2%の物価上昇、実現すれば超円高?
高い流動性誇る日本市場は外国人投資家の投資対象としてベスト
いよいよ衆院総選挙まで1週間と迫ったが、どの調査も自民党政権の誕生を予想している。安倍政権の誕生で、日銀法を改正してでも金融緩和を進め、無制限の金融緩和に踏み切るのは確実だ。選挙公約では「明確な物価目標」として2%を設定し、名目で3%以上の経済成長を目指すとしている。
仮に、インフレ・ターゲットが成功して年2%程度の物価上昇がある世界を想像してみるとどうなるか。名目3%以上の経済成長で、2%の物価上昇率の世界だから、理想的な姿と言える。日本は世界でも有数の経済大国であり、金融市場は高い流動性を保っている。消費者物価指数が2~3%に上昇すれば、当然金利も上昇することになる。日本国債は、世界的に見ても超優良な投資対象になるはずだ。
ヘッジファンドなどのリスクマネーを中心に、外国人投資家の資金が大量に日本国債に流入する可能性がある。そうなれば、円が買われて円高になる。少なくとも、一時的には「日本買い」による円高が進むことになる。自民党政権の考える円高対策が機能しなくなる可能性があるわけだ。
IMF研究レポートが教える日本国債の安全な資金調達源
問題なのは超円高になることではなく、金利が高くなった日本国債に、海外の資金が大量に流入してくることだ。IMF(国際通貨基金)が発表した12月の研究報告書(IMF Working Paper)が興味深い調査を発表している。2004年から2011年までに発行された主要24カ国のソブリン債、42兆ドルを対象に調査したもので、各国の中央銀行、国内外の銀行やノンバンクなど、ソブリン債の保有状況を調査することで、経済危機などの際に、どの程度「売られて資本が流出するのか」を調査したものだ。その資金調達に関する「リスク度」を指数化したものと考えればいい。
指数は、少ないほど資本流出の影響が少ないことを示しており、仮にその国の中央銀行がすべての国債を保有していればリスクはゼロ。ヘッジファンドや銀行などの海外投資家が100%保有していれば、リスク度はマックスの100となる。
もし何らかの経済危機が発生した場合、これまでのケースではヘッジファドなど海外のリスクマネーは一斉に売りを浴びせて、安全な資産に乗り換える傾向があった。国債を新規に発行したくても、購入してくれる投資家が突然消えてしまうケースが発生した。そうした資金調達源のリスクを示したものと言える。IMFの研究レポートによると主要国の指数は以下のとおり。
・ギリシャ……73(2010年第一四半期)
・ポルトガル……59(2011年第1四半期)
・イタリア……44(2010年第4四半期、以下同)
・スペイン……39
・ドイツ……40
・フランス……39
・カナダ……29
・韓国……25
・日本……23
・米国……22
・オーストラリア……21
指数が25以下の国債は、少なくとも海外の投資家の心変わりなどによって突然の資金調達不能に陥る可能性は低く「安全な資金調達源」を持っていることになる。日本も安全度は高く、国内銀行や生命保険会社といった安全な資金調達源(=国債を買ってくれる投資家)がきちんといることを示している。
政治に翻弄される金融マーケット
そこで問題になるのが、インフレターゲットで物価水準を押し上げたことで、現在の安全な国債の資金調達源に変化が起きないかという心配だ。無制限の金融緩和などによって円安になれば、輸入物価が上昇して、いわゆる輸入インフレを心配する必要が出てくる。
インフレの兆候が少しでも現れてくれば、それに合わせて政策金利も調整するわけだが、自民党の選挙公約では2%を物価目標=インフレターゲットとしているから、少なくとも2%を超えてくるまでは無制限の金融緩和が続くことになる。政策金利は当然据え置かれたままだろうが、物価上昇までには時間がかかる。その間に、不動産などは一部高騰し、さらに住宅ローンなどの市中金利も上昇に転じてくるはずだ。そして、当然だが国債の金利も徐々に上昇してくることになる。
金利上昇によって海外から日本国債に投資しようとする投資家が急増する。現在の日本の対外資産はざっと582兆円。それらの大半が投資目的の証券投資などで占められており、経済危機などがあれば一斉に円に戻される。日本の超円高が続いているひとつの要因だ。この対外純資産も、国債の金利高に寄せられて日本国内に回帰する可能性がある。ますます円高になるということだ。
その反面で、日本の投資家、とりわけ日本国債を大量保有していた銀行などは大きな損失を被ることになる。日本銀行が指摘するように、金利が1%上昇すれば国債に大量投資している邦銀は、全体で6兆円を越す利益を消滅させることになる。
そこで問題になるのが、インフレターゲットで物価水準を押し上げたことで、現在の安全な国債の資金調達源に変化が起きないかという心配だ。無制限の金融緩和などによって円安になれば、輸入物価が上昇して、いわゆる輸入インフレを心配する必要が出てくる。
インフレの兆候が少しでも現れてくれば、それに合わせて政策金利も調整するわけだが、自民党の選挙公約では2%を物価目標=インフレターゲットとしているから、少なくとも2%を超えてくるまでは無制限の金融緩和が続くことになる。政策金利は当然据え置かれたままだろうが、物価上昇までには時間がかかる。その間に、不動産などは一部高騰し、さらに住宅ローンなどの市中金利も上昇に転じてくるはずだ。そして、当然だが国債の金利も徐々に上昇してくることになる。
金利上昇によって海外から日本国債に投資しようとする投資家が急増する。現在の日本の対外資産はざっと582兆円。それらの大半が投資目的の証券投資などで占められており、経済危機などがあれば一斉に円に戻される。日本の超円高が続いているひとつの要因だ。この対外純資産も、国債の金利高に寄せられて日本国内に回帰する可能性がある。ますます円高になるということだ。
その反面で、日本の投資家、とりわけ日本国債を大量保有していた銀行などは大きな損失を被ることになる。日本銀行が指摘するように、金利が1%上昇すれば国債に大量投資している邦銀は、全体で6兆円を越す利益を消滅させることになる。
IMFの算出したソブリン債の資金調達源リスクの指数を見ても分かるが、必ずしも経済的に安定している国が低いとは限らない。その国のおかれている環境や、金融市場の発達具合によって大きく異なる。米国などは、海外の投資家が大量に国債を保有しているにもかかわらず、日本よりも安定している。
つまり、海外の投資家の保有比率が高くなるからと言って必ずしもリスクが高まるわけではないが、現在の日本国債はすでに7%程度が海外の投資家によって保有されている。インフレターゲット(物価目標)導入は、デフレは解消させるかもしれないが、日本経済の命綱ともいえる日本国債の安全な資金調達源を脅かす結果を招くかもしれない。
いつの時代でもそうだが、経済もまた政治によって翻弄される。政治の動きが、経済の動きを大きく変えてしまうことはしばしばある。