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就活遺産に逆襲される学生たち~たかが電話の不可思議さ

石渡嶺司大学ジャーナリスト
情報を吟味しようとする就活生。意外な伏兵に逆襲される?

就活生、意外な伏兵に大苦戦

就活が本格化してくると、学生はコミュニケーションの量が増大します。説明会やセミナーに出て、選考に参加。合間には就職課・キャリアセンターに相談して、選考書類も提出…。

この就活中、学生は意外な伏兵に苦しめられることになります。

それは、学生が学生生活ではそれほど必要としなかったツールです。必要としませんし、何なら古くさい、遺産のようなものとすら考えて軽視しています。

ところが、いざ就活が始まると、その古くさい遺産は、社会人にとってはあって当然のもの。

そのため、学生は「就活遺産」とでもいうべき存在に大いに苦しめられるわけです。

では、「就活遺産」とは何か。

大きなところではマナーが挙げられます。これについては、

就活で増える「意識低い系」~男子が「化粧は15分」女子に勝てない理由でご紹介したのでここでは省略。

それ以外では、電話、手書きの選考書類、メール、新聞の4点が挙げられます。

何気ない非通知が怖い

まず1点目が電話。

2017年3月7日、NIKKEI STYLEに「電話は嫌い、非通知出ない 人事も驚く今どきの就活生」が掲載されました。

学生が非通知や知らない番号には警戒心を強めている状況を明らかにしています。

企業側が番号を非通知とする点について、記事では小説家の朝比奈あすかさんは、

「非通知での電話連絡は、できるかぎり情報を開示せず人を採りたい、という採用側の傲慢さが出ている」

とバッサリ。

私はこのコメント、全く同意できません。

単に総務かセキュリティ担当の部署がセキュリティ対策から番号を非通知に設定。そんな事情など露ほども知らない採用担当者がかけたら実は非通知だった、というだけなような気が。

電話での会話、大丈夫?

NIKKEI STYLE記事では、電話の受け答えについても触れています。

(ソフトバンクの)採用・人材開発統括部の源田泰之統括部長は、「チームでやる仕事が多いし、コミュニケーションスキルは仕事の成果にかかわる。さすがに電話が全然できないのは困る」

ある東証マザーズ上場のアプリ開発会社の人事担当者は「電話の対応はチェックする」ときっぱり。面接やインターンシップ(就業経験)など、「よそ行き」の顔がいくらしっかりしていても、電話のやりとりができなければ評価が下がるそうだ。

私もメールはしっかりした文面。実際に会ってもちゃんと話せるのに、電話だと、緊張するのか、小声になったり、暗い声になる学生を何人か知っています。

全国大学生活協同組合連合会による「第52回学生の消費生活に関する実態調査」ではスマホの利用時間は平均161.5分。

ただし、直接通話の時間は学生に聞くと少なく、大半はSNSやゲーム、ネット記事の利用です。

過去に比べて、直接通話に慣れていないのが現代の学生です。

とは言え、こればっかりは慣れてもらうしかないでしょう。どんな職種でも電話はついて回るものなので。

メールは「拝啓」か「元気すか?」で極端すぎ

2点目はPCメール。スマホを使いこなす学生なので大丈夫、と思いきや、全くできない学生が多数。

携帯メールとPCメールの違いを理解していません。

そもそも論で言えば、LINEやTwitterなどSNS、それから携帯メールは会話に近いものがあります。この対極がビジネス文書。

さて、PCメールはSNS・携帯メールとビジネス文書の中間に位置します。立場や相手との信頼関係によっては、携帯メールに近づくこともあります。

さて、PCメール、それも社会人相手にPCメールを送り慣れていない学生が書くと、極端に硬くなります。これはどうも大学の指導などもある模様。それにしても、です。

拝啓、山の木々も紅葉する今日この頃いかがお過ごしでしょうか。

拝啓、石渡様におかれましては日々ご健勝のことと存じます。

いや、なんというか、硬すぎません?

ある学生とは何度か、やり取りしたのですが、毎回、末尾に次の一文が。

なお、末筆ながら、石渡様のご活躍をお祈り申し上げます。

えーと、これは何だ、逆お祈りメールか?

ES添削を何度かやり取りした後も、毎回「逆お祈り」が付いてくるので、「いや、あのね」と物言いをつけて、さすがになくなりました。

そうかと思えば、極端にくだけたものも。

こんちは!元気すか?就活が進んだのでES添削お願いします。

俺とお前は友達か?

そりゃあ、講演で

「ES添削などご質問あればお気軽にどうぞ」

と言ったのは私です。いくらでも受けて立ちますよ、そりゃあ。

とは言え、「元気すか?」はないでしょう。

そもそも、お前は誰だ?まず、名乗ろうぜ。

件名が空白となっているのはおそらく携帯メールの影響でしょう。

個人名がわかる大学メールでなければ、スパムメールと勘違いして削除してしまいかねません。

PCアドレスも個人メールだと、「×××chanlove」とか「××unkotare」とか、かなり痛々しいアドレスを見ることがあります。仲間内で送るならまだしも社会人相手はやめた方が無難です。

