米国のミサイル迎撃に北朝鮮は反撃するか!?
豪紙デーリー・テレグラフが10日付けで当局筋の話として報じたところによると、米政府はオーストラリアなど同盟諸国に対し、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、迎撃する態勢が整ったと通知し、厳戒態勢で備えるよう要請したとのことだ。
事実ならば、同盟国の日本にも同じような通知があったのではないだろうか。実際、日本は米中相会談直後の7日に河野克也統合幕僚監部幕僚長命令に基づき海上自衛隊のイージス艦3隻(4隻体制のうち1隻はドッグで修理中)を日本海に緊急展開させている。
トランプ政権が原子力空母「カール・ヴィンソン」を朝鮮半島近海に再び急派したのもその関連とみて間違いない。「カール・ヴィンソン」は左右に駆逐艦2隻と巡行艦1隻を伴っているが、どれもイージスレーダーを備えており、1000km外の弾道ミサイルの追跡が可能だ。また、「海上のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)」と称される高度1000kmまで撃墜可能なSM-3を搭載している。
北朝鮮のミサイルについてはオバマ政権時からペンタゴンは撃墜を検討してきた。金正恩党委員長が今年の「新年の辞」で北朝鮮初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が「最終段階に達した」と発言した際にもカーター国防長官(当時)が「我々を脅かすものであれば、また我々の同盟や友人を脅かすならば撃墜する」(1月8日)と迎撃を示唆していた。
また、米国防省ミサイル防衛局(MDA)のシリング局長は翌日の1月9日、ブルームバーグ通信とのインタビューで「米国の防御システムは信頼できる。北のICBMを迎撃できる」と述べ、ICBMが発射された場合、ミサイル防衛網を指揮する北部司令部が迎撃する計画を明らかにしていた。
北朝鮮のミサイル発射は今年に入って4回行われているが、一番新しいのは米中首脳会談直前の4月5日のミサイルで失敗に終わっている。こうしたことから失敗したミサイルの再発射、あるいは北朝鮮初のICBMの発射が金日成主席生誕105周年(4月15日)や朝鮮人民軍創建85周年(4月25日)に際して強行される可能性が指摘されている。
シリング局長は米国の追加迎撃試験を4月から6月の間に実施すると発表していた。ならば、この期間に北朝鮮からミサイルが発射されれば、まさに「飛んで火にいる夏の虫」である。折角のターゲットを撃墜しない手はない。着弾地点に関係なく仮に日本列島を飛び越え太平洋(米国)に向かって飛んで来るならば迎撃の可能性は極めて高い。
当然、北朝鮮の反撃次第では、軍事衝突を覚悟しなければならないが、昨年11月に韓国に赴任したブルックス駐韓米軍司令官は「我々はあらゆる 準備態勢を整えていく中で戦争という最悪の状況は避けたいが、戦争をするしかないという、そういう瞬間には戦争を準備すべきだろう」と語っているので、覚悟も、備えも十分に出来たうえでの迎撃となるだろう。「カール・ヴィンソン」の朝鮮半島近海への急派はそのための布石とも言える。
では、北朝鮮はミサイルを迎撃された場合、反撃するのか、あるいはできるのか?
米国はオバマ政権下の2009年にゲーツ国防長官(当時)は北朝鮮が「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射に「発射すれば迎撃も辞さない」と威嚇したことがあった。今と同じく、韓合同軍事演習の真っただ中にあった2009年4月のことである。
これに対して北朝鮮人民軍参謀部は「(米国が)人工衛星に迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出し、そして4月5日に予告通り発射を強行した。
北朝鮮国防委員会の朴林洙政策局長は長距離弾道ミサイル発射の直後に訪朝した元米国務省元高官に対し「迎撃は戦争行為と見なし、わが方はただちに空軍機で迎撃ミサイルを発射した日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と語っていた。
当時、日米両政府はミサイル本体や燃焼後のブースター(推進エンジン)が日本の領土領海に落下する事態に備え、日本海に「ちょうかい」など2隻のイージス艦を配置、米軍と共同でミサイル防衛(MD)システムによる迎撃も検討していた。
驚いたことに「イージス艦撃沈」の指示は最高指導者の金正日総書記ではなく、当時まだ25歳の金正恩氏から出されていた。実際に金正恩政権が発足した2012年、自身の28歳の誕生日にあたる1月8日に放映された「金正恩活動記録映画」をみると、金正恩氏はミサイル発射を父親と共に平壌の管制総合指揮所で参観していた。映画のナレーションでは「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との金正恩委員長(当時党中央軍事委員会副委員長)の言葉が流れていた。
北朝鮮は日米のイージス艦に対する攻撃手段として特攻隊を編成し、スタンバイさせていたことが、2015年3月に金委員長が航空部隊を視察した際に朝鮮中央通信が「(2009年4月の)光明星2号(テポドン)の発射成功を保障するため作戦に参加し、偉勲を発揮した14人の戦闘飛行士らの偉勲を称えた記念碑の前で記念写真を撮った」と報道したことで判明した。
偉勲を称えられた14人は「党の命令貫徹のため死を覚悟し、決死戦に出た戦闘飛行で肉弾自爆した」と紹介されていたが、実際には自爆はなく、飛行訓練で1人が亡くなっただけで、残り13人は健在だった。彼らは、日本的に言うならば、「特攻隊」であった。
当時と違い、8年経った今では、北朝鮮のミサイル性能も向上し、地対艦ミサイルも保有しているのでこうした原始的な手法を使うことはないと考えられるが、今回は2009年の時と違って、「人工衛星」ではなく、明らかに軍事用のミサイルの発射である。それが、日本、米国に向けて発射されれば、迎撃の対象となるのは当然である。迎撃されたからといって、反撃はできないのではないだろうか。