手湿疹の新しい治療選択肢 - デルゴシチニブクリームの低い全身吸収と高い安全性
2024年11月に米国アリゾナ州スコッツデールで開催されたElevate-Derm West Conferenceで発表されたポスターによると、中等症から重症の慢性手湿疹を持つ成人を対象としたDELTA 2試験で、デルゴシチニブクリームの全身曝露量と安全性が評価されました。
この無作為化二重盲検対照試験では、18歳から84歳の中等症から重症の慢性手湿疹患者を2:1の割合で、デルゴシチニブクリーム(20mg/g)群とクリーム基剤群に割り付け、1日2回、16週間塗布しました。
その結果、デルゴシチニブクリームの全身吸収は非常に低く、最高血中濃度は7.2ng/mLでした。これは、経口投与した場合の平均99.3ng/mLと比べて著しく低い値です。つまり、デルゴシチニブクリームは局所に塗布しても、ほとんど体内に吸収されないということが示されたのです。
【デルゴシチニブクリームの副作用と臨床検査値への影響】
安全性については、デルゴシチニブ群の45.7%(94例中43例)、基剤群の44.7%(38例中17例)に有害事象が報告されました。最も多かったのはCOVID-19感染症で、デルゴシチニブ群の11.7%、基剤群の5.3%に見られました。デルゴシチニブ群で重篤な有害事象が1例(1.1%)ありましたが、治療との因果関係は否定されています。また、悪性腫瘍や心血管系の重大事象、静脈血栓塞栓症などは報告されませんでした。
さらに、ヘモグロビン、リンパ球数、好中球数、血小板数、ALT、LDLコレステロール、中性脂肪など、様々な臨床検査値についても、デルゴシチニブ群と基剤群で臨床的に意味のある差は見られませんでした。16週間の試験期間中、これらの指標の変動は正常範囲内にとどまり、肝毒性や脂質代謝への影響も認められませんでした。
【日本での現状と今後の展望】
デルゴシチニブは、日本では「コレクチム軟膏」の名称で、アトピー性皮膚炎の治療薬として2020年1月に承認・発売されています。現在のところ、慢性手湿疹に対する適応拡大は行われていませんが、DELTA 2試験の結果を踏まえ、今後、適応が追加される可能性があります。
コレクチム軟膏は、国内臨床試験においてもアトピー性皮膚炎に対する有効性と安全性が確認されており、既に多くの患者さんに使用されています。慢性手湿疹は、アトピー性皮膚炎と同様、患者さんのQOLを大きく損なう疾患であるため、コレクチム軟膏の適応拡大が実現すれば、治療選択肢の幅が広がることが期待されます。
参考文献:
Gooderham M, Thaci D, Maibach D, Melendez D, Soeholm A, Bissonnette R. Systemic exposure and safety profile of delgocitinib cream in adults with moderate to severe chronic hand eczema in the phase 3 DELTA 2 trial. Poster presented at: Elevate-Derm West Conference; November 7-10, 2024; Scottsdale, Arizona.
Efficacy and safety of delgocitinib cream in adults with moderate to severe chronic hand eczema (DELTA 2) (DELTA 2). NCT04872101. Updated October 17, 2024. Accessed November 8, 2024. https://clinicaltrials.gov/study/NCT04872101