「新・ガザからの報告」(6) (24年6月21日)ーハマスの組織とイデオロギー(思想)は別ー
【ガザは内戦に近い状態】
(Q・最近の動きを教えてください)
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の代表がイスラエルの外相と会談し、人道支援の必要性について話をしました。とりわけガザ北部の住民が極端な食料不足に苦しんでいるからです。UNRWAの代表は外相に「今の状況では人道支援ができない。銃を持ったギャングたちにUNRWA職員の安全が脅かされている。だから自分たちの任務を今後果たせるか保証ができない」と伝えました。
これは現実です。ガザでは絶えず、このギャングたちに脅かされています。彼らがトラックを停止し、トラックの所有者や運転手にお金を支払うように要求します。金を払えば、ここを通行できるが、もし払わなければ、支援物資を盗むというのです。この数日にギャングがトラックを襲い、金を要求するの犯罪が急増しています。
(Q・このギャングはハマスに関係があるのですか?ハマスはこれをコントロールできないのですか?)
あるファミリーやある団体に属しています。ハマスが「人民委員会(Popular Committee/略してPC)」を創りました。彼らは武装し、その役割は支援トラックをガードすることです。さらにマーケットでモノの値段をコントロールすることも彼らの役割です。高い値段でモノを売るのを抑えるためです。
4日前に12人のPCメンバーがイスラエル軍に殺害されました。次の日には10人が殺され、2日間で22人が殺されました。住民はトラックを襲撃しようとします。飢餓状態にある者、物資を盗むギャングたちです。状況はとてもひどく、一種の内戦状態です。いつも銃撃戦を耳にする。それはギャングとPC、ファミリー間の銃撃戦です。パレスチナ人自身の争いです。私はデイルバラ町に住んでいますが、住民の間の争いによる銃撃音が絶えず聞こえてきます。この衝突にはイスラエル軍は関係ありません。
(Q・ギャングとハマスの関係がわかりません。ハマスはギャングをコントロールできないのですか?ギャングやファミリーなどとハマスとの関係はどうなっているのですか?)
あなたにはそれを理解するのは難しいでしょう。まさにカオス(無秩序)です。お互いが戦いあっています。ハマスはファミリーやギャングと戦っている。ギャングはファミリーやハマスと戦っている。それがはっきりしない。私たちにもよくわからないのです。強力なファミリーはたくさんの武器を持っています。
人道支援トラックの安全な通行のためにハマスが組織化したPCが、支援物資の一部をハマスのために奪っています。それでファミリーやギャングがハマスに「我われにも分け前を与えろ」と反発し、彼らが分け前をと要求しています。しかしハマスは拒絶し、彼らに「我われは政府であり、ガザを支配している。だから誰も分け前を求めることはできない」と主張したため、ギャングがPCを攻撃し始めました。
(Q・そういう情報は外にはまったく伝わってきませんが?)
誰が誰と戦っているかが明確ではなく、今起こっていることはよく理解できません。地元のメディアはこの問題について言及すること、今ガザ内部で起こっていることを伝えることは許されていません。地元のジャーナリストはイスラエル軍との戦いは伝えられるけど、今起こっているパレスチナ人の間の争いは伝えることができなのです。
私が今、毎日聞く銃撃の大半は、イスラエル軍との戦闘ではなく、内戦による銃撃音です。実態は内戦です。ギャングとファミリーとハマスの戦闘員との間での戦いです。
【ハマスが設立したPC(人民委員会)の役割】
(Q・ハマスとPC〈人民委員会〉の関係を詳しく説明してください)
PCはガザ地区のある地域に限定されています。北部では見られません。デイルバラ町、近くの難民キャンプ、そしてハンユニス市の一部、それにイスラエル軍が侵略する前のラファ市です。だからガザ地区の南半分です。このグループはハマスによって創設され、ハマスによって武装化されています。ハマスがカラシニコフ銃などをこのメンバーに与えています。
そのメンバーの大半は北部から避難してきた貧しい少年たちで、ホームレスでテント暮らしをしています。ベイトハヌーン町やベイトラヒヤ町、ジャバリア難民キャンプなど北部から避難してきた人々は貧しく、テントで暮らすホームレスで、道路の際で暮らしています。彼らの多くは北部から避難してきたが、周囲から無視される、貧しい少年たちです。他に何もすることがなく、いちばん使いやすい若者たちです。
ハマスはこの少年たちでPCを組織しているのです。彼らを働かせるため、少しのお金と物資を与えています。小麦粉、砂糖、缶詰など食料です。ハマスは彼らに銃も与えます。
このメンバーの中には殺された者も少なくありません。数日前に起こったようにイスラエル軍の攻撃で22人が殺されました。3週間前にはデイルバラ町で住民と衝突する事件がありました。デイルバラ町の大きなファミリー、アブ・サムラのファミリーとPCのメンバーが衝突し、9人が殺されましたが、6人がPCのメンバーでした。3人はアブ・サムラのファミリーです。
(Q・なぜ衝突したんですか?)
