「働かないおじさん」よ立ち上がれ!【白河桃子×山﨑京子×倉重公太朗】最終回
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コロナ禍で厳しい状況に置かれている経営者の中には、生産性の低い「働かないおじさん」を解雇したいと思っている人も少なくありません。しかし、ミドルシニアやシニア世代は、妻は専業主婦かパート主婦という家庭が大多数です。一家の大黒柱が大量に解雇されたら、日本の社会全体が不安定になってしまいます。だからこそ、企業の経営者や人事部には、社内のミドルシニア・シニアに学ぶ機会を与え、変化に対応できる人材に育てていく必要があるのです。
<ポイント>
・「金銭解雇」は合法化されるのか?
・出世のない人生にも幸せはある
・勉強させるときに必要なのは目的意識
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■白河さん、山﨑さんの夢
倉重:最後に、お二人の夢を聞かせてください。
白河:私はずっと都会で暮らしてきました。コロナで移住している人も増えていますが、少し違うところに住もうかなと考えています。
倉重:いいですね。
白河:遠隔でも仕事ができるようになったので、そういうことを考えるようになりました。あとは、大学でも教えているのですが、いまだに「博士を取って、非常勤ではなくどこかの大学でちゃんと教えたい」とはすごく思っています。
倉重:何歳になっても勉強ですね。
白河:博士がないとなかなか雇ってもらえないので。
山﨑:博士になっても苦労しますが。
白河:ですよね。若い人と接するような仕事をずっとやっていきたいなと思います。
倉重:いいですね。私も来年、どこかもう1つ、家でも借りようかなと思っています。
山﨑:おお。
白河:いいですね。
倉重:2つの家を持って仕事をすると生産性が高いかなと思います。では、山﨑さん。
山﨑:夢と言われると、本当に困りますよね。すごく似たような話かもしれませんが、自分が働ける、社会に還元できるものがある間は、それこそ命が尽きるまで、何か還元ができたらいいなと思います。心身共に健康であり続けるということが、夢というか、ミッションなのかなと思っているのです。その一方で、きっぱりと勇退したほうがいいと思う時期が来たらば、しがみつくのはやめようと思っています。それこそ、若い人たちに全部任せられるタイミングが来たら、すぐに勇退してもいいと思っています。その先が私の夢なのですが、実は、私はキューバに移住したいです。
倉重:どうしてキューバなのですか。
山﨑:『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を見て以来、心をわしづかみされています。元々、JICAの仕事をしていることもあって。
白河:いいですね。私もあの映画もアルバムも好きですよ。
山﨑:社会主義というものに対する一種の憧れがあります。やはり、資本主義を行き過ぎてしまうと何が起きるかというのを、われわれはもう見過ぎてしまっているわけで、すごく違う方向に針を振ったところで、いろいろなものを見聞きしたいなと思っています。
倉重:確かに。住んでみたら、またどう感じるのかというのはありますよね。
山﨑:今はすべてを投げ出してそこに行くわけにはいかないと思いますが、引き継いでもいいタイミングが来たら、そこに自分の身を投じていくのが夢です。公に言ったのはこれが初めてです。
倉重:なるほど、ありがとうございます。あとは、参加者、視聴者が2人いるのですが、質問に答えていただいてもいいですか。
白河:いいですよ。私も倉重先生に質問があるのですが。
倉重:どうぞ、してください。
白河:結局、金銭解雇はどうなると思いますか? 経営者や経産省はすごくやりたがっていますし、いずれ、その流れも来るのかなと少し思っています。
倉重:それは政治が本気を出さないと絶対に無理です。「労使で合意を取ってやる」なんていうのは無理なので、「絶対にこれで行く」という強いリーダーシップを持った人が出ないと厳しいと思っています。あるいは、めちゃくちゃ不況になって、どうしようもなくなり外資などのプレッシャーを受けて導入するバッドシナリオでしょうか。
白河:なるほど。
倉重:安倍さんも興味がなかったですからね。
白河:そうですね。そこはあまり興味がありませんでした。でも、安倍さんは体が弱かったので、長時間働くのは本当に嫌いだったみたいです。
倉重:なるほど。それは自分事なのですね。
■負けを受け入れる文化がない
倉重:ナカニシさん、ツルさん、何かご質問はありますか。
ツル:どうもありがとうございました。質問が何かあるかなと思ってお話をお聞きしていたのですが、どれも共感するばかりで、質問をする前に皆さまからお答えを頂いてしまったというのが率直なところです。
私は人事制度などを作るコンサルタントをしております、ツルと申します。実際、現場でお客さんと役職定年の話なども含めて、制度設計や組織文化から入るような仕事をしています。働かないおじさんの給料をいかに上げないようにするかとか、下げるようにするかという議論もよく現場ではしております。
感想ということで言わせていただくと、一番難しいなと思ったところは、ミドルやシニアの方を外に放出したときに、他社が受け入れてくれないことには、社会にリリースされた人が余ってしまうだけという状況になってしまいます。「よそが拾ってくれる」と思っていたけど、結局誰も拾わないこともあるかもしれません。結構外に出すにしても社内で育てるにしても、育ててどうするのかという問題と背中合わせです。
そもそも育てるコストがかかります。同じお金をかけるなら、若い人に使いたいという企業さんも多いという実態もありますが、その壁を乗り越えた先に、育てた人をどうするのかという問題があるということを感じています。
