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森内俊之九段(50)永遠のライバル羽生善治九段(50)との138局目の戦いを制す 叡王戦九段予選

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月22日。第6期叡王戦段位別予選・九段戦B▲羽生善治九段(50歳)-△森内俊之九段(50歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は12時57分に終局。結果は114手で森内九段が勝ちました。

 森内九段は本日19時からおこなわれる予選決勝に進出。小林健二九段-木村一基九段戦の勝者と対戦します。

 羽生九段と森内九段の対戦成績は138局戦って羽生78勝、森内60勝となりました。

森内九段、相矢倉の熱戦を制する

 過去には名人戦七番勝負で9回対戦するなど、長きにわたってトップで戦い続けてきた両雄。本局を特別な思いで観戦していたファンの方も多かったことでしょう。

 振り駒の結果、「歩」が3枚、「と」が1枚、横に立ったものが1枚で、先手は羽生九段に決まりました。

 戦型は相矢倉。名人戦をはじめ、両者の数多くの対局において、何度も見られてきたオープニングです。しかしかつてとは異なり、現代最新の矢倉は互いにじっくり組み合う展開にはなかなかなりません。両者ともにその最新のトレンドをフォローしています。

 森内九段は不二家LOOKチョコレートを口にしたあと、攻めの銀を素早く前線に押し上げます。そして相手の守りの銀との交換に成功しました。

 激しい変化を含みとしながらも激しい展開には進まず、両者ともに自陣に銀を打ち合うじっくりした中盤戦になりました。

「そうか・・・」

「いやあ・・・」

「うーん・・・」

 としばしばつぶやく羽生九段。黙々と盤上を見つめる森内九段。両者の姿勢は羽生九段が「動」ならば、森内九段は「静」かもしれません。

 叡王戦予選の持ち時間は各1時間。森内九段は52手目、まだ中盤戦も始まったばかりというところで持ち時間を使い切り、あとは一分将棋となりました。一方で、羽生九段も63手目から一分将棋です。

 中段での押し合いを制し、リードを奪ったのは森内九段でした。銀桂交換の駒得をはたし、さらには飛角の大駒も羽生陣によく通って、かなり優位に立ったかとも思われました。

 羽生九段は攻めるか粘るか。感想戦では攻める順も検討されました。正確に指せば、森内九段がよいようです。

 羽生九段は粘る順を選びました。森内九段の攻めを遅らせる間に飛車を成り込み、緩急自在に追い込む態勢を作ります。これまでの羽生-森内戦で何度も見られてきた展開の一つかもしれません。

 秒読みが続く中、森内九段は冷静かつ自然に応対し続けました。

 羽生九段は一手違いに持ち込みます。形勢を表示するバーがなければ、ABEMAの中継を見つめる観戦者も羽生九段が勝負に持ち込んだと見たでしょう。しかし形勢は森内九段勝勢を示しています。

羽生「この瞬間だけ、なんかないのかと思いました。なんかないのかなあ・・・。なるほど、寄らないんですね・・・。そうか、寄らない・・・」

 感想戦でも検討された通り、最後は森内九段が余していました。

「負けました」

 羽生九段が投了の意思を示して、両者の138回目の対局は終わりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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