「ぐるなび」が始めた画期的な外国人の「アルバイト確約面接」を詳しく解説。何がよくて何がよくないのか?
「ぐるなび」がアルバイト確約面接を開始
大手飲食店紹介サイト「ぐるなび」が日本に住む208カ国の外国人が登録するメディア 「YOLO JAPAN」と提携し、2018年3月27日から東京23区と大阪市で「アルバイト確約面接」を開始しました。
「優秀な外国人採用を募集から一次面接まで一括サポート!」というコピーが打たれており、「ぐるなびが募集から一次面接までサポートするので採用までの効率UP!」という触れ込みでPRされています。
概要
「アルバイト確約面接」がどのようなものであるか、見ていきましょう。
概要は以下の通りです。
外国人のアルバイトに特化しており、飲食店の要望に適合したスタッフを、一次面接を行った上で、飲食店が行う最終面接に送り届けてくれるサービスです。
プラン一覧
料金体系は次のようになっています。
チケット制になっており、最初にチケットを購入することになります。1面接につき、1チケットを消費し、どれも有効期限は1年間です。
様々なオプションを追加することができます。
オプションはチケットを購入する際に申し込む必要があります。日本語検定といった客観的な評価もあるのは飲食店にとって安心でしょう。
ちなみに、日本語検定の程度は以下の通りとなっています。
オプションに用意されている「日本語検定3級/4級」では中学校卒業程度以上となります。それくらいであれば、日常的に使われる漢字は読めますし、コミュニケーションは問題なく行えるでしょう。
3つのメリット
ここまで概要を紹介してきましたが、メリットは以下の3つと謳われています。
外国人を必ず面接できることが最大のウリです。通常、求人媒体に載せただけで応募者が確約することはありません。求人媒体は募集情報を掲載したというだけで、応募者があろうとなかろうと関係がないからです。
いつ来るか分からない応募者を待っていることに比べれば、確実に面接できるのは、飲食店にとって心強いことでしょう。
ビザや就労時間も徹底してチェックしているので、違法に滞在していたということもなく、安心して採用できます。
流れ
「アルバイト確約面接」の流れは次の通りです。
飲食店で面接を行う前に、一度面接を行っていることは大きな意味があるでしょう。直接会って話すことによって、書類だけを判断するよりも、飲食店の希望に添った人材であるかどうかを判断できます。
一次面接で飲食店の面接を受ける意志も確認しているので、面接に現れないこともほとんどないでしょう。
従来との比較
以下を比較してみると、「アルバイト確約面接」が効率的であるとよく理解できます。
細かいことですが、「アルバイト確約面接」でも最終的にはいつ誰と面接することを決める必要はあるので、<候補者と面談日を決定>という作業がフローから抜け落ちているのは、正しくありません。
「アルバイト確約面接」では、「従来の求人媒体」にはある< 応募者の対応(メール・電話)>を行わなくてもよいです。電話に出ることも負担となる飲食店にとっては、最初の受け皿や基本的なスクリーニングを代わりに行ってもらえるのは非常に助かります。
「アルバイト確約面接」のよい点
私は次の観点から「アルバイト確約面接」は素晴らしいサービスであると考えています。
- 人材の拡大
- 期間の短縮
- 食文化の伝播
人材の拡大
飲食業界は慢性的な人手不足です。拘束時間が長く肉体的にも負担のかかる飲食店では、アルバイトだけではなく社員でも、昔よりずっと辞め易くなっています。
ホテルやレストランに悩みを尋ねると、最もよく挙げられるのは、どうすれば料理人やサービススタッフが辞めないようにするか、もしくは、新たに採用できるかです。特に若手であればあるほど、辞め易い傾向にあります。
厚生労働省が発表している<一般職業紹介状況(平成30年2月分)>で有効求人倍率を確認してみると、調理スタッフが3.35倍、サービススタッフが4.21倍となっており、人材が不足していることが分かるでしょう。
外国人の労働力を安心して容易に確保できるようにすることは、アルバイト全体のパイを大きくすることになるので、非常に価値があります。
期間の短縮
飲食店でアルバイトが辞めたら、すぐに採用してリソースを補充できるわけではありません。まず求人媒体に掲載し、そこから調整して面接を行い、互いに合意して契約してから、ようやく働くことになります。
飲食店がこういった最初の作業を行わないことで手間が省けます。そして、手間が省けるだけではなく、採用までの期間を短縮できるのが大きな利点です。
いきなり面接できることによって、採用開始から働き始めるまでの期間を短くできます。普段からギリギリの人数で回している飲食店にとっては、1人抜けただけで、料理やサービスの質が落ちてしまいます。
それだけに、1日でも早く新しいアルバイトが入ることはとても重要です。
食文化の伝播
訪日外国人は、日本の食文化を体験するために、新橋の居酒屋や新宿のゴールデン街へ訪れます。その際に、訪日外国人と同じ言語を話す外国人サービススタッフが応対すれば、正確に日本の食文化について伝えることができるでしょう。
