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動いているアンネ・フランクが偶然映っている唯一のモノクロ動画撮影から82年

佐藤仁学術研究員・著述家
(アンネ・フランクハウス提供)

隠れ家に潜む前の貴重な動くアンネ・フランクの映像

1941年7月22日に動いているアンネ・フランクの唯一のモノクロ映像がたまたま撮影された。隣人の結婚式を窓から見ていたアンネ・フランクがたまたまカメラにおさまっただけの映像だ。そのアンネ・フランクの動く映像が撮影されてから2023年7月22日で82年が経った。撮影者もアンネ・フランクを撮影しようとしていたわけではなかった。

結婚式を撮影していたら、アパートメントの窓から顔を出して結婚式を見ているアンネ・フランクがたまたま映り込んだだけの映像だが、アンネ・フランクが動いている貴重な映像として80年以上が経った現在でも世界中の多くの人に視聴されている。アンネ・フランクハウスが2023年7月22日に公式SNSでも紹介していた。この映像が撮影された頃は、まだ隠れ家で息をひそめて生活をしていなかった。

現在のようにスマホで誰もが簡単に動画を撮影して、瞬時に世界中に公開して共有できる時代ではなかった。このような結婚式のような人生の大イベントの時ですら、まだモノクロ写真がほとんどで、動画を撮影できる人は稀だった。アンネ・フランクも生前の写真は多く残っているが、動画はこの1本のみである。

その稀な機会に、たまたまアンネ・フランクが映り込んでいたという貴重な動画がデジタル化されて現在に至っている。2009年9月にアンネ・フランクハウスがデジタル化した動画をYouTubeで公開して既に660万回再生されている。撮影者も結婚式をした夫婦も、この映像が後世に有名な動画として世界中で視聴されるとは思っていなかっただろう。

▼1941年7月22日、たまたまアンネ・フランクが映り込んだ貴重な唯一の動画

映画・YouTubeドラマ・VR・ストリートビュー・ナレッジベースなど進むアンネの記憶のデジタル化

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスの標的となり迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネ・フランクが生きていたら2023年6月12日で94歳になっていた。

アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。アンネ・フランクが1942年6月12日の13歳の誕生日に送ってもらった日記帳で日記を書き始めた。

現在でも世界中で多くの人に読まれている。またアンネ・フランクは世界中の老若男女にも人気がある。世界中の若者に人気のインスタグラムには世界中のアンネ・フランクのファンがアンネの当時のモノクロ写真や、アムステルダムにある「アンネの家」を訪問した写真をたくさん投稿している。

アンネ・フランクの生涯は「アンネの日記」を元にした映画、ドラマ、演劇、アニメ、マンガなどで世界中で作品の題材として取り上げられ、演じられている。それらはアンネの生涯を忠実に描いたノンフィクションである。またアンネ・フランクをモチーフにしたフィクション映画やドラマなども多い。アンネ・フランクと日記の中のキティを描いた創作アニメ映画「Where is Anne Frank?」などが有名である。

戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。そしてデジタル化された証言や動画や映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。

アンネの隠れ家を運営しているアンネ・フランクハウスはアンネ・フランクを紹介するためのデジタル化したコンテンツ製作にとても積極的で、アンネ・フランクが生きていた時代の貴重な動画を公開したり、アンネ・フランクが当時スマホを持っていて動画を撮影するというWEBドラマシリーズ「Anne Frank video diary」を製作しYouTubeで配信。アンネ・フランクの生涯を次世代の若者に伝えようとしている。またアンネの家をVR(仮想現実)で廻れるサービスもメタと共同で制作した。特にコロナ禍になってアムステルダムのアンネの家を訪問できなくなってからはオンラインでの様々な情報やコンテンツ提供にも注力してきた。また公式SNSでも多くのアンネ・フランクや家族の貴重な写真なども公開している。アンネ・フランクが動いている唯一の動画も公開されている。

2023年1月にはアンネ・フランクハウスは「Anne Frank Knowledge Base」(アンネ・フランク・ナレッジベース)を開設した。Anne Frank Knowledge Baseではオンラインでアンネ・フランクや家族、匿ってくれた関係者や学校時代の友人などの情報、当時の様子がオンラインで確認することができる。またフランクフルト、アムステルダム、アウシュビッツなどアンネ・フランクに関係の深い場所が地図上で表示されて、その場所でのアンネ・フランクや関係者の情報が知ることができる。

アンネ・フランクハウスだけでなく2019年に90歳のアンネの誕生日の6月12日には、Googleがアンネ・フランク博物館と協力して、アンネが隠れ家に潜む前に子供時代を過ごした家、家族の思い出の写真、貴重な映像などを紹介するコンテンツを「Google Arts & Culture」で公開した。当時の貴重な写真や映像をデジタル化して公開、家の中をストリートビューで閲覧することができる。

欧米ではホロコースト教育が行われており、アンネの日記や映画などはホロコースト教育でも多く利用されている。ホロコースト教育ではホロコーストだけでなく、欧米で今も根強い反ユダヤ主義をなくすためにも行われている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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