「THE W」決勝進出。孤高の女性コンビ「Aマッソ」が語る「女である意味」
魂の暗部を狙撃するような言葉を駆使し、芸人仲間からも一目置かれる女性コンビ「Aマッソ」。12月14日に決勝戦が放送される女性芸人ナンバーワン決定戦「THE W 2020」(日本テレビ)にも出場します。ツッコミの加納さん(31)とボケの村上さん(32)が2010年にコンビを結成。女だから、男だからという枠を超えた真摯かつ荒ぶる思いを、ストレートに語りました。
優勝しか考えていない
加納:今年は「THE W」に出ようということで春ごろから動いて、結構、作り込んできたので、正直、決勝に進んでホッとしたいうのが大きかったですね。
あと、ネタの特性的に、「M-1」でもキングオブコントでもできないネタになったので、一番ネタの質としても合致するのかなと思いまして。映像を使ったネタ。
「THE W」に関しては、第1回は出させていただいたんですけど、正直「ここで絶対に勝ちたい」「ここを目指して優勝したい」という気持ちに持っていけなくて。
どうしても、他の賞レースと比べちゃうのもあるんですけど「あこがれの舞台で結果を出すんだ!」という気持ち作りがうまくいかなかった。
なので、第2回、第3回を休んでしまってたんですけど、今年はそういう“外側”のことはあまり気にせずに、このネタを見てもらいたいというネタがある。だったら、それを地上波で見てもらえる機会があるなら、そこでやってみたい。そういう思いになりました。
第2回、第3回を休むということに至った違和感、それは…、うーん、どう言ったらいいのかな…。
日ごろ、劇場でしのぎを削って、切磋琢磨して、例えば「M-1」とか「キングオブコント」を目指していくんですけど、普段、劇場では女芸人はウチらだけとか、おっても、あと一組とかなんです。なのに、いざ「THE W」が開催されたら、めちゃめちゃエントリーしてるやん!と。
…なんかこう、求められているものとか、ネタを頑張ってるヤツらとか、そういうところがウチらが思っているものとイコールじゃない大会なのかなと。そう思ってしまったのはあると思います。
ただ、他の賞レースと比べても「THE W」はルール的に、一番“なんでもあり”なんですよね。唯一のルールが「女でなければならない」というだけで、笑いのジャンルも、人数も、芸歴も、なんでもあり。
なので、いい漫才ができたら「M-1」、いいコントができたら「キングオブコント」にそのネタをかけるように、今年は私たちが力を入れてもいる映像を使ったネタをやる場として一番合致するのが「THE W」だと思って、この場に挑んだという流れなんです。
ただ、出る以上は、もちろん、優勝しか考えてません。そして、漫才での映像ネタで言うと、他のコンビからしたら「もう映像ネタはできないじゃないか」と悔しがるくらいのインパクトを残して優勝したいと思っています。女芸人のみならず、男の芸人も含めて、そう思ってくれたらなと(笑)。
映像にツッコミを入れるネタが陣内智則さんの専売特許的になったように、映像と漫才となったらウチら。そうなったら最高やと思います。
「ミルクボーイ」さんが「M-1」で優勝されて、あのシステムは「ミルクボーイ」さんしかできなくなったように、優勝することで、そのネタに自分たちの“旗”を立てられるというか。
これが3回戦とか準々決勝とかだったら、いくらでもパクらるじゃないですか(笑)。アップデートされるというか。
でも、優勝したら誰かに取られることなく、その中で発展させていくことができる。だからこそ、優勝しか考えていないということなんです。
あと、今年は新型コロナというものがあって、リモートだとか、映像を介しての生活の局面が増えた年でもあると思うんです。
その中で、映像ネタの受け入れられ方というか、世の中のカタチと映像ネタの相性が良くなった部分があるんだろうなとも思っていて。
もちろん、新型コロナで劇場出番もなくなりましたし、影響は出ているんですけど、何かしら、そこの流れを使うことができたらなとも思っているんです。
村上:ま、もともと、テレビはほとんど出てませんので(笑)、新型コロナで影響があったのは舞台でしたね。そこは確実に少なくなりました。
あと、視野が広がったんじゃないかなと思います。否応なく、リモートとかが生活に入ってくることになったじゃないですか。
最初はリモートと言っても、そのイメージもなかなか湧かなかったんですけど、やっていくうちに感覚も分かってきて、そこはこれまでよりも付け足された部分でしたし。
それと、実は、コンビでのYouTubeチャンネルの編集もやり始めまして。編集の経験はなかったんですけど、それこそ、今こそ何かしないとという思いがそこに向かったといいますか。
