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SNSが10代のメンタルヘルスに及ぼす悪影響とは 米公衆衛生のトップが勧告 #令和の子 #令和の親

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:アフロ)

米厚生省のマーシー医務総監が、今月23日「SNSと子どものメンタルヘルス」に関する報告書を公開しました。

The U.S. Surgeon General’s Advisory (2023). Social Media and Youth Mental Health. (1)

アメリカの公衆衛生を統括する立場である医務総監が、SNSが子どもや青少年のメンタルヘルスに与える影響について現時点でのエビデンスを示しながら、「緊急性の高い公衆衛生上の課題」として、SNSのリスクを軽減するために即座に取るべき取り組みや規制を勧告したのです。

(※報告書では「ソーシャルメディア」と表記されていますが、本記事では日本で一般的な呼称である「SNS」としています。)

SNSの悪影響と日本の子どもの状況

10代の子どもへのSNSの悪影響について、報告書で指摘されている主な内容は以下になります。

・アメリカでは、13〜17歳の青少年の95%がSNSを利用し、平均して1日に3.5時間をSNSに費やしている。さらに、SNSの最低利用年齢が13歳とされているが、8〜12歳の子どもの40%近くがSNSを利用している。

・10〜19歳の思春期は脳の発達において脆弱な時期といわれ、この時期のSNSの頻繁な利用は脳における感情や行動のコントロールを司る部位の変化と関連し、生活満足度を低下させる。

・SNSを1日3時間以上利用する青年は、うつや不安といったメンタルヘルスの悪化のリスクが2倍という報告がある。

・ヘイトや自殺・自傷行為に関する内容など有害なコンテンツに曝される危険性。特に女子において、身体への不満、乱れた食行動、他者との比較、自尊心の低下を持続させる可能性が高い。

・3人に1人の青少年が平日に夜中またはそれ以降まで使用している、11~15歳の女子の3分の1以上が特定のSNSに依存していると報告。青少年の過剰なSNSの使用は、睡眠の質の低下、睡眠時間の短縮、睡眠障害、うつとの関連が示されている。

日本における子どもや青少年のSNS利用率は、6〜12歳で36.8%、13〜19歳で90.7%と報告されており(2)、アメリカの利用率よりもやや低いものの大きな差はありません。利用されているアプリは、動画共有系のYouTubeを除くと、LINEが最も多く、Instagram、Twitter、TikTokの順で利用率が高くなっています (3)。

LINEは家族や友人間での主な連絡手段としての利用が多いと思いますが、Instagram、Twitter、TikTokについては、現実の友人とのやり取りだけでなく、オンライン上で知り合った他者との繋がりや交流が広がりやすいアプリといえます。また、さまざまな人が投稿する情報の中には青少年にとって有害な情報も含まれ、意図せずとも触れてしまうこともあるでしょう。

日本でも、子どもの極端なやせ願望、摂食障害や市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)などが社会的に問題となっており、その背景の一つには、SNSの普及が影響していると指摘されています。

SNSが悪影響を及ぼすのはなぜか?

10代は、欲求や感情を司る大脳辺縁系の成熟が先行するのに対して衝動性をコントロールする前頭前野の成熟は本格化しておらず、リスクのある行動をとってしまいやすい時期といわれています (4)。SNSはプッシュ通知やスクロール、「いいね」などの機能により長時間利用してしまいやすい仕組みがあり、特に10代の子どもは大人よりものめり込みやすいと考えられます。

SNSにのめり込む中で、一部のSNSのコミュニティが自分にとって居場所となることもあります。現実よりもSNSの中での価値観などが優先されるようになると、危険な行動であっても、一時的にストレスや不安などが和らぎ、安心感を得られるような行動をとってしまう可能性があります。

悪影響を防ぐためには?

もちろん悪い影響だけではありません。有益な情報を得たり、視野を広げたりといった利点もあります。また、SNSを通してのほうがSOSを出しやすいという子もいるかもしれません。だからこそ、子どもへの悪影響を防ぐための方策を講じることが急務といえます。

報告書では、SNSが子どもたちにとってより安全で健康的なものになるために、政策立案者、テクノロジー企業、研究者、家族、子ども自身が取るべき行動を紹介しています。

・政策立案者:あらゆる年齢の子どもたちにとってより安全でプライバシーを保護し、デジタルとメディアのリテラシーを支援し、さらなる研究に資金を提供するために、安全基準を強化し、アクセスを制限する措置を取ること。

・テクノロジー企業:子どもに与える影響について評価し、理解を深める。プライバシー保護や最低年齢の遵守などの設計、苦情に効果的かつ迅速に対応するシステムを改善する。

・研究者:子どもの健康をサポートするための基準の確立とベストプラクティスの評価をサポートする。SNSと子どものメンタルヘルス研究を進める。

・保護者:家庭内で、睡眠を保護し、現実の人間関係をよりよく育むためにデジタルを使用しない場所をつくるなどの計画を立てる。また、子どもに責任あるオンライン行動について教え、模範とする。問題のあるコンテンツや行動を報告する。

・子どもや青少年:SNSを利用する時間を制限する、不要なコンテンツをブロックする、個人情報の共有に注意する、自分や友人が嫌がらせや虐待を見かけたら連絡する、といった健全な習慣を身につける。

まず家庭でできることとは?

政策や企業の取り組みは今後ますます重要になると思いますが、すぐに改善するものではなく時間はかかるでしょう。現状においては、まず各家庭の中で対策を取っていくことが大切になると思います。

しかし、急に利用を制限したり、監視したりするのは子どもが保護者に対して反発を招くことがあり、得策ではありません。第一歩として、SNSの利用についてポジティブな面とネガティブな面、両面を子どもと話し合うことをお勧めします。その上で、「して(見て)はいけないこと」と「して(見て)もよいこと」を具体的に線引きし、必要な制限機能を活用することを検討してみてください。

〈引用・参考文献〉

(1) The U.S. Surgeon General’s Advisory (2023). Social Media and Youth Mental Health.

(2) 総務省 情報流通行政局(2022)令和3年通信利用動向調査報告書(世帯編)

(3) 総務省 情報通信政策研究所(2022)令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>

(4) Giedd, J. (2015). The amazing teen brain. Scientific American, 312(6), 32-37.

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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