前に言ったように、PCは2つの役割(ミッション)があります。1つは支援物資を乗せたトラックを守ること。2つ目は、マーケットを組織化し、そこでのモノの値段をコントロールすること。泥棒を逮捕し、独占を防ぎ、マーケットをコントロールすることです。
その時、デイルバラ町のマーケットで、アブ・サムラのファミリーのメンバーと問題が起こりました。ファミリーの男が物を売っていました。PCに金を払わなかったために、その男はマーケットから追い出されそうになりました。男とPCは喧嘩になり、PCがその男の脚を撃った。それでファミリーメンバーが復讐のためにマーケットにやってきて、両者が衝突するのが目撃されました。
(Q・ハマスはこれに干渉したのですか?)
ハマスは干渉しませんでした。イスラエル軍のドローンがいつも上空に展開しているからです。ハマスのメンバーをみつたらイスラエル軍は彼らを殺します。だから戦闘員はトンネルに隠れ、表に出てこようとせず、PCをサポートしなかったのです。
(Q・PCの数は全部でどのくらいなのですか?)
500~700人くらいです。
(Q・PCはその物資のいくらかハマスに渡すのですか?)
その通りです。それは明らかです。ハマスは時々干渉しますが、今はデイルバラ町では干渉しません。その空にはたくさんのドローンが監視しているからです。だから地上に出てきて、PCをサポートすることはできません。他の場所ではハマスはPCをサポートしています。2カ月前にヌセイラート難民キャンプで衝突が起きた時にはハマスがPCを支援しました。PCがハマスのために活動していることは明らかです。
(Q・ハマスが支援物資から盗んでいることはどうやってわかるのですか?)
それはすべての人に明確なことです。支援物資のトラックがガザに入ってくる。国際機関か通常の商人が所有する物資です。それをガザに入れる時にはPCと調整しなければなりません。PCがトラックをガードするからです。それはイエスかノーの問題ではない。そうしなければなりません。もし拒否すれば、トラックは彼らに攻撃され、収奪されるからです。一定の金を支払わなければならない。トラック1台に5000IS(約20万円)ほどを徴収していると言われています。商人の中には金を支払わない者もいます。金ではなく、物資の一部を持っていけと言うのです。国際機関でも同じことが起こっていて、UNRWAなどもこの状況にいら立ってiいます。PCに金を支払うことを義務づけられているからです。
(Q・これが始まったのは最近ですか?)
このシステムが始まったのは、今年初め、1月か2月からです。
(Q・以前はPCではなく、ハマス自体がやっていたことですか?)
そうです。
(Q・なぜシステムを変えたのか?)
PCができる前はハマスが同じ役割を果たしていた。しかし戦闘で多くの犠牲者が出ると、ハマスは自らそれをやることができなくなったのです。
【ハマスのイデオロギーと組織】
(Q・イスラエル軍のスポークスマンが「ハマスは壊滅できない。イデオロギーだから」と言いましたが)
その通りです。イスラエル軍はハマスを100%壊滅することはできない。ハマスのルーツをパレスチナ社会から根絶することはできません。ハマスはイデオロギーです。彼らはかつて政治的なイスラム、「ムスリム同胞団」の組織の一部だったのです。それは世界中に広がる強力な組織です。だからハマスを壊滅することはできない。
しかしイスラエル軍はハマスの軍事的な力、軍事的な能力を根絶することはできます。ハマスのロケット弾を破壊できるし、ハマスの武装組織は壊滅できます。ハマスの幹部を抹殺することはできます。イスラエルにとって必要なことはハマスの軍事能力を壊滅することです。
ただ、ハマスのイデオロギーや思想は破壊できません。イスラエル内のアラブ系市民の中に同じようなイデオロギー、イスラム運動が存在します。彼らは政治的なイスラムの思想を信じています。ムスリム同胞団の思想です。イスラエル内でさえ、その思想を壊滅することはできないのです。いったいどうやってその思想をガザ地区で潰すことができるでしょうか。
(Q・イスラエルが今ハマスの軍事部門を壊滅できたとしても、イデオロギーが生き残る限り、また軍事部門も復活するのではないですか?)
