「学歴フィルターに勝つ就活生、負ける就活生、その違いは」記事のその後と補足5点
ヤフトピに出て大反響の学歴フィルター記事
3月4日に公開した「学歴フィルターに勝つ就活生、負ける就活生、その違いは」記事はその後、ヤフトピに掲載。それもあって大きな反響がありました。読者の皆さんに深く感謝します。
なお、記事そのものへのご感想としては「面白かったが長い」「長いけど面白かった」でした。すみません、私のYahoo!個人記事は大体が長いので(学歴フィルター記事は約7000字)。
さて、記事について訂正ないし追記があれば、記事に必ず記載するようにしています。この学歴フィルター記事についても訂正は記事の後ろにその旨、加筆しました。
ただ、追記については今回、記事の後ろに加筆するだけでは間に合いそうにありません。そこで今回は読者の皆さんからの反響などをまとめました。
企業名を出したのは
問:企業名を出したのは何か意図があってのことか?
記事中で、学歴フィルターを使っていると名指しされたフリュー(もう1社、高橋書店は名指ししているわけではありません)について、「企業名を出すのは不適当ではないか」「企業側がいい迷惑」とのご意見がありました。
私が記事で企業名を出したのは、2点あります。1点目は先行記事ですでに出ていたこと、そして2点目、こちらの方が大きいのですが、企業名を伏せる理由が特になかったことです。
仮に伏せたところでTwitter他、SNSやネットには大きく出ていたのは周知の事実です。そこに記事で伏せたところで、あまり意味がありません。むしろ、よりネガティブな反響を招きかねなかったのでは、と思う次第です。
単に「予約・キャンセルで増減しただけ」との指摘も
フリューについては、企業の業務内容や社員の男女別構成を見ただけで、そこまで女性軽視の企業ではないのでは、考えていました。
つまり、Twitterでの告発はちょっと過剰反応では、とも考えていたのです。
そこに読者からこんな指摘が。
説明会の予約については、
「結局、タイミングの問題で、元々ほぼ満席状態の所にキャンセルが入ると、一時的に空席になったり、また満席に戻ったり、というのはよくある現象。確かに、投稿されている画像でも、1つは満席のままの表示だった。その後、騒動を受けて夜に変更というのも全くのデマで、単にキャンセルが出たというだけ」
とのご指摘です。
フリューは「排除の仕組みは導入せず」「キャンセルのタイミングの変動」と回答
これを受け、フリューに取材を申し込んだところ、広報担当から回答を得ました。
例年の説明会の男女比は「女性7割、男性3割」で、やはり女子学生の人気が高いことを示しています。
フィルターについては、
「弊社は、採用において、特定の性別や大学を排除するような施策は一切行っておりません。ご指摘いただいたような、特定の性別や大学を恣意的に排除する仕組みも、当然のことながら導入致しておりません」
「なお、今回の一連のご指摘は、お申込みくださる学生の皆さまによるキャンセルのタイミングに関連し、受付状況が変動したことにより生じたものである、と認識しております。もっとも、こちらの詳細につきましては、あいにく弊社が設計及び運用をしているものではないシステムの仕様に関わりますので、誠に恐縮ながら、弊社からご回答申し上げることができません」
やはり、読者のご指摘通り、キャンセル数によって変動することがある、とのことです。
今回の騒動について、問い合わせは私含めて数件とのことですが、
「弊社といたしましては新卒採用を重視しておりまして、より多くの学生の皆さまに興味を持っていただきたいという思いで活動しておりますので、ご指摘のような疑念を招いてしまったことは誠に遺憾に存じます。今後はこの点も踏まえながら適宜新卒採用プロセスを見直し、改善して参る所存でございます」
学生側の自衛となる電凸は迷惑か
問:説明会を予約できなくても電話で申し込むエピソードがある。あれは企業側にとって電凸となりいい迷惑ではないか?