中には大学メールどころか、個人メールもPCアドレスは取得しないままどうにかしようとする学生もいます。

まあ、ナビサイトでのやり取りでどうにかならないこともできれば持っていた方がいいでしょう。

手書きの選考書類、賛否は分かれる

3点目は手書きの選考書類。

2015年3月、堀江貴文さんがTwitterで手書きの履歴書に否定的なコメントを投稿。

それを受けて、THEPAGE編集部からの依頼を受けて、

履歴書手書き論争、実際のところPC作成とどちらが有利なの?を作成。さらに、もう1本、手書き履歴書について記事を書いたところ、それはそれは賛否両論分かれました。

後述しますが、この手書きの履歴書・エントリーシートを重視するかどうか、業界・企業によって分かれます。

ただ、商社や小売業、企業規模だと中小では手書きの選考書類を重視する傾向には変わりありません。

学生からすれば手書きは面倒なものです。

それから、手書きよりも就活サイトやネット提出によるやり取りの方が合理的、とする主張は一理あります。実際にそれでちゃんと学生の選考ができているわけですし。

一方、手書きの選考書類だと、手書きで学生にも負担をかけ、企業も一枚一枚見ていくことで負担となるわけです。

ところが、企業からすれば、見る手間はかかっても、それだけ学生のやる気などを推しはかることができます。

手書きを重視する企業からすれば、手書きの方が、選考においては合理的なのです。

どちらが正しい、正しくない、というよりは、企業が手書きを重視するのかPC作成を重視するのか、そこに学生が合わせるかどうか、という話です。

採用を科学的に分析する、という点では手書きの是非を論じるのは有効でしょう。一方、学生はこれから選考を受けるわけで手書きを非難したところで、だから何なんだ、という気も。

対策としては字が下手な人でも、ゆっくり丁寧に書くというのが一番でしょう。

新聞~「トランプをどう思う?」でわかる教養・想像力

4点目は新聞。

まずは私の知人のFacebook投稿から。

採用担当者「トランプをどう思う?」

学生A「子どものころ、よく遊びました」

学生B「大富豪は部室でよくやっています」

学生C「就任後からしばらくは株価を引き上げていましたが、ここに来て迷走しています。今後が心配です」

採用担当者が聞いた「トランプ」は当然ながらトランプ大統領のことです。

この質問に対して、学生Cはちゃんと答えられています。

一方、学生A、学生Bが考えたのはカードのトランプ。

これって、想像力があるかどうか。

社会人がトランプという固有名詞を出せば、飲み会とか、社内旅行のバスの中とか、そういうシチュエーションでない限り、カードゲームを挙げるはずはありません。

この想像力を支えるのが教養であり、教養を身に付けるツールが新聞ではないでしょうか。

新聞と言えば古くさいメディアとして何かにつけ叩かれます。それに学生は特に新聞を読みません。NHK放送文化研究所「国民生活時間調査2015」によると、学生(男子)の新聞の行為者率(ある時間幅に該当の行動を15分以上した人が全体の中で占める割合)は平日で4%。

1995年に15%、2005年でも9%あったことを考えれば大幅に減少しています。

確かに全世代平均(男性・平日)でも33%と減ってはいます(1995年は52%、2005年は44%)。

しかし、40代20%、50代38%、60代53%と上の世代になると、新聞はまだまだ影響力があります。

新聞はその個人にとって無関係・無関心のニュースも含めて報じます。学生にとって、すぐ就活、あるいは社会人生活で役立つか、と言えば全くそんなことはありません。

が、社会で何が起きているか、そのことに関心がないと冒頭の「トランプ」のような、おバカな返答をしかねないのです。

企業側も、企業研究ができているか、想像力ないし教養があるかどうか、ときどき、面接で口頭試問を入れ込みます。

「今日の円ドル為替レート、東証株価平均は?」

「うちの社についての記事、何か読んだことある?」

「最近、気になったニュースは?」

「地方創生で今後、どんな事業展開をしたらいい?」

さて、新聞が古くさいと言っている学生諸君、どこまで回答できます?

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求められるデジタル・アナログのハイブリッド

ここまで挙げた就活遺産、4点について、それぞれ不要論を唱えることはいくらでも可能です。

理由は簡単、業界によって濃淡が異なるからです。

たとえば、手書きについて、以前、別のところで記事を書いたところ、IT業界の関係者を中心にそれはそれは強い反論をいただきました。確かにIT業界では手書き履歴書などは過去のものであるのでしょう。一方、商社やメーカーなどを中心に、いまだに手書きの履歴書・エントリーシート提出にこだわる企業は多数存在します。

このように濃淡は業界や個別の企業によって大きく異なります。

それから、この「就活遺産」ツールをきちんと使いこなせるから内定が出るか、と言えばそれは別問題。

たとえば、新聞について、

「新聞なんて読むだけムダ」

「新聞など読む必要はない」

とする社会人がそこそこいます。

彼らの主張をよく聞くと、新聞を読めば内定が取れるなんて甘い、というものです。

それはその通りなのですが、だからと言って、基礎的な教養がないまま、社会で通用すると断じるのもまた無理があるところ。

情報はよく吟味しよう
情報はよく吟味しよう

学生にとっては、それぞれ古くさいツール、すなわち「就活遺産」とでもいうべき存在かもしれません。

ですが、その「就活遺産」を軽視しすぎていると、就活ないし社会人生活で逆襲されることは明らかです。

デジタルの時代だからこそ、アナログ一辺倒ではダメ。と言って、デジタルだけでもダメ。

ではどうすれば、いいか。それがハイブリッドです。

ハイブリッドとは、掛け合わせる、という意味があります。

それぞれ業界の特性や自身の志向などを考えながら、デジタルとアナログのハイブリッドを考えてみてください。

そうすれば、就活も、それ以降の社会人生活も楽しくなるのではないでしょうか。少なくとも、逆襲されることはなくなるはずです。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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