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テレビドキュメンタリー制作者の93%「ネットの批判は気にならない」驚きの調査結果

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:アフロ)

テレビドキュメンタリー制作者の8割以上が「同僚や先輩」「制作スタッフ」から影響を受けている反面、「ネット上の批判」に影響を受けたのはわずか7%で、残りの93%はネット上の批判を気にしていないことが調査で判明した。その理由は一体何なのか?調査を行った専門家に聞いた。

「テレビ制作者が実際にどう考え、判断したか」を日本で初めて調査

この調査は東北大学大学院情報科学研究科の村井明日香さんらによって行われた「テレビドキュメンタリーに対する番組制作者の制作経験および意識・態度の調査結果」で、7/25にオンライン開催された「日本教育メディア学会2020年度第1回研究会」で発表されたもの。

調査は今年3月から5月にかけて、テレビドキュメンタリーの制作者101人に対して「Questant」を利用したインターネット調査、機縁法で行われた。村井さんによると回答者は「NHKと民放と制作会社が同数になることを目指して、NHKと民放は退職後の人も合わせるとほぼ同数。独立系の制作会社だけ気持ち少なめ。平均在職年数が約20年なので、かなりベテランの方も多かった。30代、40代、50代の方が中心層。」とのことだ。

東北大学大学院情報科学研究科 村井明日香さん(筆者撮影)
東北大学大学院情報科学研究科 村井明日香さん(筆者撮影)

村井さんによると「制作者が実際にどういうふうなことを考えて、どういうふうな判断をしているかということは、具体的には明らかになっていないんです。なので、そういった意味で今回のような調査内容というのは、日本で初めてだろうと思います。」ということで、貴重な調査だということができると思う。

村井明日香さん提供
村井明日香さん提供

「ネット上の批判に影響を受けた」のはわずか7%

調査項目は全部で17にのぼるが、今回紹介したいのは「制作手法を確立する上で,組織の上司の指導以外に影響を受けたもの」という項目だ。上の図にあるように、10の選択肢から、回答者が「制作手法を確立する上で影響を受けた」と思うものを複数回答する。

結果の上位2つ、つまりテレビドキュメンタリー制作者が最も影響を受けているのは、1位が「身近な先輩や同僚の手法を見聞きして知ったこと」で87.0%。2位が「自分の番組の制作スタッフ(カメラマン・編集マンなど)から言われこと」で82.0%だ。つまり、テレビ制作者は身内からの指摘には、非常によく耳を傾けているということができる。

それに比べ、「具体的な制作手法が、BPOの勧告を受けたのを知ったこと」に影響されたと答えたのはわずか5.0%。「インターネット上(SNSも含む)の批判」はわずか7.0%と、驚くほど低いのがわかる。つまりテレビ制作者は、BPOの委員である有識者や、インターネット上の意見などの「外部の声」には、全くもって耳を貸していないというか、スルーしているということなのだ。

テレビ制作者は「ネットで悪口ばかりを見るのが嫌で、心を閉じてしまっている」のではないか

新型コロナウイルスに関する報道姿勢などで、テレビに対する世間一般の批判が強まっているいま、こんなことで良いのか?そしてなぜテレビ制作者は頑なに外部からの批判に耳を貸そうとしないのか?村井さんに聞いてみた。

村井「私の感覚ですと、やっぱりネットの意見には、ものすごく過激なものが多いとか。あとは、やはり現場を知らずに書いている場合も多いです。本当は多分ネットの中にも、すごく真っ当で、制作者にとってすごくためになる意見っていっぱいあるんだと思うんですけれども、ネットのそういった悪口ばかり見ることになるのは嫌なので、やっぱりちょっと心を閉じてしまっているということだと思います。」

そして、村井さんがもうひとつ注目するのが、「自分の番組の取材対象者や取材を見ていた人などから言われたこと」に影響されたと答えたテレビ制作者が50.0%いたことだ。つまり、業界外の声であっても、取材対象者や取材を見ていた人の話には、テレビ制作者は聞く耳をある程度持っているということが明らかになったのだ。これは、どう解釈するべきなのだろうか。

「現場で指摘されると、反論するほどのポリシーがない」

村井「最近の制作者というのは、自分なりの演出論を持ちきれていないということがよく指摘されます。例えば、『これ、やらせじゃないの?』とか多分現場で言われることがあるわけです。それに対して、自分でしっかりと反論をするほどのポリシーを持ちきれなくて、『ああ、そうかもしれないな』というふうに、これは良くも悪くも納得をしている制作者がいるんじゃないのかなということを私は思っています。」

つまり、テレビ制作者自身にもそれほどのポリシーがないので、現場でクレームを言われると「そうかもしれない」と納得するケースが多いのではないかというのが村井さんの分析だ。これも非常に興味深い結果だと思う。ということは、もしあなたがテレビの取材を受けたら、できるだけおかしいと思うことは直接抗議するなり文句を言ったほうが良い、ということが言えるのではないか。

さらに、この調査ではテレビドキュメンタリーの具体的な演出方法に関する、テレビ制作者と一般視聴者の意識の違いについても調査している。その結果はまだ公表されていないが、いずれ明らかになり次第またここで紹介したいと思う。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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