると非難していました。私としては、もしイスラエル側の情報が同じようなニュースを伝えて、私の報告と類似しているとしても、そこにどこに問題があるのでしょうか?
現地に住む人間として、イスラエルのニュースもガザの中に流れる環境の中で、私が伝えるニュースと類似性があるのがそれほどおかしなことでしょうか。どこに問題があるのか私にはわかりません。
このジャーナリストの批判には意図にあると思います。私がイスラエル当局のために働いているという印象を読者に伝えたかったのです。私が伝える報告は嘘で、イスラエル当局の都合のいい情報を土井さんを通して垂れ流しているという印象を拡げたいのでしょう。
しかし私には何の問題もありません。なぜなら、私は現実を伝えているからです。私は、この地で起こっている事実を報告しているのです。
【アルジャジーラが情報源?】
私を批判しているこのジャーナリストは「アルジャジーラ」について言及しています。私たちにとって、アルジャジーラはニュースソース(情報源)ではありません。アルジャジーラは、現地で起こっていることをそのまま伝えてはいません。アルジャジーラは「プロパガンダ」の道具であって、メディアの道具ではありません。
彼らには一定の方針があり、一定のプロパガンダを流しています。アルジャジーラを公平なニュースソースとはみなしていません。もし彼がこの問題を認識していないのであれば、それは彼の問題であって、私の問題ではありません。
(Q・アルジャジーラがプロパガンダであるという証拠はありますか?)
おそらく、多くの日本人ジャーナリストや他の外国人ジャーナリストは、アルジャジーラが正しいニュースソースだと信じています。
しかしアルジャジーラが真のニュース報道ではなくプロパガンダだということの判断は容易です。そのニュースを見れば、現実と彼らの報道との違いを簡単に見つけることができます。とりわけガザ地区に住んでいる人にとってはとても簡単です。
しかし、海外に住んでいる場合、つまりガザ地区から遠く離れた海外に住んでいる場合、真実とアルジャジーラのプロパガンダをどう区別していいのかわからないと思います。
アルジャジーラは真実を伝えていません。現実で起こっていることを伝えていません。絶望した人びとの自殺、ハマスと有力一族との内戦、ハマスによる支援物資の略奪などについては一切触れません。彼らはあなたに見せたいもの、見せたくないものを選びます。選択的なメディアです。
公平なメディアではなく、選択的なメディアです。彼らは全体像をあなたに伝えていません。彼らはその一部を隠しています。彼らは、あなたに、つまりあなたの目には、パノラマ写真全体ではなく、その一部だけを見せているのです。
1つ例を上げましょう。
先日、北部のジャバリア難民キャンプにあるカマル・アドワン病院に対するイスラエル軍の攻撃についてです。
アルジャジーラやハマスのプロパガンダを支援するメディアは、「イスラエル軍が病院を攻撃し、患者を殺し、病院長を逮捕した。イスラエル軍は患者や病人に暴力を使い、テロ行為を行った」と報じました。
しかし現実の全てではありません。なぜなら、私の知人たちは病院の廊下での衝突を目撃しました。病院の内部の部屋での銃撃戦を目撃しましたのです。とりわけ病院の3階においてです。ハマスは病院内に戦闘員を配置していたのです。
数ヵ月前、私の知人たちはガザ市内のシェファ病院で同じような事件を目撃しました。私たちは病院の部屋で激しい衝突を目撃しました。アルジャジーラや他のメディアはそれを報道していません。確かにカマル・アドワンの攻撃で死亡した人のほとんどは民間人でした。全くその通りです。しかし、その中には病院の内部には、イスラエル軍と衝突していたハマスの戦闘員もいたのです。アルジャジーラやその他のハマス宣伝を支援するメディアを見ても、このようなニュースは決して目にすることはないでしょう。もしアルジャジーラの情報だけを頼りにしたいのであれば、現実、真実を知ることはできません。ハマス側のニュースだけです。
(Q・イスラエル軍が学校や病院などを攻撃するのは、ハマスの戦闘員、関係者がそこの避難民の中に紛れ込んでいるからということですか?)
