1月6日に終わるドイツのクリスマス この時期に家族で話し合う大切なこと 夏の休暇先どこにする??
ドイツのクリスマスシーズンは1月6日の「三王来朝の日」に終わります。この日、クリスマスツリーやドアリースなどの飾りをはずして片付けます。これで一連のクリスマス行事が終わりとなり、本格的な新年が始まるのです。
1月6日は、3人の賢者が星に導かれてベツレヘムで生まれた幼子イエスのもとを来訪したことを祝う日で、バーデン・ヴュルテンベルク州、バイエルン州、ザクセン・アンハルト州の3州では祝日となります。日本では「三賢者祭り」とも言われているようです。
前回、クリスマスマーケット(以下マーケット)のはじまりと習慣をいくつか上げました。マーケットの多くは11月末から12月23日・24日頃まで開催されますが、年末まで開催する街もいくつかあります。
例えば昨年、5年に一度の現代美術展「ドキュメンタ」で大きな注目を集めたカッセルのマーケットは12月30日まで開催されました。
ラインランド・プファルツ州のシュパイヤーでは、なんと1月7日までマーケットが開催されています。(昨年7月、シュパイヤー大聖堂で元首相ヘルムート・コール氏のミサが行われ、この街は一躍注目を集めました)
クリスマスに夏の旅行先を決める!
もう一つ、学校に通う子どものいる家庭では大切な話し合いを年末年始のクリスマスシーズンにします。次のイースターや夏の休暇にどこへ行くかです。
子どものいる家庭では2週間ほど夏休みをとります。普段は各人のスケジュールに追われてしまい家族で旅先を選定する時間がなかなかとれません。学校の休みはハイシーズンで費用も一番高い時期。それにあわせて予定を組まねばならないため、できれば費用を抑えたいと思うのは当然でしょう。
そんな事情もあり、早期予約でかなりの割安が見込めるこの時期にイースターや夏の休暇先を決定する家族が多いわけです。インターネットでいつでも気軽に格安のホテルや航空券を入手しやすくなったとはいえ、どこに行くかは家族にとって大きなテーマです。
ある旅行会社に問い合わせたところ、「予約は早ければ早いほどお得になります。1月末までにすると旅行先やホテルにもよりますが、2割ほど安く提供できます。子ども連れの家族は、このチャンスを多く利用しています」と回答をもらいました。
そしてここ数年、ドイツ人にとっても国内旅行は大好評。海外旅行に比べ出費も少ないとあって身近な観光街道は、うなぎのぼりの人気です。
そのドイツの観光街道といえば南ドイツを巡るロマンチック街道が圧倒的な人気を集めていることは言うまでもないでしょう。一方北ドイツの代表的な街道は「メルヘン街道」、こちらも大変好評といいます。
前出のカッセルはメルヘン街道の首都としても有名ですが、この機会に夏の休暇先としてメルヘン街道上の街をいくつか紹介しましょう。
グリム兄弟生誕地のハーナウからブレーメンに至る全長600キロにわたるメルヘン街道沿線には、「いばら姫」「ラプンツェル」「赤ずきんちゃん」など、誰でも一度は読んだり聞いたことのあるグリム童話や伝説ゆかりのスポットが70ほどあります。
カッセル・グリム童話誕生の街
ドイツでもっとも古い観光街道の一つがメルヘン街道。この街道上の街で、旅の起点としたいのがヘッセン州に属するカッセル。この街はフランクフルト、ヴィースバーデンに続き、州内で三番目の規模を誇る大都市。フランクフルトから北へ特急で1時間20分程とアクセスも簡単です。
1785年生まれの兄ヤーコブと1歳年下の弟ヴィルヘルム。(6人兄弟のうち長兄と次兄)。カッセルは、兄弟がその生涯の大半(30年)を過ごした街でグリム童話集を初めて出版したゆかりの地です。
この街にはグリム兄弟の軌跡がいたるところにあります。
まず注目したいのは、2015年に完成したばかりの博物館「グリムワールド(グリムヴェルト)」。
展示品のハイライトは、ユネスコ世界記録遺産に登録されたグリム童話の初版本や、グリム兄弟自筆の手紙や原稿など。
本来、グリム童話として知られる作品「子供と家庭のメルヒェン集」は、兄弟がドイツの伝承話を後世に残したいと考え、身近な女性達から言い伝えを収集し、それを編集したものです。
その昔話を多数提供した地元の女性ドロテェア・フィーマンに関する大変興味深い展示もありました。
さらに、ヤーコブとヴィルヘルムが最初に編纂を手がけた「ドイツ語大辞典」など貴重な資料も数多く展示されています(注・兄弟の死後、他の学者や研究者が引き継ぎ、同辞典を完成させた)。映像や音声で楽しむ展示もたくさんあり、子ども連れの家族にも退屈しません。
