衝撃のピンクのきしめん! 進化する名古屋めしの驚きの味わいとは?
驚きのビジュアルがSNSでも話題に
「こんなきしめん、見たことない!」—。名古屋のきしめん好きの間で今、話題となっているのがピンクのきしめん。SNSに写真が投稿されると、「斬新!」「スイーツ以外考えられない」など驚きのコメントが次々と寄せられています。
筆者も実際に食べに行ってみてびっくり! 写真を見て想像していた以上に“真っピンク”なのです。まさにスイーツ以外では見たことのない色合い。しかも正統派の老舗うどん店でこんなショッキングなビジュアルのメニューが出てくるとは…!
度肝を抜く見た目に戸惑いつつ恐る恐る口をつけてみると、さらにびっくり! ひんやり冷たくさっぱりとした上品な味わいで、ちゃんとダシの風味も利いています。見た目からして「喫茶マウンテン」のいちごスパもイメージされたのですが、決してゲテモノではありません(マウンテンさん、すみませんw)。一方でほのかな甘みや、付け合わせの野菜のシャキシャキした食感などこれまでに味わったことのない個性もあり。正統でありつつ新しい、おいしさと驚きが両立した一杯なのです。
ピンク色の素は一体…?
その名も「PINK」が食べられるのは名古屋市東区の「チトセ屋」。昭和初期創業で、いかにも昔ながらの町のうどん店といった趣の小さなお店です。
この新感覚のきしめんはどうやって生まれたでしょう? もちろん、何より気になるのはピンクの色の正体です。
「ビーツを使ってるんですよ」とあっさり種明かししてくれたのは3代目の櫻井隆弘さん。ビーツは赤かぶのような見た目の西洋野菜。なるほど、と思ったもののビーツはどちらかといえば濃い赤紫。対してきしめんのPINKはまぎれもないピンク色です。
「試作の最初の段階ではもっと派手なショッキングピンクだったんです。もっとかわいいピンクらしいピンクにしたくて、あるものを加えたりして今の色になりました」
名古屋のきしめんの伝統、“赤・白”のつゆが発想の原点
このあたりは企業秘密。では、そもそもどうしてピンクのきしめんをつくろうと思ったのでしょう?
「名古屋のうどん屋は“赤”と“白”、2種類のつゆを使います。だったら中間のピンクがあってもいいだろうと思ったんです」
赤・白とは、たまり醤油と白醤油ベースのつゆのこと。一般には通じない業界内だけで通る符牒で、実際には赤=濃い茶褐色、白=やや黄色がかった透明のつゆをこう呼びます。名古屋のうどん店は基本的にこの2種類のつゆをつくり、上に乗せる具によって使い分けます。多くの人がきしめんと聞いて思い浮かべる、花かつおが乗ったきしめんは“赤”。天ぷらうどんや玉子とじなどでは主に“白”を使います。
こう説明されると、ピンクは決して奇をてらったものではなく、名古屋のきしめんの伝統をベースに遊び心と創意工夫を加えてつくられたものだと納得できます。だからといって、従来の赤・白のつゆを混ぜればピンクになるわけではありません。ここから先は、まったく経験のないゼロからの創作だったといいます。
夏恒例のラリーイベント用に創作に挑戦
創作のもうひとつの背景には、毎年参加している「きしころスタンプラリー」がありました。“きしころ=冷たいきしめん”を2か月にわたって食べ歩く名古屋市内を中心とした夏恒例のイベントで、参加店の多くが新メニュー、限定メニューで個性を競い合います。この目玉として、「どこにもないきしめんをつくろう!」という思いがあったのです。
(関連記事:「“きしめん離れ”なんて言わせない! 『きしころスタンプラリー』に大手チェーンや東京からも参戦」 2023年7月1日)
ピンクという発想から開発がスタートしたきしめん・PINKですが、完成にいたるまでの道のりは決して平たんではありませんでした。
「ピンクにするためにトマトケチャップや梅などいろいろ試しました。ビーツはウクライナ料理のボルシチに使うと聞いて、試してみようと思ったんです。思っていた色が出なかったり、独特の土臭さがあったりして一度はあきらめかけたんですが、何十通りと試作してようやく満足の行く仕上がりになりました」(櫻井さん)
食べ進むにしたがい味変&色変。幅広きしめんも存在感
ビーツはつゆの他、サラダ仕立てと氷にしたものに使いトッピング。氷が徐々にとけるとつゆがまろやかに“味変”し、さらに麺がつゆを吸ってピンクに“色変”。食べ進むにしたがって、味わいでも見た目でもサプライズが待っています。
そして最大の魅力は、この店独特のもっちり幅広い手打ちきしめん。麺につゆや具にも負けない存在感があり、最初は珍しい色やトッピングに目を奪われがちですが、最終的に“美味しいきしめんを食べた!”という印象に落ち着くのです。
きしめん・PINKはきしころスタンプラリーのスタートに合わせて7月1日に売り出し、ここまでお客の反応も上々。「男性も女性も食べてくれる。ビーツは美容効果もあるといわれているので、特に女性はリピートしてくれる人が多いですね」(櫻井さん)
近年、幅広きしめんがブームになるなど新たな魅力が加わっているきしめん。その中でもきしめん・PINKは、とびきりインパクトがある、と同時にこれまでになかったおいしさを体感できる一品です。7・8月の「きしころスタンプラリー」専用メニューのため、確実に食べられるのは8月末まで(好評の場合延長の可能性もあり)。進化するきしめん、その最先端の逸品を、目と舌で体感してみてください!
(写真撮影/すべて筆者)