フリューや、今回、名前が挙がった高橋書店はどちらも関連業界を狙う学生からは人気の企業です。どう考えても説明会はあっと言う間に満席となってしまいます。
学歴フィルターの有無に関係なく、学生側にできるのは早いうちに動くか、それかダメ元での電話か、どちらかで自衛するしかないのでは、と考えます。
記事では、ダメ元で電話を、と書いたのですが、これについて、
「企業側は電凸など迷惑。記事の著者は採用事情について知らないのでは」
「採用担当者として勤務経験がないのでは」
などのご指摘をいただきました。
私が採用担当者としての勤務経験がないことは下記のプロフィールに書いた通りです(ついでに言えば、就職情報会社・大学キャリアセンターなどの勤務経験もゼロ。という状態で就活関連の記事・本を15年間も書き続けている変わり種です)。
企業側が迷惑かどうか、その辺は記事には書いていないだけで取材はしていました。結論から言えば、そこまで迷惑と感じる企業は少ないです。
「こちらからダメ元で電話しろ、とは言わない。ただ、学生から電話してくる分はきちんと対応する」
「入社したら営業の新規開拓で電話のアポ取りなどもある。わざわざ電話できるのは、なかなかできることではない」
などの反応が多数でした。
もう1点、今の学生がそう簡単に電話できない、つまり、電凸できる学生はごく少数、という現実もあります。
IT化が進んだ2000年代以前は学生のコミュニケーションツールとして電話は大きな役割を担っていました。が、その後、IT化が進み、今の学生はスマホをほぼ全員、所有しています。そして、コミュニケーションの手段はLINE、InstagramなどのSNS。よほど親しい友人でも直接、電話する学生は多くありません。
そのため、就活が始まってから、電話の受け答えに困る学生が出てくるのです。
※このあたりの事情は昨年の就活遺産に逆襲される学生たち~たかが電話の不可思議さに書きました。
話を企業説明会に戻すと、こうした事情から、電話を実際にかけられる学生はそれほど多くないもの、と推定されます。
テレ東アナも誤解する大学名スルーはソニーで逆効果が実証済み
問:いっそ大学名を隠した方がいいのではないか。
このご意見も多くいただきました。特に学生読者の方が多かったです。
大学名不問にして、採用時はわからないようにする、という方策。企業説明会の段階では確かに有効かもしれません(もちろん、殺到した学生をどう捌くか、という問題が出てきますがそれはさておき)。
この大学名隠し、同じ発想をする社会人も多く、過去にはテレビ東京の大橋未歩アナウンサーが、スポーツ報知にこんな記事を書いていました(大橋美歩[一筆チャージ]学歴フィルターかけず個性的人材集めるテレ東 2015.07.06 スポーツ報知)。
独自路線といえば、入社試験も少々変わっているかもしれません。テレ東は入社試験で学生に大学名を聞かないのです。もちろん、学生が自分から言うのもダメ。学歴フィルターをかけないようにして、多様な個性を持つ人材を集めようとしているのです。だからでしょうか、やはり変わった…いや、独創的な番組が多い気がします。
さすが、佐川前国税庁長官の証人喚問中継をNHK含め全局がやっていても、明太子特集を流すテレビ東京。
と、言いたいところですが、入社試験の創意工夫と大学名隠しは無関係です。
実は採用担当者やキャリアの専門家のあいだで、大学名隠しはむしろ、一部の大学に偏る逆効果となることは有名です。
その好例がソニー。
1991年に学歴不問採用を開始しました。
1992年卒ではトップ国立大5校(東大・京大・大阪大・一橋大・東京工業大)からの採用者数が27人。前年の54人から半減しています。一方、日東駒専クラスは19人(前年は15人)、産近甲龍クラスは5人(前年は0人)と増えています。
ところが、その後、年を追うごとに中堅私大からの採用者数が減り、トップ国立大5校と早慶上智からの採用者数が増えていきます。全体の採用者数に占める割合でも増加、2016年にはトップ国立大5校と早慶上智を合わせた採用者数は274人中103人、37.6%を占めています。大学名不問採用前の1991年は19.6%、1992年は15.3%ですからほぼ倍増しています。2016年には日東駒専・産近甲龍クラスからの採用はゼロでした。
なぜ、このようになったか、と言えば、簡単です。大学名を隠すために、準難関・中堅どころの学生をあえて採用する、という手法が使えません。
それと、矛盾するようですが、学生は学生で出身校を伝える手法があります。大学のキャンパス名などを伝えるだけ。それでどこの大学かは見当がつきます。
1991年のソニー以前にも1989年にCBSソニー、1979年に毎日新聞社がそれぞれ学歴不問採用を始めています。が、結果的にうまく行ったとは言えません(この辺、詳しくは拙著『キレイゴトぬきの就活論』第2章・第3章をどうぞ)。
採用基準は無意味
問:いっそのこと、どの大学なら採用する、どの大学なら採用しないという基準をはっきり出した方がお互いにわかりやすいのではないか。