グリムヴェルトを後にして、グリム兄弟協会CEO(最高経営責任者)のベルンハルド・ラウエル博士にお話を伺いました。アポなしで訪問しましたが、運よく在籍されており面会することが出来ました。協会内には同兄弟の童話集や貴重な資料のほか日本語の書籍も多く保管されており、まさにグリム童話の宝庫です。
「1812年、『グリム童話』が初めて出版された本には挿絵は一枚もなかったのです。第二版から少しずつ挿絵がつけられました」など、(ここでは長くなってしまうので割愛しますが)大変興味深い説明をしていただきました。
ハン・ミュンデン
ニーダー・ザクセン州南部ハン・ミュンデンは、ドイツ中央部に位置する人口2万5千人ほどの小さな街。カッセルから電車で北へ約20分とアクセスしやすいので是非訪れて欲しい街のひとつ。
あまり聞きなれない街かもしれませんが、ここはメルヘン街道のみならず、木組みの家街道上(保存状態のよい木組み建築がある街で北から南へ全長3000キロ続く)の街としても知られます。
旧市街の街並みは、600年前からある700以上の木組み家屋がひしめき合い、欧州でも有数の美しさを誇ります。
世界を旅した地理学者フンボルトは、「世界でもっとも美しい7つの街の一つ」と、ハン・ミュンデンを絶賛したそうですが、この街を訪れたら納得するに違いありません。
この街の有名人といえば、300年にわたり語り継がれている医師のドクターアイゼンバード(鉄ひげ博士・1663~1727)。国内各地を120名の芸人や音楽隊と共に治療放浪し、自家製の薬も売り歩いたといい、プロイセン王フリードリッヒ・ウィルヘルム1世より名誉博士を授与されたそうです。
本当のところは、博士号を取得しておらず目立ちたがりやだったとか。そのためやぶ医者とかいかさま師と妬まれたようですが、手術の腕前は高度だったといいます。鉄ひげ博士はニックネームではなく、「ヨハン・アンドレアス・アイゼンバート」という本名です。
鉄ひげ博士は1727年、この街で亡くなりました。彼の墓地は旧市街メインストリート・ランゲ通りの終わる手前を左に曲がるとすぐ見えてくる聖エギーディエン教会の北側にあります。
ハーメルン・笛吹き男伝説の街
13世紀の伝説「ネズミ捕りの笛吹き男」で知られるハーメルンは、ニーダー・ザクセン州に属する人口6万人のヴェーザー山地のなだらかな丘に囲まれた古都。16世紀から18世紀に建てられた美しい砂岩やヴェーザー・ルネサンス様式のカラフルな木組みの家が連なる旧市街が印象的です。
このネズミ捕り男の伝説を簡単に言えば、「ネズミ繁殖に困っていたハーメルンで笛を吹き男にネズミ退治を依頼した。男は笛を吹いて川までネズミを誘導し溺死させたものの、市民は約束の報酬を支払わなかったことから悲劇が始まる。怒った男は笛を吹いて街の子どもたちを連れ去ってしまった」という言い伝えですが、実話という説もあるようです。
いずれにせよ、ウェーザー川辺のハーメルンでは水車を用いた製粉が盛んだったため、製粉業者にとってネズミは大敵だったのです。この街の紋章に碾き臼(ひきうす)がみられるのも、かつて製粉業が盛んだったことを物語っているからといいます。
現在のハーメルンは、街のシンボル「ネズミ捕りの笛吹き男」を観光やビジネスに繋げて大成功を収めています。
また、毎年5月中旬から9月中旬には、マルクト教会横の広場で無料の野外劇「笛吹き男」が毎日曜日12時から開催されます。この広場に隣接する「結婚式の家」の仕掛け時計でもネズミを退治するシーンを鑑賞できます。
レストラン「ネズミ捕り男の家」の脇に笛吹き男が子どもを連れ去ったといわれるブンゲローゼン通りがあります。この通りでは現在も楽器を鳴らしたり踊ってはいけないため、要注意です。
メルヘン街道の中間地点ラインハルトの森に佇む2つの古城
ヘッセン州北部に位置するラインハルトの森は、グリム童話を始め数多くの伝説や地元の物語に溢れる国内で最も広い森林地域の一つです。(200キロ平方メートル)。マイン川から北の海まで続く、ドイツでもっとも古い観光街道の一つがメルヘン街道で、沿線上には70以上のメルヘンスポットがあります。その中間地点に位置するラインハルトの森に古城ホテル「サバブルク城」と「トレンデルブルク城」がひっそり佇んでいます。
この二つの古城は、「いばら姫」と「ラプンツェル」の舞台として大変注目されています。
サバブルク城
