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ロベルト・デュラン、コロナに7回KO勝ち!?

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
69歳の「石の拳」は、7日間の入院で自宅に戻った(写真:Shutterstock/アフロ)

 WBA/WBC統一ライト級、WBCウエルター級、WBAスーパーウエルター級、そしてWBCミドル級王座に就き、50歳まで現役を続けた<石の拳>ロベルト・デュラン(69)。

 新型コロナウイルス感染症で、パナマシティーにあるサン・フェルナンド病院に入院していたが、現地時間7月2日の午後に車椅子姿で笑顔を見せ、7日間での退院となった。海外メディアには「デュラン7回KO勝ち!」と報じる媒体もある。

 デュランは言った。

 「医療スタッフの皆さんには感謝の気持ちしかない。彼らは本当に親身になってケアしてくれた。その仕事ぶりには、私に対する尊敬と愛が詰まっていたね。私の命を救ってくれた」

 今回は「No Mas」とは言わず、コロナウイルスとの戦いに勝利したのか。

 ライト級で無敵の世界チャンプだったデュランは、一気に2階級上げ、1980年6月20日にWBCウエルター級王者、シュガー・レイ・レナードに挑む。会場となったモントリオールのオリンピックスタディアムには4万6317のファンで埋まった。

 ゴング前は、モントリオール五輪の金メダリストとしてプロに転向し、27戦全勝18KOの戦績で同タイトル2度目の防衛戦としてデュランを迎えたレナードの勝利を唱える人が多かった。賭け率は9-5でチャンピオン。

 しかし、デュランはレナードのお株を奪うアグレッシブさを見せ24歳の王者を圧倒する。145-144、148-147、146-144と3-0の判定で2階級制覇を達成した。

 パナマの石の拳は伝説のチャンプとなったのだ。

 そこまでは良かった。が、パナマに凱旋した直後から、デュランはパーティー三昧の日々を送り、身体が90キロまで膨れ上がる。その間、雪辱に燃えるレナードは、リターンマッチを見据えてこれ以上ないコンディションを築いた。ブクブクに太ったデュランは、戦う事へのモチベーションを失ってしまう。

 初戦から5カ月後のリターンマッチ。体重を66.6キロに落としただけの状態でリングに上がった石の拳は、第8ラウンドに「No Mas(もういい)」なる言葉を発し、試合を放棄する。その後、更に2つの階級を制したが、デュランを語る際、世界タイトルマッチの舞台で自ら試合を捨てた件は、避けられなくなった。

 80年代のパウンド・フォー・パウンド、パーネル・ウィティカーは、増量後の石の拳を認めないニュアンスで「ライト級時代のデュランが好きだった。心から尊敬していたよ」と言った。

 天才肌の選手は豪放磊落なタイプが多いが、ロベルト・デュランもその典型だ。

 そんな彼が新型コロナウイルスと最後まで戦い、退院の日を迎えたことが喜ばしい。マスク越しだが、「俺が死ぬことなんて、あり得ない」とでも言いたげな調子で家路についた。

 今はただ、デュランに「退院おめでとう!」と拍手をおくりたい。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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