その通りです。論理的です。ガザでハマスのイデオロギーは消滅できない。しかしイスラエル軍はその軍事能力を排除することはできます。それにハマスが回復・再建するには何十年もかかります。それほど簡単なことではないのです。
(Q・イデオロギーはせん滅できないが、軍事部門はせん滅できるということですか?)
PLOは多くの組織がいっしょになって1960年代、70年代に創設されました。そのイデオロギーによってです。PLO左派、PFLPなどは今はとても弱い、それでもイデオロギーは今も存在しています。
ならばハマスもそうです。ハマスはもっと強力です。パレスチナの大きな政党です。だからそのイデオロギーは消滅させられない。だからそれは続く。
ハマスのイデオロギーの1つは、武力闘争です。何十年かしてハマスは軍事部門を再建し、またイスラエルを攻撃するでしょう。ネタニヤフ首相の歴史、心理、彼の思想などを鑑みると、彼はハマスを壊滅することはないだろう。ハマスを弱体化することはできるでしょうが。
(Q・ハマスのイデオロギーはせん滅できない。一方で、民衆はハマスに怒っている。この矛盾をどう説明するのですか?)
人びとが「ハマスを憎む」と言うとき、それはハマスのイデオロギーを憎むということではないのです。私たちは「憎しみ」を相対的に見なければいけません。人びとは違ったレベルでハマスを憎んでいます。
ある人びとはハマスのイデオロギーとその行動の両方を憎んでいます。他の人びとはその行動を憎んでいても、そのイデオロギーは認めます。ハマスがイスラムという宗教に依存しているからです。パレスチナ人もアラブ社会も一般的にイスラムを信じています。それは彼らの心情、心に触れるものです。だからハマスのイデオロギーは多くの人びとの心をつかんでいます。
ハマスを憎む人のその「憎しみ」は相対的なものです。ある者はハマス全体を嫌っている。その行動もそのイデオロギーも、です。ある者はその行動だけを嫌っています。しかしイデオロギーは受け入れるのです。だから「相対的な憎しみ」です。
ハマスの思想はとても古いもので、パレスチナ人社会において独自なものです。ハマスはインティファーダの1987年に創設された、とても新しい政党ですが、ハマスが設立される前もパレスチナ人の間に同じような思想が存在した。ムスリム同胞団です。これは1928年に創設された。この間はおよそ60年です。この間にもパレスチナ人社会に同じようなイデオロギーが存在していました。
ムスリム同胞団のイデオロギーを排除することはとても難しい。この思想はハマス以前に民衆の間に根付いていたのです。だからそれをパレスチナ人社会から排除するのはとても困難なのです。
(Q・私たちが「ハマス」という時に、ハニーヤ、シンワールなどが頭に浮かびます。でもイデオロギーではありません。住民が「ハマスを嫌い、憎む」という時のハマスといのは組織のことですか?つまりイデオロギーではないと?)
ほとんどのパレスチナ人は、ハマスがイスラムを代表していないとわかっています。とりわけ10月7日以降です。ハマスは赤ん坊や妊婦、老人、カフェでコーヒーを飲んでいる人たち、音楽祭で踊っている人たちを殺した。とても残酷な罪を犯しました。
私はとても大事なことを言わなければなりません。
「10月7日の越境攻撃」の重要な影響は、ガザの人びとの心理に、ハマスの組織とハマスのイデオロギーを一層分離させ、ギャップを大きくしたことです。10月7日のハマスの行動は信じがたいものでした。イスラムの思想に反するものです。
そしてこの10年、20年の間に、ハマスは民衆を騙してきたことを知ったのです。ハマスのスローガン、例えば、イスラムの教えに沿った素晴らしい国を造るとか、イスラム教徒のコミュニティを作るとか、腐敗した世俗的な人間たちを排除するとかということです。
しかし10月7日の攻撃で、民衆は目を覚まし、ハマスは何年もそんなスローガンで民衆を騙してきたことを知ったのです。これが10月7日攻撃の重要な影響です。
(Q・それに最も責任があるのは誰ですか?)
