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活性化し始めた2013年のモバイル音楽市場

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
Music on the go

CD売上が低迷する音楽ビジネスの世界では、デジタル化された音楽サービスが台頭してきています。新しいユーザー層の獲得と収益モデルの模索が続く中、今後大きく成長が期待されるのが、モバイルの分野です。2013年の音楽市場では、モバイル音楽ストリーミングサービスからの収益が40%以上増加し17億ドルまで拡大すると、イギリスの調査会社Juniper Researchがレポート]を発表しています。

Juniperが発表したのはグローバルおよび各地域ごとのモバイル音楽の概観とビジネスモデルを調査したレポート「Mobile Music: Market Prospects 2013-2017」。もちろんこの中には、ソフトバンク、ドコモ、auも調査対象に含まれています。

Mobile Music: Market Prospects 2013-2017

モバイルキャリアとの提携が成長のカギ

Juniperによれば、2013年にモバイル音楽ストリーミングが初めてモバイルダウンロードの収益を上回ります。Juniper Researchでは、携帯キャリアと音楽ストリーミングサービスとのパートナーシップが強化されることがプレミアムサービスへの加入を促進させ、モバイルサービスの成長につながると強調しています。例を挙げると、スウェーデンのTeliaSoneraとSpotifyの提携、ドイツのT-MobileとSpotify、同じくドイツではO2とSimfy、フランスではOrangeとDeezerなど、各国の大手キャリアは音楽サービスをバンドルしたプランを提供し、月額の利用を携帯料金と一括で支払うシステムを展開しています。

Jupiterは今年最も大きく成長が期待できる市場は米国と予想しています。その大きな要因にはアップルが開発中と噂される「iRadio」と呼ばれるオンラインラジオサービスの存在が影響しています。

一方で、大手企業は音楽ストリーミングの分野での主導権をめぐり、SpotifyやPandoraなど先行するサービスとの競争を加速させていくとレポートは示しています。

レポートの著者Windsor Holden博士によれば、「歴史的にAppleやGoogle、Amazonなどテック企業はダウンロードしたトラックの保存目的でクラウド型のストレージに注力してきました。AppleがiRadioを開始することで、大きなプレッシャーを既存のサービスに与え、そしてその他の大手企業もAppleに競合するサービスを提供せざるを得ない状況を生み出すでしょう」とコメントしています。

レポートでは、モバイル音楽ストリーミングサービスにおいてコンテクスト(文脈)の重要性が増加し、SNSでの共有やフィード、フォローといったソーシャル機能が今後ますます進化して行くと。またリングトーンなどダウンロードは引き続き減少して行くと予想されます。

消費者のモバイル利用の変化に目を向けてみたところ、ComScoreが今年2月に出したモバイルにおける消費者の行動調査の結果の中で、回答者の48%が「音楽を視聴する」をスマートフォンで頻繁に行う行動の4番目に挙げています。

Mobile future in focus report 2013

最新のデジタル音楽ビジネスの動向からもモバイルが成長分野であることが伺えます。スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスも含めてデジタル音楽の消費は年々増加しています。国際業界団体のIFPI(国際レコード産業連盟)による年間レポートによれば、2012年はようやくデジタルでの収益がフィジカルの減収を上回ったことで、13年ぶりにプラス成長を遂げました。

その中で、今後大きく成長が期待される音楽ストリーミングサービスでは、前途のフランスを拠点にする音楽サービス「Deezer」が、60%の新規有料会員をモバイル経由で獲得していたり、米国最大のネットラジオ「Pandora Radio」の登録ユーザー数2億人の内1億4000万人はモバイルデバイスからアクセスしたなど、現状からも今後への期待がかかります。モバイル環境における音楽体験がビジネスの活性化を促進する要因の一つだと言えます。

2012年の音楽売上、ナップスター登場以来初めて世界的にプラス成長、デジタル音楽売上がさらに拡大

また、モバイル環境での音楽の楽しみ方を変えてくれるアプリ同士の連携も、今後は期待出来そうです。その最たる例がTwitterが始めた音楽サービス「Twitter #Music」で、サービス内の楽曲フル視聴はストリーミングサービスのSpotifyとRdioと連携して提供されます。モバイル市場での音楽視聴がこれからも活性化していくと、今後もユニークな形で音楽を体験できるモバイルアプリが登場することが予想されます。その意味でもTwitter #Musicは2013年のベンチマークの一つになるのではと思います。

勿論、上記の可能性はサービスローンチをいち早く行う米国やヨーロッパな場合が大抵で、ライセンシングなどローカルの規制に制限されがちな日本市場ですぐに大きな影響を与えることはないでしょう。AppleやGoogleなど大企業がサービスを本格展開し、SpotifyやRdioなどスタートアップが日本上陸または日本語対応するなど、海外で起きているモバイル音楽の波が日本で本格的に浸透するまでは、少なくとも今後2-3年は有すると思います。

ですが、すでにDeNAのGroovyやKDDIのKKbox、レコチョクBestで見られるように日本独自のサービスもスマートフォン向けに始まっています。今年は日本市場においても、モバイル音楽で新しいユーザー層を拡大するチャンスの年ではないでしょうか?

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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