もちろん、日本人サービススタッフが訪日外国人に応対するのもよいですが、細かいニュアンスを伝えることは難しいと考えています。
<日本のことを熟知しており、外国語が得意ではない日本人サービススタッフ>よりも、<日本のことをそれなりに理解しており、外国語が母国語である外国人サービススタッフ>が説明した方が、訪日外国人に日本の食文化を理解してもらえるのではないでしょうか。
外国人アルバイトの増加によって、より日本の食文化を伝えることができ、その結果、母国に帰った訪日外国人が、日本の食文化の伝播を担ってくれることを期待しています。
気になる点
「アルバイト確約面接」は画期的なサービスですが、少し気になるところもあります。
- 加盟店のみ
- 地方の観光地がない
- 費用が安くない
加盟店のみ
「アルバイト確約面接」は有用なサービスですが、月額1万円(税抜き)の「ビギナー会員」や月額5万円(税抜き)の「販促正会員」しか利用できず、無料の「エントリー会員」は利用できません。
飲食店を相手にビジネスを行う「ぐるなび」が展開する新しいサービスなので、有料会員に提供したいのは理解できます。ただ、人材確保や訪日外国人への対応は、日本における飲食店の大きな課題です。それだけに、いくら無料で利用しているとはいえ、「ぐるなび」に登録している「エントリー会員」にも利用できるようにしてもらいたいと考えています。
「アルバイト確約面接」はチケットを予め購入し、面接する毎にチケットを消費するビジネスモデルとなっています。そうであれば、少しでも売上を増やすために、有料会員だけではなく無料会員にも利用してもらい、どんどん面接してもらった方が「ぐるなび」にとってもよいのではないでしょうか。
新しく開始されるサービスであれば、既存の有料会員のメリットを損ねるものでもないと考えています。
地方の観光地がない
当初は東京23区と大阪市からサービスを開始しますが、サービスの性格を鑑みれば、「アルバイト確約面接」は東京23区や大阪市よりも、北海道、京都、奈良、広島といった地方の観光地の方が有意義ではないかと考えています。
地方であれば、トレンドをいく東京や大阪よりもずっと日本に根付いた伝統的な食文化を体験できます。しかし、東京や大阪に比べれば、地方には英語や中国語を始めとする外国語を話せる飲食店のスタッフは少ないでしょう。
訪日客が増えてきて、地方の観光地にも多くの外国人が訪れているにも関わらず、地方では東京や大阪よりも外国語を話せる人が少ないです。
それだけに、ビジネス的な観点はひとまず置いておき、「アルバイト確約面接」が地方の観光地に展開し、外国語を話せる外国人アルバイトを供給することは、日本にとって大きな意味があると考えています。
費用が安くない
確実に面接できるのが非常に魅力ですが、費用はどうなのでしょうか。
「アルバイト確約面接」は、面接人数の制限がない求人媒体とは異なり、1人しか面接できません。それだけに、確実によい人材を採用したいとなると、基本チケットだけではなく、中学校卒業程度の日本語を理解する「日本語検定 1級/2級」やより長く働ける「労働時間制限なし」のオプションを付けたくなるものです。
しかし、この2つのオプションを加えるとチケット単価が1万円も高くなってしまい、最低でもチケット単価が3万4千円からとなります。
飲食店専門の求人媒体における掲載期間と費用は以下の通りなので、比べてみましょう。
- 求人@飲食店.COM
30日間掲載で19800円
- ジョブレストラン
1ヶ月9900円
- テンポスジョブ
1年間10店舗まで1万円で成功報酬金額はアルバイトが2万円
- グルメキャリー
2週間で47000円
※アルバイトではなく正社員の募集
「アルバイト確約面接」では確実に面接できますが、面接したからといって採用できるわけではありません。
そう考えると、「YOLO JAPAN」との協業なので仕方ないのは理解できますが、主要な飲食店専門の求人媒体と比べると、安いとは感じられないのではないでしょうか。
求人媒体は応募人数に制限がないだけに、条件がよかったり、人気があったりする飲食店にとっては、求人媒体の方がコストパフォーマンスがよいと考えられます。
慢性的な課題
<食通であれば知っておくべき2018年の飲食店に関する5つの課題・問題>では挙げませんでしたが、飲食店における人材不足は大きな問題です。あえて挙げていなかったのは、既に慢性化している課題であるからです。
いくつか懸念も述べましたが、この慢性的な課題に対して、大手グルメサイトの「ぐるなび」が、これまでにはなかったアプローチで、外食産業にとって、いくつもよい影響のある「アルバイト確約面接」をスタートさせたのは素晴らしいことであると考えています。
2020年の東京五輪ではたくさんの訪日外国人が日本の食文化を体験することになるでしょう。その時までに外国人アルバイトが増やし、1人でも多くの訪日外国人に日本の食文化の豊かさを伝えることができれば非常に嬉しいと思います。