やってみて、これがね、結構、評判が良かったんですよ(笑)。こんなに支持してくださってるんやということを感じられて、それは純粋にうれしかったですね。
加納:これは流れの中で生まれたものだったんですけど、村上がカメラを回して編集もする。村上のボケとして編集をするのが、実は他の芸人が見せられてなかった領域なのかなと。
テロップを使ってツッコミを入れたり、あるいはボケたり。それをスタッフがやるというのはあったけど、相方がやるというのが他のコンテンツとかぶってないかなと。
村上がカメラを回しているので、映ってるのは私一人なんですけど、それを誰が編集して、誰がテロップを入れているのか。それを示すことによって、新しい映像の笑いができたのはデカかったと思うんです。
村上:…まだ、現時点で2本しか作ってないんですけどね(笑)。引き続き、頑張ります。
加納:漫才もコントも両方やりたいし、映像もやりたいし、全部やりたいと思っているのがウチらの色かもしれませんね。今、コンビを組んで10年なんですけど、漫才ひとつをとっても、最近ようやくボケとツッコミが確立したくらいですから(笑)。それくらい、その時々でやりたいことをやってきたので。
村上:そっちの方が楽しいですし(笑)。そっちの方がギスギスしないとかもあると思います。
加納:かなり「楽しい」を優先してきたのかもしれませんけど(笑)。
あと、女である意味というか、そこに関しては、全く損にはなってないし、同じことをやってても“分母”が少ないので、見てもらえる機会が多くなるのは得かなとは思っています。
それと「新しいところを探す」という芸人共通の意識がある中で、女であると、そこに割と近づきやすいのかなとも考えています。芸人の世界で、女が何かをやるということの方が、まだその領域が広いので、男に比べるとそのエリアがまだまだ残っているなと。
冠番組でお笑いの番組をやるとか、毎年当たり前のように、コンビで全国ツアーをやるとか。そういう部分になんとか進んでいけたらなと思っています。
先輩からの言葉
加納:ありがたいことに、ウチらにも、いろいろと言葉をくださった先輩もいまして。だいたい、何か言ってくるのはおもんない先輩ばっかりやったんですけど(笑)、そうじゃなくて、本当に面白い方から、本当にありがたい言葉をいただいたことがありました。
最初にテレビに出たのが「爆笑ファクトリーハウス 笑けずり」(NHK BSプレミアム)で、そこで「笑い飯」さんに「面白い」という言葉をいただけたのはうれしかったですね。
あと、面白いと思っていることがあったら、そこから2個おりなさい。2個おりたところで、ようやくお客さんの感覚と合うから。芸人は2個おりることで、面白くないと思われるんじゃないかと怖がるけど、そこは怖がらなくていい。そんな話も言っていただきました。
それと、去年、私たちが炎上というか、そうなってしまった時に「天竺鼠」の川原さんが連絡をくださったんです。「ふざけてるだけの仕事って楽しいよな」と。
もう、既に最高の仕事をしているんだという捉え方。事細かに何かをおっしゃるわけじゃないんですけど、ただたた、ありがたかったです。
なんとか、そういう方々への思いも持ったうえで、来年の年末には大稼ぎできてるくらいに、なってたいですね(笑)。
そうなったら、そのお金で自分で映画を撮ってみたいなと思います。実は、今年も撮ったんですけど、とにかくお金がなくて苦労したので、もう少しお金をかけてみたいなと。
村上:そうなったら、私も何かの役で出してもらいたいです。あと、編集もできるようになってるので…、そちらででも(笑)。
加納:好きなことをやりつつ、ここまでやってきましたので、なんとかもう少し進んでみたいですね。
ま、ホンマに好きなことをやってきたので、生意気なヤツらやと思われたこともたくさんあったと思うんですけど、女で良かったと思うのは、そこでシバかれんで済んだことでしょうね(笑)。
そこで「女でも関係あるか!」とシバいてくる人は、この令和の世の中、かなり少数派だと思いますので、時代にも守られました(笑)。
(撮影・中西正男)
■Aマッソ(えーまっそ)
1989年2月21日生まれの加納と88年6月16日生まれの村上のコンビ。ともに大阪府出身。小学校からの幼馴染で、2010年に結成。ワタナベエンターテインメント所属。15年には“最も面白い無名芸人”を決定する番組「爆笑ファクトリーハウス 笑けずり」(NHK BSプレミアム)に参加し2位に。12月14日に決勝戦が放送される女性芸人ナンバーワン決定戦「THE W 2020」(日本テレビ)に出場。加納の著書「イルカも泳ぐわい。」も発売直後に重版がかかるなど話題となっている。