最初に挙げるのはアハマド・ヤシンです。彼がハマス創設者の1人です。7人のハマス創設者がいます。ヤシンは最も人気がありました。彼は長くイスラエルの獄中にいました。また障がい者で車いすで生活していた。彼は最も有名です。彼がその思想の“父”です。他の6人の創設者は有名ではないが、彼の後には2人の人物がいます。アブドゥルアズィーズ・ランティーシー、ムハマド・ザハールです。ハマスという組織の中で実力のある人物です。ランティーシーは第二次インティファーダ中にイスラエル軍に暗殺されました。ザハールについてはどうしているのか知られていない。この戦争でまったく表面に出てきません。
その後の「スーパーヒーロー」はハニーヤです。2007年のクーデター以後、彼は首相に選ばれ、その後、全世界のハマスのリーダーに選ばれました。
(Q・「ハマスが民衆を騙した」というのは、どういうことですか?)
私が目撃したことを話しましょう。2007年、私はヌセイラート難民キャンプに住んでいました。デイルバラ町に移る前です。
6月でした。家で眠っていました。300メートル先は警察署でした。PA(パレスチナ自治政府)の警察です。
夜中にマイクロフォンの声に驚いて起きると、警察署はハマスの車に囲まれていました。ハマスの戦闘員はマイクロフォンで、その中の警官に降伏するように大声で叫んでいました。
「不信人者よ、ファタハの悪魔よ、10分だけ時間をやる。降伏しろ。そうしなければRPG(対戦車砲)で破壊する。お前たちは不信人者だ。我われにはファトアがある」と。「ファトア」は宗教的なライセンスで、ハマスのイマーン(宗教指導者)によって与えられたのでしょう。それによって、だれでも殺したり誘拐したりできる、というのです。
「我われはファトアがある。お前たちを殺してもいいと言うファトアだ。お前たちは不信人者だからだ!お前たちは悪魔だ!」と。とてもきつい言葉です。そして10分もしないうちにこの警察署を攻撃しました。そこで拘束さえていた囚人も含め、警察署の中の全ての人間を殺しました。彼らは宗教を、彼らの目的を遂げるための手段に使ったのです。
(Q・イスラエル軍のスポークスマンは、どうしてハマスの組織とイデオロギーを混同するのか?もちろんイデオロギーを抹殺することはできない。しかし組織は破壊できる。どうしてスポークマンは混同するのか?)
どうしてスポークスマンがそうするのかわかりません。
以前、ハマスを信じ支持してきた人の中にはイスラムのスローガンによって騙されたと感じている人は少なくありません。10月7日の事件は、多くの人びとに「ハマスが自分たちを騙してきた」という意識に目覚めさせたのです。
(Q・10月7日以降、人びとはハマスから騙されていたことを知った、とあなたは言ったが?)
人々の意識の変化には2つのターニングポイント(転換点)がありました。ハマスが自分たちを騙していたことに気付いたきっかけです。
1つは10月7日の越境攻撃です。多くの人が「これはイスラムに反する行為だ」と言い始めた。「イスラムはこんな行為、虐殺をすることを認めていない」と気づいたのです。
第二はハマスが引き続き停戦の拒否していることです。停戦のチャンスをハマスがどれほど潰してきたか。何度も拒否してきました。最近の提案はバイデンによる停戦案です。人びとは「なぜハマスは我われのことを尊重しないのか」と考えています。「ハマスは我われにもっと血を流させるのか! 4万人の死者と9万人の負傷者で満足しないのか!これらの数字は、ハマスがこの正気を失った行動を止めさせるのに十分でないというのか!」と。
ハマスが停戦を引き続き拒否していることが、人びとにハマスのイデオロギーとハマスの宗教的なプロパガンダについて再考させています。
以上の2つが、ハマスが自分たちを騙していたことを民衆が改めて思い知るきっかけになった。これはイスラムにとって受け入れられるものではなく、ハマスはイスラムを「手段」として利用してきた、と思い知ったのです。
(Q・人々が嫌っているハマスとはどういうハマスを指すのか?ハマスという組織とそのイデオロギーの違いは何か?)
2007年から人びとはハマスはイデオロギーにそって活動していないと見ていました。
ハマスがPA(パレスチナ自治政府)との内戦に勝利したとき、その支持者に「私たちはイスラム国家を造ると主張していました。イスラムの法典「シャリーア」に沿った国を造る、世俗的な政権は倒し、イスラムの法に従った国を造ると。
しかしガザを実効支配した後は何が起こったか。ガザにイスラムの教えにそった国を造るという約束をまったく反故にし、PAよりもひどい政権になったのです。(続く)