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池江選手が白血病公表 知人ががんと知ったら、どう接する?

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
重ねる手(ペイレスイメージズ/アフロ)

競泳・池江璃花子選手の白血病公表で励ましの声が広がりました。その一方で五輪担当大臣の発言が不適切という批判も広がる中、がんにり患した方にどのように接したらいいのだろうというとまどいを感じられた方も多いと思います。

血液のがんといわれる白血病を含め、がんと新たに診断される方は年間約100万人にのぼります。職場の仲間、知人、親戚、ご近所の方などががんにかかったという知らせを受けたときどのような気持ちでどのように接することがサポートになるのかについて考えてみたいと思います。

「がんは死に至る病」という認識をあらためる

がんは死に至る病であり、がんと診断されたらもう終わりと思っている方が多いことに驚きます。確かにがんはほかの疾患に比べて命のリスクは高い病気ですが、その治療法は月単位で進歩しています。2006-2008年にがんと診断された方の5年生存率は62%を超えています。がんと診断されたらもう終わりではないということをまず認識していただきたいと思います。

がんと診断された方がショックを受ける言葉

残念ね、かわいそう、は相手を傷つける

がんのサバイバーの方が参加する医学の学会で伺った話です。子宮がんと診断された30代の方ですが、「残念でしたね」と言われたのがショックだったといいます。「私は残念な人なのか」と思い涙が出たとおっしゃっていました。また乳がんのサバイバーの40代の女性は「検診を受けなかったの?」と言われ責められている気になったそうです。「かわいそう」「若いのに」という言葉に含まれる憐れんでいるような感じも違和感を感じさせる言葉です。肺がんの方からはたばこを吸っていないのに「たばこ吸ってたんでしょう?」と言われてショックだったという声がありました。

がんという烙印で傷つくことも

がんイコール死に至る病というイメージのためにもう仕事はできない、と思われ「あの人はもうだめだろう」という烙印を押されてしまうことがあるのがつらいということも多いのです。周囲のそうした噂話は闘病中の方を傷つけるものですから、絶対にやめていただきたいと思います。

「死ぬのは同じ」という不適切な慰め

30代の乳がんのサバイバーの方の話です。「知人から自分たちも交通事故でいつ死ぬかわからないから」と言われ不快だったそうです。「その人は慰めるつもりかもしれないけど、現実でがんと向き合っていない人が感じる死への恐怖と同じにしてほしくない」という意見でもっともだと思いました。

周囲がしてはいけないこと

1.間違った治療情報を流さない

がんと診断された方がまず向き合うのが、どの治療法を選択するかという問題です。治療法については医師と話し合い自分の希望を伝えて共同で選ぶのですが、この時医師の立場から非常に困ることがあります。患者さんはなぜか医師の話より知人から聞いた話を信じることがあり、エビデンスがある治療法は副作用が怖いといって高額でエビデンスのない治療法に頼り症状を悪化させてしまうことがあるからです。標準治療というのはきちんと統計的に検証され効果があると確認された治療法だということを知ってほしいと思います。

2.ほかの人の治療法と比較しない

ほかの方がよくなったからと言ってその治療法を勧めるのは禁物です。がんはタイプにより治療法が異なります。また進行している度合によってもその方のその他の器官の状態によっても異なり、患者さん一人ひとりに合わせるオーダーメイドの時代です。ほかの人がこうして治ったから、という情報を安易に勧めるのは危険です。

3.治療に専念ということば

あるサバイバーの方の体験です。治療のあと気分を変えるために病院の近くのショッピングセンターに行ったら、たまたま近所の人に会い「こんな所にいていいの?」と言われショックだったということです。医師から特に問題ないと言われていることなのに、とせっかくの気晴らしが裏目になったそうです。

治療に専念、から「治療を最優先に」

これが適切な認識ではないかと考えています。治療は最優先にしてほしいことですが治療に専念、ということを押し付け、生活のすべてを治療にしないでほしいと思います。がん治療はその方の最優先課題ではありますが、人生のすべてを治療のために犠牲にするのではなく、したいこと、興味があることをできる範囲で続けることが、がんにかかった方の生活の質をキープし心を支えるポイントになります。

多くのサバイバーの方からお話を聞くと、治療だけが生活のすべてだとご自分が社会から切り離された気分になり落ち込むということです。無理がない範囲で興味があることを生活に加え新しい価値観を作っていくことが励みになったという言葉を聞きました。周りの人たちはこうした思いをくみ取って接することが大切です。

がんイコール死ではありません。しかし生きることと真剣に向き合い、人生をみつめるきっかけとなる病といえます。がんのサバイバーの方々とお話しすると毎日を大切に生きているその生き方から学ばせていただくことがとても多いことに気がつくのです。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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