ガーシー議員は「除名」されるか。国会の役割と懲罰に至る過程、動議をためらった訳や普段の懲罰委員会など
参院選で当選したNHK党のガーシー(本名・東谷義和)議員が当選後1度も国会に姿を現さないのを重くみて与党・自民党が懲罰に向けた動きを始めました。このケースを解説しつつ国会の「そもそも」も考え合わせていきます。
今回は参院議長の「招状」送付の結果次第
国会議員が国会に来て負託に応えるべく職務を果たすのは当然です。正当な理由がないまま欠席を続ければ当然問題視されましょう。
ガーシー議員は既に昨年8月3日~5日および10月3日~12月10日に開かれた臨時国会を欠席。今月23日からの通常国会にも出ていません。
通常国会は4月から1年間の年度予算を審議するという非常に重い任務を国会議員に課します。
国会は委員会中心主義を採用していて17ある常任委員会で可決された法案などが本会議にかけられます。国会議員は1つ以上の常任委員である必要があります。ガーシー議員は総務委員会に属していて、そこに付託された法案や予算案などの審査を放棄しているばかりか、最終的な採否を求める本会議にもいないのです。
こうした行いは既に国会法124条「議員が正当な理由がなくて召集日から七日以内に召集に応じない」に該当し国会審議の司令塔たる議院運営委員会からの登院要求に応じませんでした。同条は「応じない」議員には議長が発した招状を受け取ってから7日以内になお正当な理由なく欠席を続けたら議長が懲罰委員会に付すると規定しています。
今回はいよいよこの「招状」が送付させるもよう。なお応じなければ2月上旬にも懲罰委が開かれるとみられます。
「除名」が現実味を帯びる最大の理由
懲罰とは憲法58条に定められていて議院(ガーシー氏の場合は参議院)が「院内の秩序をみだした議員」と認めたら「できる」。軽い順に
・公開議場における戒告
・公開議場における陳謝
・30日以内の登院停止
・除名
の4段階で最も重い「除名」となれば議員資格を喪失します。参議院規則では「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者」が対象。重大な決定なので憲法は「除名」のみ議院の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とすると定めています。
ガーシー議員の「除名」が現実味を帯びる最大の理由は、それより軽い処分に意味がないというのが大きい。「議場」とは本会議が開かれる部屋を指すので「戒告」(議長に叱られる)の場も国会。そこに対象の議員がいて、起立して、議長の戒告文を聞かせるのですが、何しろガーシー議員のケースは本人がいないわけで。「陳謝」も本人がそこで陳謝文を朗読する必要があるのに、いなければできようもありません。
「登院停止」に至ってはまったく無意味。来ない者に来るなと宣しても何の痛痒も抱かないでしょう。思い知らせるには除名しかないのです。
懲罰動議をためらった過去の出来事
除名を含む懲罰は前述のように議長が懲罰委へ付す以外でも国会議員の出す懲罰動議によるものがあります。
国会議員の本来の仕事はいうまでもなく立法。うち法律案を内閣(行政府)が諮るのを閣法と呼ぶのに対して議員自らが作って掛けるのが議員立法です。また、しばしば「決議」も行います。国会の意思表示です。衆議院の内閣不信任決議以外は法的拘束力がありません。「国会の意思」なので全会一致を原則とします。
「動議」とはこれらと異なる予定外の議題の提案です。懲罰動議の場合は衆議院40人以上、参議院20人以上の賛成で国会へ提出可能。もし出たら議長は賛成・反対の討論をしないまま議院の決を採って可となれば懲罰委員会に付される流れです。
冒頭に述べたように当初はこちらをにらんだ動きでした。自民党単独で参議院議員20人は集まりますが、あえて野党第1党の立憲民主党にも同調を呼びかけ、野党協議で異論も出たため議長による「招状」送付へと転換しました。
自民が単独でことを進めず、野党から出た異論も了として動議に至らなかったのはたぶんに懲罰、特に「除名」が視野に入ると非常に重い決断となるから。大日本帝国憲法下の帝国議会で後に高く評価される「反軍演説」を行った斎藤隆夫衆議院議員を「除名」にした言論弾圧の愚を間違っても繰り返したくないという思いは通底しています。
本来、懲罰委は国家基本政策委員会と並ぶ2大「ヒマ」委員会
ではいよいよ懲罰委員会に掛かったらどうなるか。先に紹介した17の常任委員会のうち懲罰委は国家基本政策委員会と並ぶ2大「ヒマ」委員会です。後者は首相と野党党首による討論(党首討論)を担うも近年は滅多に行われていません。懲罰委は案件がなければ開く必要なし。決定まで至ったのは衆議院で07年、参議院で13年が最後。いずれも30日の登院停止処分でした。
ヒマゆえにこの2つの委員は自民党の党務を担う4役や元首相といった大物および主要野党の党首などが名を連ねています。衆院懲罰委だと菅義偉元首相、二階俊博元自民幹事長、泉健太立憲代表、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長など。いったん始まると一転して責任重大となるため大物を配しておくのが収まりがいいという側面もあるのです。
委員会は懲罰に相当するか、するとしたら処分は何かを審査して決を採った結果を委員長が本会議に報告した後に本会議で議決。ここで先述のように「除名」のケースのみ3分の2以上の同意が必要です。