眠れる森の美女をもとにしたグリム童話「いばら姫」の舞台となったといわれるサバブルク城は、14世紀に建てられたものの所有者が何度も変わり、最終的には廃墟となっていました。
それが、メルヘン街道の立ち上げの1975年に古城ホテルとしてオープンしたそうです。現在は本館と別館(塔)の宿泊施設を提供。両館ともエレベーターはありませんが、古城ホテルを満喫するにはピッタリの雰囲気かもしれません。筆者が訪問した日は、本館に中国人グループが滞在しており、大賑わいでした。
別館のいり口には壁だけ残っています。かっての本陣です。塔の暗い螺旋階段を上り部屋へ向かいます。部屋の窓から眺めるラインハルトの森の濃い緑に癒されること間違いありません。
夏期の毎週日曜には、いばら姫と王子(姫を眠りから呼び覚ました)が直々にゲストを出迎え、童話を朗読してくれます。
トレンデルブルク城
トレンデルブルク城は700年以上の歴史を持つドイツで初めての古城ホテルだそう。
ディズニー映画で有名になった「塔の上のラプンツェル」の原作はグリム童話の「ラプンツェル」として知られます。
そのモデルとされるトレンデルブルク城は、ほぼオリジナルのまま残っています。建物全体が古めかしいものの、重厚で歴史を物語る博物館のようです。
高い天井のスイート客室をみせてもらいました。ダブルベッドの上にはタオルをハート型にしたタオルとバラの花びらが客を迎えます。ハネムーンカップルに大人気だそうで、それはそれはメルヘンチックな雰囲気一杯でした。
マールブルク・グリム兄弟が学んだ大学の街
マールブルクは、人口8万人ほどの小都市。ラーン川の西側からマールブルク城にいたる斜面に広がる旧市街は、古い木組みの家屋や細い路地、石畳そして数多くの階段が特長。カッセルとフランクフルトの中間に位置するので大変交通の便がよい街です。
1802年に兄のヤコーブ、翌03年に弟ヴィルヘルムがこの街へやってきました。兄弟は、法律家だった父の遺志に従い、マールブルク大学で法律を学んだのです。この大学はドイツ最古のプロテスタント系の大学として知られます。
まず中央駅からクルムボーゲン通りを市内に向かって歩きます。ラーン川にかかるエリザベート橋を渡り、右折し歩いていくと噴水やデコレーションなどバラのモチーフが並木道のあちこちにあります。
メルヘンとバラのつながりに導かれるように歩いていくと、豪華なホテルに行き着きました。
早速ホテルに入りバラの意味を伺うと、ホテルオーナー夫人がバラ好きだそうでモチーフに使っているのだとか。そういえば、このホテルに続く道アネリーゼ・ポール・アレー(並木道)がありました。夫人にちなんで名づけられたのだそう。
1000平方メートルもあるウェルネス部門にはプールやサウナ、マッサージなど大変充実しているので、時間の余裕をもって訪問したい場所です。
このホテルから市内へ5分ほど歩くと、マールブルクの観光ハイライト「聖エリザベート教会」に到着。
ケルン大聖堂の建築モデルになったこの教会は、ドイツ最古のゴシック教会。聖エリザベートは、マルティン・ルターが聖書独訳に没頭したヴァルトブルク城の主テューリンゲン方伯ルードヴィッヒ4世の妃でハンガリーからわずか4歳で方伯の元へやってきました。そして14歳で結婚。
同妃は貧困や病気に苦しむ人々を助け社会奉仕に努めましたが、同4世の死後ヴァルトブルク城を追われてマーブルクへやって来たのです。そしてこの街でも社会奉仕に努め、わずか24歳で死去。そしてドイツ騎士団によりこの教会が建てられ、ここに聖エリザベートの墓があります。中世後期には聖地行脚として重要な教会だったといいます。
旧市街を散策していると、グリムを知る小路といわれる彫刻や装飾品など童話のモチーフがあちこちにありました。グリム童話初版200周年を記念し、翌13年に設置されたこのモチーフは、16ヶ所にあるそうです。この小路の長さは約1.8キロメートル、徒歩で2時間ほどかかるとか。旧市街を歩いていてもグリム童話のモチーフに出会うことが出来るので、小路を巡る時間がなくてもいくつか目にすることが出来ます。そしてモチーフ各所にQR コードの表示があるので、スマホでその物語の情報が入手できるのもありがたいです。
メルヘン街道の夢見るような美しい風景、その土地独自の物語をまるで語りかけてくるような伝説の地、そのすべてがおとぎ話にでてくるものばかり。真実と童話が錯綜するようなグリム童話ゆかりの街を思い浮かべながら、もう一度この童話を読んでみるのはいかがでしょうか。