「武豊さんは有名です」と語るフランスから来た女性ジョッキーをインタビュー
デビュー3戦目で早くも初勝利
今週末、札幌競馬場でワールドオールスタージョッキーズ(以下WASJ)が開催される。世界中から名騎手が集い、日本のトップクラスの騎手達と競うこのイベント。新型コロナウィルス騒動により、3年ぶりの開催となる今年、フランスから参加する女性ジョッキーがコラリー・パコーだ。8月24日時点で32勝、全仏24位。2019年には同国の女性騎手リーディングに輝いた事もある彼女に、この夏のフランスでゆっくり話を聞いて来た。
フランスのパリからもほど近いエルモンで生まれた彼女。家庭は競馬とは全くの無縁だったと言いながら、こう続けた。
「ただ、私は小さい頃から動物が好きで、馬も好きだったので、ポニーに乗らせてもらいました」
それが7歳の時だったという。そして「最初は少し怖かった」そうだが、すぐに楽しくなったと続けた。
競馬学校に入学したのは14歳の時。シャンティイの隣町、グヴューという村にある学校に通いながら、厩舎で実践経験を積み、本格的に騎手への道を目指した。騎手になる決断をしたのは学校に入学する直前で、馬に乗るのは勿論「コンペティション(競い合う事)も好きだった」のが、最終的な決め手になったという。
デビュー後は僅か3戦目で念願の初勝利を挙げる事が出来た。
「ラッキーな事に早々に勝つ事が出来ました。リヨンの競馬場での初騎乗でした。その瞬間の気持ちですか? もちろん嬉しかったけど、同時にこれでやっと騎手になれたという気持ちになりました」
伯楽を師事
彼女がまだ見習いだった当時、所属する厩舎の調教にはステファン・パスキエがよく乗っていた。自然、彼と一緒に乗る機会が多かった。パスキエはディープインパクトが挑んだ2006年の凱旋門賞(GⅠ)をレイルリンクに騎乗して勝つなど、多くのGⅠ勝ちのあるトップジョッキーだ。
「ステファンは騎乗に関するアドバイスを沢山くれました。私にとっては先生のような存在で、今でも憧れであり、目標とするジョッキーです」
環境面での追い風はそんな先輩ジョッキーだけではなかった。19年に凱旋門賞(GⅠ)やジョケクラブ賞(GⅠ、フランス版ダービー)を制したソットサス、今年のジョケクラブ賞等を勝ったヴァデニら、名馬の宝庫といえる厩舎を持つ伯楽ジャン・クロード・ルジェを18年から師事すると、準重賞を含む67勝。一気に勝ち鞍が増えた。
「現在は毎朝、ルジェ厩舎の調教に乗りながら、レースではルジェと、他の厩舎の馬にも乗っています。彼の厩舎には多くの素晴らしい馬がいるので、乗せてもらえるだけで勉強になります」
日本で楽しみにしている事
19年には全仏の女性騎手リーディングとなり、翌20年、サウジアラビアの招待競走に呼ばれ、騎乗を果たした。
「フランス以外ではサウジアラビアとドイツで騎乗しました。サウジアラビアではユタカタケさんとも一緒に乗りました」
もっとも、ほとんど会話はなかったと言い、更に続けた。
「今回の日本は私にとって3カ国目の海外騎乗です。ユタカタケさんとも話をしたいです」
フランスでも毎年のように騎乗している武豊。パコーにとっても昔から知っている存在だという。
「ユタカタケさんはフランスでも凄く有名だし、素晴らしいジョッキーである事を私も実際に見て、知っています。だから会うのが楽しみなんです」
ちなみにWASJで、日本のトップジョッキーと会う事を楽しみにしているのは、彼女だけでないと続ける。フランスからもう1人、招待されているのがテオ・バシュロだ。彼もまた、武豊と一緒に乗れるのを心待ちにしていると語っているそうだ。
「テオとは日本に行くのが待ち切れないと話し合っているんです」
WASJ以外に、キーンランドC(GⅢ)でも騎乗出来そうだと伝えると「それは初耳です」と言った後「知っている数少ない日本語」(パコー)を交え、笑顔で続けた。
「ハッピーなニュースです。依頼くださった関係者には『アリガトウ』です。頑張ります!!」
初めてとなる日本の情報は、ルジェ厩舎で毎朝のように顔を合わせるクリスチャン・デムーロから集め、仲の良いミカエル・ミシェル(現在はアメリカで騎乗)が19年にWASJに参戦した時のレースVTRにも目を通したという。ランニングやクロスフィットと並ぶ彼女の趣味の1つでもあるショッピングを札幌でしたいと語る彼女は、最後に日本のファンへ向けて次のようなメッセージを口にした。
「クリスチャンとミカエルの2人からはいかに日本の競馬ファンの皆さんが素晴らしいかを聞いています。そんな皆さんに会えるのを、私も楽しみにしています」
前で競馬をするのが好きという彼女が、札幌で好騎乗を披露出来る事を、願おう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)