「ハイスコアガール」事件和解と日本の著作権法における刑事罰規定の問題点について
スクエアエニックスが出版していた漫画作品「ハイスコアガール」でゲームのキャラクターを無断使用されたとして、SNKプレイモア社が訴えていた件が和解に至ったとのプレスリリースが出ました(参考記事)。両社は刑事告訴と民事訴訟を取り下げ、「ハイスコアガール」の販売と出版は再開されるようです。泥仕合が回避されたことをまずは喜びたいです。
この事件は、民事訴訟に加えて、SNKプレイモア側が刑事告訴を行なっていたという点でちょっと珍しいケースでした。これに関連して、2014年8月5日にスクエアエニックスは大阪府警の家宅捜索を受けています(参照記事)。
海賊版の製造・販売等の侵害が明らかであり、悪質で社会的影響が大きい著作権侵害が刑事事件化されることはありますし、それは適切と思いますが、このような普通の企業間のライセンス関連の争いが刑事告訴されることは(法律的には間違っていないのですが)違和感があります。本来的には当事者どうしが民事で争うべき案件と思われるからです。
そもそも、日本の著作権法の規定上ではほとんどの著作権侵害が(故意を要件として)刑事罰対象となってしまいます(すなわち、警察の捜査対象となってしまいます)。通常の企業間の争いが、刑事事件化され、今回のように家宅捜索が入ってしまうと、訴えられた側はパソコンの押収等、事業運営上必要以上に大きな損害を受けかねません。さらには、(ちょっと先行き不透明感もありますが)TPPによる著作権侵害罪の非親告罪化が加わるとこの問題はさらに深刻になり得ます。
これについては、昨年の12月に知財専門家等が、このような著作権侵害が必ずしも明らかではない争いにおける刑事手続の採用に反対する声明を発表しています(参照記事)。また、今年の3月には、この事件を中心的に扱った、明治大学知的財産法政策研究所主催シンポジウム「著作権・表現の自由・刑事罰」が開催されています。議事録全文がウェブで公開されていますので、ご興味ある方は是非ご一読下さい(特に、金子敏哉明治大学法学部准教授の講演)。
私はこのシンポジウムを会場で聞いていましたが、中山信弘特任教授の冒頭挨拶における「刑事罰というのは劇薬であり、その用法を誤りますと、大変な副作用をもたらします」という言い回しがまだ心に残っています。
ここから先の論考は長くなるのでまた回を改めて書くことにします。