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難問の大学入試センター試験日の天気予報 気象予報士は山梨・関東の雪予報に苦慮

饒村曜気象予報士
雨と風の分布予報(1月18日9時の予想)

難しい首都圏の大雪予報

 気象庁は、大雪によって災害をもたらすと予想される場合は、大雪警報や大雪注意報を発表して警戒を呼び掛けていますが、その発表基準には大きな差があります。

 東京都千代田区や横浜市では、12時間で10センチの雪が降れば大雪警報ですが、新潟県の平地ではその2倍のペース(6時間で10センチ)で降っても、大雪警報どころか、大雪注意報の発表基準にも達しません(表)。

表 新潟県、東京都、神奈川県、山梨県の大雪警報、大雪注意報の発表基準(いずれも降雪の深さ)
表 新潟県、東京都、神奈川県、山梨県の大雪警報、大雪注意報の発表基準(いずれも降雪の深さ)

 同じ大雪と言っても、日本海側の大雪に比べれば、太平洋側の大雪と呼ばれているものは量が少ないのですが、雪に対する備えがないために大きな影響がでます。

 例年であれば、2月になると、シベリアからの寒気の南下が峠を越し、本州の南岸を低気圧が通過するようになります。

 南岸低気圧と呼ばれる低気圧で、東日本の太平洋側に大雪をもたらします。

 東日本の太平洋側の大雪は、シベリアからの寒気の南下が峠を越えたときに降りますので、「春を告げる雪」と言われてきました。

 ところが、令和2年(2020年)は事情が違っています。

 暖冬で、北からの寒気の南下が弱く、季節を先取りするかのように1月から南岸低気圧が次々に通過しています。

 1月18日も、南岸低気圧が通過し、山梨県と関東南部に雪か雨が降る見込みです。

 本州の南岸を低気圧が東進するときの雪は、雨になるかもしれない気温の時に降る雪です。

 低気圧の進路だけでなく、下層のちょっとした温度の違いによって雪になったり、雨になったりしますので、気象予報士にとって難問です。

 1月18~19日はセンター試験日で、受験生は試験問題に取り組みますが、その少し前、気象予報士は難問に取り組んでいます。

東日本太平洋側の大雪目安は八丈島

 南岸低気圧によって関東南部が大雪になるのは、その進路が八丈島の真上を通る時です。

 南岸低気圧が八丈島より北を通過するときは、南から暖気が入りやすくなるため雨の可能性が高くなります。

 逆に、南岸低気圧が八丈島より南を通過するときは、北から寒気が入りやすくなるため雪の可能性が高くなりますが、低気圧から離れていることから雪の量は少なく、場合によっては降りません。

 1月18日の南岸低気圧は、低気圧の中心や閉塞点がともに八丈島の南を通過する予想です。

 このため、東日本の太平洋側では、低気圧から離れていることから雪の量は比較的少ない見込みです(図1、タイトル画像参照)。

図1 予想天気図(1月18日9時の予想)
図1 予想天気図(1月18日9時の予想)

 まとまった雪が降るのは山梨県で、山地では24時間に20センチ以上の雪が降る可能性がありますので、大雪注意報が発表となるかもしれません(図2)。

図2 予想降雪量(1月18日18時までの24時間降雪量)
図2 予想降雪量(1月18日18時までの24時間降雪量)

 気象庁が17日夕方に発表した東京地方の気象情報では、18日18時までの24時間に予想される降雪量は、いずれも多い所で、多摩西部5センチ、多摩北部と多摩南部3センチ、東京23区1センチとなっています。

 17日夜遅くから雨で降り始め、途中からみぞれ、雪と変わる見込みですので、積雪としてはそれほど多くならない予報ですが、寒気の南下が少し強ければ、降雪量がもう少し多くなり、大雪注意報が発表となる可能性があります(図3)。

図3 令和2年(2020年)1月18日朝の予想
図3 令和2年(2020年)1月18日朝の予想

 ただ、これを否定する予測も計算機は計算しています。

 図3の計算の少し後に計算した予測が図4です。

図4 令和2年(2020年)1月18日7時の予想
図4 令和2年(2020年)1月18日7時の予想

 本来は、ほぼ同じになるはずですが、少し後の計算では、雪が降るのはほぼ山梨県のみです。

 東京都や神奈川県の大部分では、雨も雪も降らず、雪が降る山梨県でも降雪量は少なくなっています。

 このように、天気予報のもととなっている計算機の計算は、ちょっとした観測データの差によって大きく変わる状況になっていますので、これをもとにしている気象予報士は、予報に苦慮するわけです。

甲府の雪

 甲府で過去最高の積雪となった平成26年(2014年)2月15~16日の南岸低気圧のときの大雪は、南岸低気圧が閉塞しながら東海地方を通過しています(図5)。

図5 地上天気図(平成26年(2014年)2月15日9時)
図5 地上天気図(平成26年(2014年)2月15日9時)

 このため東海から関東には多量の水蒸気を含んだ暖気が流入して雨となる所が、閉塞したために下層に寒気が残り、雪として降り続いています。

 閉塞点が八丈島付近を通過しているので、「大雪の目安は八丈島」というのは踏襲していそうです。

 非常に珍しいケースですが、南岸低気圧の動きが遅いこともあって長時間の降雪となり、これまでの甲府における119年間の積雪の記録である49センチをあっさり超え、114センチという日本海側の豪雪地帯並みの積雪となっています(図6)。

図6 平成26年(2014年)の南岸低気圧による甲府の雪
図6 平成26年(2014年)の南岸低気圧による甲府の雪

南岸低気圧の後は日本海低気圧

 山梨県の18日未明頃からの雪は、南岸低気圧の通過が八丈島の南であることから多量の水蒸気を持ち込まない見込みです。

 また、移動速度が比較的早く、降雪の時間は昼頃までと考えられており、降雪時間が比較的短いことから6年前のような大雪にはならないと考えられます。

 今年の大学入試センター試験のときの南岸低気圧は、東進して日本の東海上に発達し、日本付近に寒気を南下させますが一時的です。

 週明けの1月20日には、日本海で低気圧が発達する予想です(図7)。

図7 専門家向けの予想天気図(1月19日21時(協定世界時では19日12時)の予想)
図7 専門家向けの予想天気図(1月19日21時(協定世界時では19日12時)の予想)

 立春以降であれば、春一番の可能性がある天気図です。

 まだ1月の中旬ですが、春を告げる雪が降り、春一番の天気図出現となると、「今年の冬はどこへいったか」と思いたくなります。

 東京の最高気温と最低気温の推移を見ると、1月18日は最低気温が平年を大きく下回りますが、それ以降は平年より高い日が続く予報です(図8)。

図8 東京の最高気温と最低気温の推移(1月18~24日は気象庁、1月25日~2月2日はウェザーマップの予報)
図8 東京の最高気温と最低気温の推移(1月18~24日は気象庁、1月25日~2月2日はウェザーマップの予報)

 最低気温に至っては、平年より高い日が続きます。

 気温からみると東京はすでに春です。

 1月18~19日は大学入試のセンター試験の日です。

 関東甲信地方の受験者にとっては、降雪による交通障害や路面の凍結などにより交通機関の乱れが懸念されますので、最新の気象情報に注意し、早めの行動をお願いします。

 その他の晴れている地方でも、今冬一番の最低気温のところも多く、防寒対策も必要です。

 定刻までに受験会場につくことが、春の花咲く第一歩と思います。

タイトル画像、図2、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図5の出典:気象庁ホームページ。

図6、表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

図7の出典:気象庁提供。

図8の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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