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選挙になると注目高まる「シルバー民主主義」ってそもそも何?弊害や解決策は? #選挙のギモン

島澤諭関東学院大学経済学部教授
画像はイメージ(写真:アフロ)

参議院選挙の期日前投票が行われる中、「シルバー民主主義」がにわかに注目を集めています。これは高齢者の影響力が強く世代間格差を助長するもの、世代間対立をあおるもの、という認識が広まっていますが、「シルバー民主主義」とは、そもそも何なのでしょうか?その弊害や解決策について解説します。

孫は祖父母より4000万円「損」をしている

まず、日本は世界でも深刻な世代間格差が存在しますが、世代会計という手法を用いて世代別の生涯純負担額を推計して世代間格差の現状を見ると、例えば、祖父母にあたるいわゆる「団塊の世代」に比べて孫の世代である18歳世代は4000万円ほど「損」をしていることが分かります(図1)。

4000万円という金額は、子ども一人、大学まで公立で行かせられる子育て費用に相当します。少子化も進むはずですね。

しかも、この4000万円という金額は、財政や社会保障制度が破綻せず続いたらという前提がつきます。実際、財政や社会保障制度が破綻したら格差は倍以上に膨らむ計算です。

図1 世代別の生涯純負担額((出典)島澤(2022)「世代会計からみた選挙棄権のコスト─20代は17.5万円の「損」─」(PHP Policy Review Vol.16-No.81))
図1 世代別の生涯純負担額((出典)島澤(2022)「世代会計からみた選挙棄権のコスト─20代は17.5万円の「損」─」(PHP Policy Review Vol.16-No.81))

老人栄えて国亡ぶ

どうして、こんな状況になってしまっているのでしょうか?

有力なのがシルバー民主主義です。

シルバー民主主義は、「少子化、高齢化が進行し、経済が低迷する中にあっても、政治が高齢者の意向を忖度し、高齢者の利益を優先する高齢者優遇の政治」と定義できますが、こうした指摘は実は今に始まったことではありませんし、日本特有の話でもありません。

例えば、政治学者の故内田満が日本で最初にシルバー民主主義に警告を発したのは1986年でしたし、元税金党代表で参議院議員を四期務めた野末陳平は、1997年に出版した『老人栄えて国亡ぶ』(講談社)で、「日本を悪くしたのは、老人たちにおもねる行政や政治に責任の半分がある。あとの半分は、老人たちの理不尽で過剰な要求だ」とし「老人栄えて国亡ぶ」と指摘しました。また、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは『シャルリとは誰か?』(文春新書/2016年)で、やはり、欧州におけるシルバー民主主義を批判しています。

20代は選挙棄権で17.5万円の「損」

では、わたしたちは選挙に行かないことで、どれだけの代償を支払っているのでしょうか?

わたしたちは、投票に行かないことで、政治から不利に扱われ、10代12.4万円、20代17.5万円、30代12.7万円、40代2.7万円、50代0.3万円ほど、毎年、高齢世代より「損」をしている計算になります(図2)。

これは選挙棄権のコストと言えます。

図2 選挙棄権のコスト((出典)島澤(2022)「世代会計からみた選挙棄権のコスト─20代は17.5万円の「損」─」(PHP Policy Review Vol.16-No.81)により筆者作成)
図2 選挙棄権のコスト((出典)島澤(2022)「世代会計からみた選挙棄権のコスト─20代は17.5万円の「損」─」(PHP Policy Review Vol.16-No.81)により筆者作成)

シルバー民主主義の弊害

シルバー民主主義は、現役世代の負担を重くすることで経済成長を停滞させ、また、若者から結婚の機会を奪うことで少子化を加速させる、若者ほど重くなる負担を嫌って海外へ脱出するなど、日本経済・社会全体にとっても大きなマイナスとなっています。シルバー民主主義の解決が急務です。

シルバー民主主義の解決法

どうしたら、シルバー民主主義を解決できるのでしょうか?

シルバー民主主義は、受益者である高齢世代が負担者である現役世代より政治を介して多数派に立つから生じているので、高齢世代の政治的影響力を削ぐドゥメイン投票平均余命投票、世代別選挙区制により、若者の投票ウェイトを重くし、民主主義の内側からシルバー民主主義を解決しようという考え方があります。

さらに、民主主義の外側からシルバー民主主義に歯止めをかければいいという発想もあります。民意を代表して高齢者優遇の政策を決定あるいは改革を阻む議会に対して、議会の外側からシルバー民主主義を監視し阻止する、政治から独立した中立的な独立財政機関を設置するのです。

既に多くの先進国で設置が進み、成果を挙げています。

それから、政治に、年齢間の対立の構図を持ち込むのではなく、現行の社会保障制度を、年齢ではなく困窮度合いに応じ、必要に応じて給付を得、担税力に応じて負担をなす方向に改革することで、高齢世代と非高齢世代の持たざる者同士が手を握り多数派を形成し、シルバー民主主義の壁を乗り越えようとするやり方もあります。

シルバー・デモクラシーの罠に気をつけろ

各党の公約を見ると、消費税減税だろうと、給付金のバラマキだろうと、あたかも負担なしで給付が得られるかのように書いてあります。

こうした甘い公約の背後には赤字国債という裏があるのです。

赤字国債は結局、現役世代、特に若者世代の負担にほかなりませんから、シルバー民主主義の罠なのです。くれぐれも惑わされないようにしたいものです。

選挙に行かなきゃ始まらない

シルバー民主主義や世代間格差を指摘すると、古き良き日本の敬老精神を破壊するとか、世代間の分断を助長すると批判されることがあります。こういう感情的な批判をする人々は、高齢者が若者を搾取する構造を温存したいシルバー民主主義側の立場なので、若者が選挙に行くのが怖いのです。全く気にする必要はありません。

経済も人口も右肩下がりの日本で、若者ほど「損」をし、高齢者ほど「得」をする構造を改革するのが、世代間の分断を招くのでしょうか?現状の方がよっぽど世代間の分断を助長しています。そもそも若者が夢も希望も持てない日本を作ったのはいまの高齢者であることを自覚してもらいたいものです。

シルバー民主主義を乗り越え、日本の将来とわたしたちの未来を少しでも明るいものにするために、投票に行ったり、ネット上で情報発信を続けることで、政治に対して力強く意思表示をし、若者の力を見せつけることが大切です。

諦めずに前に進んでいくことで、味方してくれる高齢者も出てくるかもしれません。そうなれば、しめたもの。シルバー民主主義の打破ももうすぐです。

ですから、選挙に行って、シルバー民主主義も世代間格差もやっつけよう!

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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