一見すると合理的な案なのですが、実は大学名差別が問題となった1950年代ごろからずっと言われ続けています。
戦後から1980年代までは指定校制度というものがあり、これが採用基準の目安となっていました。
が、あまりにも差別的、ということで国会でも問題になります。さらに、差別云々以前に、企業側の雇用拡大もあり、この指定校制度は1980年代に崩壊していきます。
ネットが全盛の現代では、採用基準にならない大学とその関係者からバッシングされるリスクが企業側には付きまといます。しかも、採用基準外とした大学、たとえば、いわゆるFランク私大から優れた人材が採用できる、という可能性だってあります。それを考えると、採用基準を設けるのは企業側にとって合理的な方法ではありません。
2ランクくらいの逆転は可能(その逆もあり)
問:就職先は在籍校の過去の実績にある企業が全てとの話を就職担当教員に言われたが本当か。
これ、学生だけでなく大学教職員や就職カウンセラーなども信じている俗説です。
過去の就職実績がその大学の就職力を示す目安であることは確かです。ただし、その全てを反映していないケースも結構あります。
1:大学が急成長中で就職実績が年々上昇している
2:キャリアセンター・就職課がBtoB企業など優良企業をノーマーク。途中で気づいて優良企業をやたらと推奨するようになった
3:キャリアセンター・就職課の指導が大きく改善された。
4:過去の就職実績は就職氷河期のもので、売り手市場を反映していない
他にもありますが、このあたりで。一番大きいのは4。
大学名差別をしている企業であっても、売り手市場であれば、その基準を大きく下げる。氷河期であればその基準を上げるのが一般的です。
1も大きいですね。関西だと大阪経済大学や京都橘大学が企業からの評価を大きく上げています。
「マナーを叩き込むのはどの大学でもやっているが、京都橘は論理的思考能力を身につけた学生が多いように感じた」(メーカー)
「ゼミ1グランプリというプレゼン大会を軸に、いい意味で社会人慣れしている学生が大阪経済には多い」(商社)
他の大学も同様です。過去の実績が現在の実力と大きく乖離している、ということはあり得ます。
2も良くあります。たとえばBtoB企業はメーカーだけでなく商社も含みます。これを誤解している学生は多いのですが、大学教職員も結構、勘違いしている方がいます。
このため、専門商社の優良企業であっても、大学側が全く気付いていない、ということもよくあるのです。
それから、いわゆる有名企業に比べてBtoBで知名度の低い企業は自社の説明の際にも業界事情を丁寧に説明する企業が多くあります。業界の背景、特殊性を理解していないとどうしようもない面もあるからです。こうした説明は有名企業の自社のみの説明よりも、情報量は多めです。受け取る学生はその分だけ、勉強できると言っていいでしょう。
3も2と同じ。たとえば、「エントリーシートは箇条書きでまとめる」「それぞれの項目に見出しを付ける」など、30年前はまだしも、今だとどうか、という指導を大真面目にしている大学があります。キャリアセンター・就職課のトップないし現場責任者の認識が古すぎるのです。大学によっては就職情報会社や就職カウンセラーに就職ガイダンスを丸投げするところもあります。この場合も、認識が古いものだと学生への就職支援としては意味がありません。
しかも大学内に、認識の是非についてチェック機能があるわけでもなく、古い就職テクニックがずっと続いてしまうのです。
さて、大学には人事異動があります。キャリアセンター・就職課勤務が長いと、入試課・広報課など別部署に異動するというのはよくある話。任期雇用付き教職員も同じで任期切れと同時に他大学に移るかそのまま辞職する、というのも良くあります。その結果、就職支援が一新され、無意味な方策が大きく改善されることがあります。その分だけ、大学の就職実績が上がるのは言うまでもありません。
上記のような1~4の事情で大学の就職力は過去の就職実績より大きく引き上がることがあります。
それから、学生個人の努力やパフォーマンスの高さ、というものもあるでしょう。
それらを考えると、在籍校の偏差値ランクから1ランク上の大学と同等の実績は十分にあり得ます。たとえば、日東駒専クラスだとそのうえのMARCHクラスと同等の就職実績は期待できるでしょう。2ランク上、となると、学生個人の努力に加えてパフォーマンスの高さ(よほど勉強した、とか、体育会系で頑張ってきたとか)も合わされば可能性があります。
もちろん、その逆(1ランクないし2ランク下の大学と同じ実績)ということもあり得るわけで。浮かれている難関大の方はご注意を。
大学名は前回も書きましたが変えようがありません。大学名を気にするくらいなら就活に力を入れること。もし、就活の結果が思わしくなくても、それを大学名のせいにしないこと。入社した先で頑張って、自分自身も大きくなること。そちらの方がより幸福になるのではないでしょうか。
付記(2018年4月25日・修正)
Yahoo!ニュース個人編集部の指摘を受け、誤字を修正しました。