すべての場合がそうだとは言えません。民間人を理由もなく攻撃している場合もあります。イスラエル軍の誰が戦車を操縦しているのか、誰が無人機を操縦しているのか、銃を携行している歩兵が誰なのか、保証することはできません。イスラエル軍内部の考え方について、ある程度はご存知でしょう。多くの兵士や士官は、アラブ人やパレスチナ人に対する過激派、テロリスト的な考え方を持っています。ですから、理由もなく民間人が攻撃されるケースもあります。
しかし、この戦争が始まって1年半の私の経験から、イスラエル軍の学校やテント群への攻撃の多くはハマスなどの戦闘員や指導者たちを狙った攻撃で、民間人の犠牲者のほとんどはその巻添えになった人たちです。
ハマスらへの攻撃のために、民間人が犠牲になった例はたくさんあります。
ハマス軍事部門のトップのムハマド・デイフとハンユニス地区での軍事部門のトップ、ラフィ・サラーマは、昨年7月13日にイスラエルが「人道支援地域」と呼ぶアル・マワシ地区で殺害されました。そこは広大な地域で、何千もの避難民テントが建ち並んでいます。つまり、彼らは避難民のテントの中で標的となったのです。彼らの暗殺で、ハマス保健省の発表によると周辺の避難民約90人がその空爆の巻添えで殺害されました。彼らの隠れ家は「人道支援地域」のアル・マワシ地区のテント群の中にあったのです。
またムハンマド・デイフの副官マルワン・イーサは、ヌサイラート難民キャンプの地下トンネルにある隠れ家で暗殺されました。イスラエル軍は彼の隠れ家に到達する強力な爆弾を投下しました。そのために90人ほどの民間人が犠牲になりました。
イスラエル軍は昨年6月8日、ガザ地区中部のネセイラート難民キャンプで、ハマスの隠れ家を急襲し、4人のイスラエル人人質を解放しました。そこは難民キャンプの市場の繁華街でした。この作戦のためのイスラエル軍の激しい攻撃のために周囲の住民276人が死亡、120人が重症を負いましたが、その後亡くなっています。つまりこの4人の人質救出作戦のために約400人が殺害されたのです。
住民たちはもちろん、イスラエル軍が、民間人が行き交う繁華街を攻撃したことに激しい怒りを露わにしました。それと同時に、ハマスはなぜ繁華街の近くの隠れ家に人質を確保していたのかという怒りを爆発させました。
しかしこの日本人ジャーナリストが情報源とするアルジャジーラは、ハマスに対する人びとのフラストレーションや怒りは伝えていないのです
ハマスのメンバーが好んで使う隠れ場所は学校だと言えます。戦争が始まってから現在まで、何千ものハマスの戦闘員などメンバーがイスラエル空軍の攻撃で何十校もの学校で殺されました。そして、その学校に避難していた民間人も虐殺されています。
もちろん民間人の犠牲者の例はそれがすべてではありません。少数のケースでは、民間人が理由もなく標的にされることもあります。
【住宅地からロケット弾を発射】
ハマスはこの戦争だけでなく、2014年の戦争でも、民間地域、都市部からロケットを発射しています。彼らは都市部、非常に混雑した場所からロケットを発射していました。場合によっては、学校からもです。教室からではなく、学校の校庭から、さらに病院や診療所、国連本部に非常に近い場所から発射していました。
ハマスによるこうしたやり方は、常にイスラエルの非常に破壊的な反撃を引き起こします。なぜなら、イスラエル空軍やイスラエル砲兵隊は常にロケット弾の発射源を攻撃するからです。
ロケット弾が市街地や人口密集地から発射された場合、ロケット弾に対する報復で、何十人もの民間人が犠牲になるでしょう。
今回の戦争で起こった典型的な例をあげましょう。
ハマスの越境攻撃から間もない2023年10月31日、ヌセイラート難民キャンプ内お「エンジニア・ビルディング」と呼ばれる高層アパートがイスラエル軍によって空爆され、子ども54人を含む106人の住民が殺害されました。私の親族15人もその犠牲になりました。
しかしその生存者の証言で、そのビルの地下にハマスの戦闘員が潜んでいて、夜中にこのビルのすぐ近くからロケット弾を発射していたことが明らかになりました。そロケット弾発射の直後、イスラエル軍の空爆でこのビルが破壊されたのです。
もちろんアルジャジーラは、「イスラエル軍の空爆によって、民間人が暮らす高層アパートが破壊され、民間人106人が殺害された」とは伝えたでしょうが、そのビルの地下にハマス戦闘員が潜み、近くからロケット弾を発射したことは伝えません。
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【土井敏邦からの川上泰徳氏の質問】
川上氏はその批判文の中に
ジャーナリスト土井敏邦氏がガザ北部のハリール・オイダ学校のイスラエル軍攻撃について「校内にいたハマスとイスラム聖戦の戦闘員数十名を殺害し、さらに数十人の戦闘員を逮捕しました。学校に避難していた人々は全員…ガザの中心部に向かうよう命じられた」と書いているが、イスラエル軍発表そのままなのに驚いている」
と書いありますが、その「イスラエル軍発表そのまま」というその「イスラエル軍発表」を示してください。
ほんとうに、Mが私に報告した通りなのか、確認させてください。
イスラエル軍は「学校にはハマスなどテロリストが潜んでいたため、我が軍が攻撃した」と報じることはあっても、その被害、殺害した「テロリスト」の人数まで把握しているとは考えられないからです。その人数を把握できるのはパレスチナ人側以外に考えられないからです。またイスラエル軍が逮捕したパレスチナ人の数を公開することは今までなかったと考えるからです。