実は今回発表のキモであるApple Payと関連特許について
iPhone6(およびPlus)は売れてるかもしれないが、画面の大型化だけではAndroid勢の後追いであり、Appleは革新性を失ったなどという意見が聞かれます。確かにハードだけを見ればそうかもしれません。
しかし、iPod登場の時も、iPhone登場の時もそうでしたがAppleの真価はハードとサービスの融合にあります。iPodも最初は「今さら携帯オーディオプレイヤー?」「音が悪い」等の批判を受けていましたが、ジョブズの尽力によりiTunesにおける多くのメジャーレーベルによる配信を可能にしたことで一気に市場、そして、私たちの暮らしを塗り替えました。iPhoneにおけるAppStoreも同様です。
Appleの基本戦略は中立的な付加価値プラットフォームを提供して、広範なコンテンツ提供者にビジネス機会を提供し、プラットフォームの場所代を徴収して儲けるというビジネスモデルにあります。コンテンツビジネスが大事だとは言ってもApple自身がコンテンツビジネスに乗り出したのでは「顧客と競合」してしまいます。Appleの戦略は、なまじレコード会社を傘下に擁していたために音楽配信ビジネスでぎくしゃくしてしまったSonyとは対照的です。
そして、今回、この中立的な付加価値プラットフォームにあたるのがApple Payです。日本でのサービスが始まっていないことから、インパクトが薄いように感じられますが、米国ではゲームチェンジャーであるとの評価が固まりつつあります(関連ニュース記事(英文))。
Apple Payが提供する付加価値は、Touch IDによる指紋認証と暗号化による安全な支払です。これにより、クレジットカードに付き物の盗難事故を防げますので、銀行などのカード発行会社の多くがAppleに手数料を払っても得であると判断してApple Payに参画しました。ここでも、Appleは、中立的な付加価値プラットフォームに徹しており、決済ビジネスや消費者のビッグデータ分析ビジネスにまったくタッチしておらず、顧客(ここではカード会社と銀行)と競合しない点がポイントです。
思い返してみると、iPodが登場する前は、手持ちのCDからポータブルCDプレイヤーで聴きたいものを選んで、中味だけ持ち運び用薄型ケースに入れたりとか、車載CDチェンジャーに入れたりなんてことは普通でしたが、iPodに手持ちのコレクションすべてを入れられるようになってからは、こんな作業は過去のお笑いになってしまいました。今後、Apple Payによってカード情報を一台のiPhoneに集約してNFCで支払できるようになれば、財布の中はカードだらけでパンパンという状況も過去のお笑いになってしまうかもしれません。
さて、当然ながら、Apple Pay関連特許も数多く出願されています。ここでは、最近の10月9日に公開されたUS 14/287,151(Methods for Adjusting Near Field Communications Circuitry during Mobile Payment Transactions)を見てみましょう。公開されただけでまだ権利化はされていません。
権利化を狙っている内容(クレーム)はトランザクションが失敗したときに設定を変えて再試行するというものであまりおもしろくないのですが、それよりも、明細書に開示されている技術の方が興味深いです。特許明細書の内容とシステム実装が同じであるとは限りませんが、実際のApple Payの実装を知る上で参考になるでしょう。クレジットカード番号がデバイス外部に出ないこと(販売店ですら番号を知り得ないこと)などが説明されています。
また、iPhone側でApple Watchに対してクレジットカード情報を設定する方法も書かれています。下のFIG.1のPRIMARY USER DEVICE(10)がiPhone(FIG.2A)、SECONDARY USER DEVICE(102)がApple Watch(FIG..2B)にあたります。Apple Watch側にネットワーク接続機能(111)がなくてもiPhone側からBluetooth等(106)の経路を使ってクレカ登録が可能とされています(これは技術開示として書いてあるだけでここを権利化するのは難しいでしょうが)。
いったんクレカ情報を登録してしまうとApple Watchだけでも支払が可能になることから便利な使い道もあるかもしれません。たとえば、ランニングの時にiPhoneを持たずにApple Watchだけというユースケースはあり得ると思うのですが、Apple WatchはGPSを内蔵していない(ランニング記録系アプリと連動できない)のがちょっとつらいところです。
他にも多くの興味深い出願があるのですが長くなりましたのでまた別途。