新庄剛志監督の弟分、ミュージシャン・HARTYが明かす“襟高シャツ”に込めた信条
日本ハム・新庄剛志監督の公式応援歌「%1」を歌うミュージシャンのHARTYさん(36)。昨年12月、新庄さんがプロ野球のトライアウトを受けた際にも数カ月前から新庄さん宅に泊まり込み、最も近いところで支えていました。自身も甲子園に出場した高校球児でしたが、思わぬ形で紡がれた新庄さんとの縁。そして、監督就任会見の“襟高シャツ”から垣間見える新庄さんの思い。そして「優勝なんか目指さない」という言葉の裏にあるメッセージとは。
いきなりの連絡
監督就任の発表があった翌日10月30日から就任会見が終わる翌日、11月5日まで新庄さんの家で寝泊まりさせてもらってました。
その中で夜に二人になった時にいろいろと話をさせてもらいました。これだけ期待をされている。野球で結果を出すことはもちろん、それ以外のところでもあらゆることをやらないといけない。そして、ファンの皆さんが喜んでくださるにはどうしたらいいのか。
バカバカしく見えるようなアイデアから、唸るようなアイデアまで本当にあらゆることを考えてらっしゃいます。夜中から明け方まで。思い付き、感性でパッとやっているように見せてますけど、本当に緻密に考えてらっしゃいます。
僕は香川西高校野球部3年の時に副キャプテンとして夏の甲子園に出ることができたんですけど、そもそも、野球を始めたきっかけが新庄剛志さんだったんです。
小学1年の時、親父にいきなり大阪・岸和田の自宅から車で甲子園球場に連れて行かれたんです。それまで野球に興味はなくて、その場所が甲子園球場ということも分からないくらいだったんですけど、それが1992年5月26日のことでした。
状況もよく分からないままグラウンドを見ていたら、新庄さんがホームランを打ったんです。その時の球場の盛り上がり。歓声。新庄さんのカッコよさ。それが忘れられなくて、自分も、すぐ野球を始めたんです。「いつか、自分も新庄さんみたいになるんだ!」と思って。
そこから野球に打ち込んだんですけど、ケガをして大学で断念せざるを得なかった。そこから音楽の道に進んだんですけど、2019年の11月に新庄さんが「もう一度プロ野球選手になる」ということをSNSでアップされました。
あこがれの人がまたすごいことをやろうとしている。そう思って、一人のファンとしてSNSを注目していたら、そこから1カ月ちょっと経った12月22日、いきなりインスタグラムのダイレクトメッセージが来たんです。
「僕は歌を歌っている人をすごく尊敬しています。もっと、もっと、聞いている人に刺さるような最高の歌を届けてください。新庄剛志」
それをきっかけに新庄さんが住んでらっしゃったバリ島にもお邪魔したり、僕のことをSNSでアピールしてくださったり。去年のトライアウト前も数カ月前から東京のおうちに泊まり込みでいろいろとお手伝いをさせてもらってました。
“襟高シャツ”から見えるもの
監督就任会見で着ていた襟の高いシャツ。あのアイデアは源流みたいなことは去年のトライアウト前からおっしゃっていました。その時に監督の話があったのか、なかったのか、僕は全く知りませんけど、あの襟のシャツの話はされてたんです。それくらい、あらゆるものを事前から準備して、考えに考えて出していくということですよね。
今、自分に注目が集まるのも分かっている。そして、今こそがまず球団に恩返しするための第一段階だと。本当に球団に感謝してらっしゃるんです。自分みたいな人間をよく取ってくれたと。今の言動は、まさに恩返しそのものと言ってもいいと思います。
最後の最後まで準備を怠らないというか、細かい日程の話になりますけど、新庄さんは11月3日に北海道に入って、4日に会見だったんですけど、2日の晩に東京の自宅で、会見の衣装のコーディネートをされていたんです。
あれ以外にもいくつかパターンがあって、その組み合わせを入念にチェックされていました。あのコーディネートに行きつくまで数時間かけてらっしゃいました。
新庄流の優しさ
その時、北海道に持って行くスーツケースの荷造りのお手伝いもしたんですけど、新庄さんには黙って、自分のデモCDと「%1」のCDを何枚ずつかドライヤーの下あたりにこっそり入れておいたんです(笑)。新庄さんには黙って。
また東京に戻ってきてスーツケースを見たら、CDは全部なくなっていました。「関係者の人にしっかりPRしてきたよ」とかそういうことをおっしゃる方ではないんですけど、こちらがしたことを受け止めて、サラッと優しさをくださる。
その優しさに応えられるように、僕もしっかり成長しないといけないと思いますし、本当に勉強させてもらっています。人生で初めて、スーツケースに頭を下げました(笑)。
あと、会見で「優勝なんか目指しません」とおっしゃってましたけど、あれも選手に対する優しさだと僕は思っています。
選手の力を最大限引き出すための言葉遣いやと思います。優勝するぞと言われると力が入ってしまう。
これは日ごろからおっしゃっていることでもあるんですけど、プロ野球選手は全員うまい。みんな力があるからプロの世界に入っている。そして、そこに花を咲かせるのが監督、指導者の力であり、責任だと。
選手がのびのびできて、結果的に可能性を開花させて成長する。要らない負担は極力少なくする。それも指導者の役目だという考えがあって、その表れとしてあの言葉遣いをされたと僕は思っています。当然、選手たちも会見を見ていますから。
僕は二軍の選手みたいなもので、これからどうにかしてスターになっていかないといけない。
出会った頃から新庄さんが言ってくださっていることがあるんです。「オレを超えるなんて小さなことを言うな」。
どうしたら結果をお見せすることができるのか。一つ思っていて、既に新庄さんにもお伝えしているのが、僕がNHK紅白歌合戦に出て、新庄さんが審査員として出演されている。その形を作ることなんです。
新庄さんの審査員はさもありなんですけど、僕がきちんとスターになってその形を具現化する。なんとかこれを達成したいなと。
よく新庄さんは真面目な話をした後に「それが新庄の信条」とダジャレをぶっこむんですけど(笑)、紅白でその形になることこそがせめてもの恩返しになるのかなと思いますし、そこに向けて突っ走るのが僕の信条にもなっています。
(撮影・中西正男)
■HARTY(ハーティ)
1985年5月23日生まれ。大阪府岸和田市出身。本名・花田裕一郎。小学生の頃からバンドを組み、音楽活動を始める。初めてのプロ野球観戦で目の当たりにした新庄剛志にあこがれ、野球に打ち込む。香川西高では3年時に副主将として甲子園に出場。大学でも野球を続けるが、ケガをきっかけに再び音楽に没頭。ジャマイカに渡り、本場のレゲエミュージックに触れてミュージシャンとしての足腰を鍛える。19年には、女優・川崎亜沙美とのコラボソング「FURUSATO~ちょうちんのあかり~」でメジャーデビューを果たす。20年には、インスタグラムをきっかけに交流が生まれた新庄剛志への思いを込めた新庄剛志公認応援歌「%1」をリリースした。