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「鬼のすみか」B級1組開幕!藤井聡太二冠(18)作戦の鬼・三浦弘行九段(47)の横歩取りを受けて立つ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月13日。東京・将棋会館において第80期順位戦B級1組1回戦▲藤井聡太二冠(18歳)ー△三浦弘行九段(47歳)戦が始まりました。

 順位戦が開幕するのはどのクラスも例年は6月です。ただし今年、A級以外は5月から開幕されます。その理由は、夏に東京オリンピック・パラリンピックが予定されていて、8月は順位戦を休止するためだそうです。将棋会館は新国立競技場の近く。オリンピックが開催されると(開催されるのでしょうか?)最寄のJR千駄ヶ谷駅も大変な混雑が予想されます。

 昨日5月12日はB級2組が開幕。1回戦全12局が指されました。

 本局がおこなわれる部屋は東京・将棋会館でもっともグレードの高い、特別対局室です。この部屋には2局が配され、窓側には本局。入口側は屋敷伸之九段-木村一基九段戦です。屋敷九段、木村九段ともに元A級。特対の4人の対局者のうち、A級の経験がないのは藤井二冠だけです。

 9時32分頃、対局者の中では一番早く、藤井二冠が入室します。そして床の間を背にして最上席にすわりました。

 続いて9時53分頃、三浦九段が現れます。下座に着く際、座布団を少し後ろにずらしてすわりました。

 駒を並べ終えて、両対局者は開始時刻を待ちます。

 順位戦では抽選時に先後が決まっていて、振り駒はありません。藤井二冠と三浦九段の対戦は本局で4局目。先後は偶然ながら、先手はすべて藤井二冠です。

 成績は三浦九段が初手合で1勝したあと、藤井二冠が2勝を返しています。

 10時。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でよろしくお願いします」

 記録係が声をかけ、両対局者は「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 藤井二冠はしばし瞑目。そのあとで紙コップを口にして、ハンカチで手を拭きます。そして2筋、飛車先の歩を突きました。

 対して作戦家の三浦九段は本局、どのような作戦を用意してきたのか。注目の2手目、三浦九段は3筋の歩を前に進めました。

 藤井二冠は上着を脱ぎ、ていねいにたたんで、かたわらに置きます。三浦九段の2手目は藤井二冠にとってもある程度は予想通りだったのでしょうか。藤井二冠は三浦九段の注文を避けず、いつもの通り、堂々と受けて立ちます。

 互いに飛車先の歩を交換しあって15手目。藤井二冠は2筋の歩を3筋に寄せるモーションで、歩を取ります。これで戦型は「横歩取り」と確定しました。

 近代の将棋界では、基本的に横歩取りは先手よしと見られてきました。

 ただし後手番の側からも常に新しい工夫がほどこされ、横歩取り(後手の側から見れば「横歩取らせ」)は終わらずに現在も指し続けられています。

 両者の過去3局のうち、2局は横歩取りです。JT杯では三浦九段、直近の朝日杯決勝では藤井二冠が勝っています。

 またABEMAトーナメント(非公式戦)の両者2回の対局のうち、1局は横歩取りでした。

 横歩取りの後手番にもいろいろなバリエーションがあり、三浦九段はいくつもの指し方を採用しています。

 16手目。三浦九段は比較的オーソドックスな角上がりを選択しました。対して藤井二冠は「青野流」を採用します。先手番で最有力とも見られている作戦です。

 22手目。三浦九段は三段目に金を上がります。これが三浦九段用意の順でした。「金は斜めに誘え」の格言の逆をいく指し方で、金が上ずる形。よほど深い研究がないと選べない順です。ただし前例はあって、藤井二冠は松尾八段にこの金上がりを指されています。

 27手目。藤井二冠は角交換をします。これで前例を離れました。そして三浦九段の飛車先、8筋を素通しにしたまま桂を跳ねます。相手が飛車を成り込んでくれば自身の飛車をぶつけて交換に持ち込みよし、という主張です。

 30手目。三浦九段は自身の飛車をならず、相手の飛車取りに、中段に角を打ちます。午前中から早くものっぴきならない激しい進行となりました。両者はどのあたりまで想定しているのか。

 そろそろ昼食休憩に入ろうかという11時52分頃。藤井二冠の手が盤上に伸びました。駒台の角を手にして、31手目、藤井二冠もまた中段に角を打ちます。自身の飛車を逃げずに、相手への飛車取りで応じました。なんとも激しい一手で、大乱戦に突入する変化も含んでいます。

 12時前。手番の三浦九段は次の手を指さず、昼食休憩に入ることを記録係に告げました。持ち時間6時間のうち、消費時間は藤井1時間18分、三浦14分。60秒未満切り捨てのストップウォッチ形式のため、足して2時間にはなりません。

 昼食休憩は12時40分まで。

 午後からは両者時間を使い合ってのスローペースが予想されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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