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記者会見する側だけでなく、記者たちも評価される時代

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

選手の会見で気になった記者たちの質問

 22日午後の日大アメフト部の選手の会見時、私はたまたま移動中で会見のライブ配信をスマートフォンで視聴できた。移動の時間がちょうど会見の核の部分と重なりほぼすべてを見たのだが、選手の潔い会見に感心した一方で記者たちの質問が気になった。この会見では事実関係の確認が重要のはずで、整理して選手が話したにしても、まだまだ確認すべき点があったはずだ。そういうまっとうな質問もあるにはあったが、選手から監督コーチへの批判や憎しみを引き出そうとの意図が透けて見える質問が多かった。また「あなたにとってアメフトはどのような存在か」という、意図不明な質問も出てあきれた。大きな賞をとった映画監督に「あなたにとって映画とは何ですか?」と聞くのならわかるが、そういう文化芸能の会見と勘違いしていないだろうか。

 ところが感心したのは、質問する側の体たらくをものともせず、選手の回答が素晴らしかったことだ。憎しみを引き出すような質問には一貫して「どんな指示が出たにしてもルールを破って怪我をさせたのは自分です」と答えていた。そういうポリシーをあらかじめ決めていたのだろうが、「あなたにとって・・・」という間の抜けた質問に「質問の意図がわかりません」とは言わず、真摯に回答していた。そのおかげで質疑応答が成立した。質問者は彼に感謝すべきだと私は思う。

 私と同じように感じた人は多かったらしい。ツイッターでも似たことを言う人を多く見かけた。また記事もいくつか出てきた。テレビ解説者の木村隆志氏は東洋経済オンラインで「日大アメフト選手の償いとメディアの無慈悲」と題した記事を書いている。後半で、質問のまずさを指摘しておりそれを「メディアの無慈悲」と呼んでいるのだ。この記事は、なんとFacebookシェア数が1万を超えている。それだけ共感された、つまり多くの人が同様に感じていたことのひとつの証だろう。

 他にも同じ方向の記事はあったが、こんなツイートも話題になっていた。

 会見する側が提示した条件にメディア側が完全に従うべきとも思わないが、この会見は20才になりたての大学生のものだからと最初に断りがあったことを思うと、どうだろうか。リツイート数もいいね数も2万件を超えていることが、共感の大きさを物語っている。

 気になる方は、AbemaTVによる会見のアーカイブ映像があるので確認してみるといいと思う。どのメディアがどんな質問をしたか、そのまま確認できる。

Abema TVによるアーカイブ映像

監督コーチの会見が荒れたのは広報だけのせいか

 23日夜には日大アメフト部の監督とコーチによる会見が行われた。こちらもライブ配信で見ることができた。ほぼほぼ全体を見ることができたが途中で見るのをやめた。あまりにも質問の時間が長かったからだ。これもアーカイブがあるので未見の人は見てもらうといい。

 ここでも事実確認が重要のはずで、とくに前日の選手の会見の内容と何が同じでちがうのかをはっきりさせる必要があった。そういう質問も多かったが、またもや意図不明な質問も多かった。さらに、監督もコーチも話が長く質問に対してずいぶん遠いところから話しはじめるので捉えにくくわかりにくい会見だった。途中から「その質問前に別の人がしたんじゃない?」と言いたくなる質問が増えたので見るのをやめた。司会する人物が「質問はひとつに絞ってください」と苛立った言い方でさえぎるので不快な空気が漂ったせいもある。大学生だったから一人ひとつだったのに対し、監督コーチの会見でも絞るのはちょっとおかしいと思った。

 あとで知ったのだが、最後は荒れてボロボロの場になっていた。こうなったのはここで不満をあらわにしている日大広報の責任だろう。そもそもこの会見はひどかった。何の下打ち合わせも方向性も固めていないのがありありとしていた。広報不在と言っていい。そのくせ一人ひとつの質問に絞れと言ってくる。上から目線で対処してはいけないという、広報の基本姿勢ができていないのだ。

 だが広報の人物が言う「さっきから同じ質問ばかりしている」というのも事実だ。何回も別々に質問してちっとも話が深まらないから私は見るのをやめた。自分たちでも「もう聞いてもムダ」とは思わないのだろうか。

 日大広報の責任のほうが重いが、メディア側もグダグダだった。どっちもどっち。同じ穴のムジナだ。前日の会見で20才の大学生が実に立派だったのと比べると、大人はダメだなと自戒も含めて思った。

記者会見はライブ配信され記者の姿もさらされる時代

 ここ数年、あちこちのメディアやプラットフォームがライブ配信をはじめた。何か重要な会見があると、どこか探せばライブ映像で視聴できる。それを見越してか、地上波テレビではあまり会見の生中継をやらなくなった。

 ライブ配信された映像はアーカイブ化される。だから今回の件も2回の会見がそのままネット上に残され、あとからでも確認できる。

 これまでは会見を収録して編集したものがニュースの時間に流されるのを見るしかなかった。なかなか会見の全体を見る機会は少なかった。だがいまは、ライブ配信でその瞬間を丸々見ることができる。あとからアーカイブで見ることもできる。編集されていないので、いい質問もおかしな質問もすべてチェックできる。

 自分で見なくても、ネット上の誰かが細かくチェックして教えてくれたりする。さっきのツイートが典型だが、どこかにひとりマメな人がいれば調べたことを多くの人が知ることになる。質問する際は媒体名を名乗るので、どの番組の記者が恥ずかしい質問をしたのか、白日の下にさらされるのだ。そういう時代になっている。

 そのことに無自覚なメディアが多いのではないだろうか。

 それから面白いのが、今回の会見で質問したのはほとんどがテレビ番組名を名乗っていた。新聞や雑誌の記者はいないのか、質問しなかっただけなのかわからない。とにかくテレビだらけだ。しかも同じテレビ局の違う番組の記者がいたりする。

 ここ数年、朝から晩までワイドショーのような情報番組のようなものが増えている。それぞれの番組で、ボードをつくって隠した部分を剥がしながら話を進めるのだ。そんな番組で、おそらくこの会見についても朝やって昼やって午後やって夕方やって夜またやるのだ。なんとも効率の悪いことだと思う。だから同じような質問を同じ局の別々の番組が聞くことになる。そうした番組では自分たちのスタッフの質問を番組内で使いたがるので、質問も多くなるのだ。

 いま規制改革推進会議という場で、電波割当が議題に上り、テレビ局側としては自分たちは社会的役割を果たしてきたので今後も電波が必要だと主張している様子だ。それはそれですべき主張なのだろうが、会見のたびに「どんなお気持ちでしたか」のような質問をしていると、社会的役割を疑問視されかねない。

 いま会見でさらされるのは、会見する側だけではない。質問をする側もさらされている。そのことを自覚し、何を聞くかくらいもっと事前に打合せすべきではないだろうか。さもないと、電波割当について誰も味方してくれなくなりかねないと私は思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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