もう一つは、役職定年の話と絡みますが、年下の上司、年上の部下の話がありました。結局、若い人にポジションチェンジするように言われた人たちが、負けを受け入れる文化がありません。スポーツは、負けた人が勝者をたたえるからゲームが成り立っているのであって、負けた人が100%ごねると分かっていたら試合になりません。その前提をいかに築けるかです。みんな、多分築けないと心の中で思っているからやらないのです。その辺が現場でやっていると難しいと思います。質問というか、感想になりました。
倉重:いやいや、ありがとうございました。
山﨑:そのとおりだと思います。
白河:役職をもっと軽いものにするというか、ただの役割にしていくということは考えられますね。
ツル:役職はステータスなのです。社内での立場もそうだけれども、家に帰って、奥さんに役職が下がったと口が裂けても言えないというような話はよく聞きます。
倉重:部長でなくなると人生が終わるというような。
ツル:そうなのですよね。あと、最近はほとんどありませんが、社宅のある会社さんだと、「あそこの旦那さんは下がったみたいよ」と噂されることが、奥さま同士の世界があるようです。
白河:役職を割と若い人にも振って、年中交代しているところもあるそうです。ジョブ型になると、「あなたはここを束ねるリーダーという役職で契約しました」という感じになるのかなと思います。
ツル:会社側も、例えば高齢の人を降格させても、頑張ったらもう一回上げるところを見せてあげないと。事実上下りるだけの一方通行だと、やはりきついです。年齢は関係ないというのなら、高齢でももう一回頑張ったらチャンスがあると見せてあげないと駄目なのですが、なかなかそこまでガッツのある企業さんはないというのが正直なところです。
白河:私がずっと疑問に思っているのは、男性が下りるシステムがないと駄目なのではないかなということです。子育てがあるので、女性は下りるという選択肢をずっと取らされてきました。男性もその時々で下りる選択ができてこそ、平等です。
ツル:なるほど。大義名分が必要なのかもしれません。
白河:別に、下りる人生は全然悪いことではないと思います。フランス人は、仕事は人生の一義ではありません。例えばヨーロッパだと、同じホワイトカラーの会社員でも、別に出世はしないし、ジョブ型で、「私は経理のこの仕事をずっとやっていく」という人がいます。ずっと同じ仕事をして、賃金も500万くらいで上がらないけれども結構幸せだと思っています。日本でも、ひそかにそれでいいと考えている人はいると思うのですが、キャリア開発などの世界ではあまり公に言えません。
倉重:そこを自分で選択できるような、社会なり会社にしていきたいなと思います。
山﨑:そのとおりです。やはり制度と意識の両輪を改革していく必要があります。
倉重:本当に、「何とかしなければいけないけれども、どうしたらいいのか分からない」というモヤモヤを解決するためのヒントになれば幸いです。
■勉強するにも時間が必要
倉重:コメントで質問が入りましたので読み上げます。「自分も含めて弁護士も勉強しなければいけないと感じています。後輩に勉強してもらったり、新しい企画にチャレンジしてもらったりするコツはあるのでしょうか。最近は、パワハラと言われないように気を使うので難しいです」とのことです。
白河:なるほど。やはりある程度、時間を返してあげないと、なかなか難しいのかなと思います。勉強するにも時間が必要なので、労働時間の上限はあるべきだなと思っています。今回本にも書きましたが、おじさんを勉強させるときに「このポイントがたまったら、あなたの役職定年後のお給料がこうなる」というインセンティブがあるとすごく分かりやすいですよね。ただ、弁護士は専門職なので。
倉重:プロフェッショナルですからね。
白河:やはり自分で勉強していくのが重要です。
倉重:先輩がかっこいい背中を見せるのがいいのではないかなと思います。
山﨑:何のために弁護士になったのか、誰をどのように助けたいのかとか、目的意識があれば、当然その理想と現状の自分の能力のギャップに気が付いていくと思いますし、自分で勉強している人たちは、「こうなりたい」というヴィジョンが必ずありますよね。
白河:そうですね。
山﨑:白河先生の先ほどのお話ではありませんが、「大学の教員になりたい」ということがあって初めて、「博士を取りたい」という願望が出てくると思うので、多分そこが具体的に見えていないのかなと思います。
倉重:私自身もそうだったのですが、興味がないことを勉強しろと言われても無理なのです。私も労働法に弁護士2年目とかで出会ったので、そこから、がっと勉強し始めたのですが。
白河:やはり、好きな分野を見つけるということですかね。
倉重:そうです。
白河:弁護士でも、やはりいろいろな分野がありますものね。
倉重:そうなのです。合っていないものをやれと言われても無理なのです。
白河:そうですね。離婚訴訟とかがすごく得意な人もいますものね。
倉重:そうです。それは本当にキャラによります。医者と一緒で専門化していますし、これは企業でも同じ話です。自分は何が好きなのかを知るということです。
白河:専門を見つけたら楽しいよというのを言ったらいいのかもしれないですよね。
倉重:好きな分野だと、勉強というよりは、勝手に知りたくてやっているだけなので、無理やり感もありません。
白河:確かに。そうです。ご質問をありがとうございます。
倉重:今日はありがとうございました。ぜひ、ワクチンを打ったら飲みましょう。
白河:マイアミに行くと、今海の家のような施設で旅行者もワクチンを打てるらしいですよ。パスポートを提示するだけで誰でも打てるそうなのでそろそろマイアミに行きたいなと思っています。
倉重:ワクチンつき飲み会ですね。
山﨑:本当に行きたいですね。
白河:ありがとうございました。
(おわり)
対談協力:白河 桃子(しらかわ とうこ)
相模女子大学大学院 特任教授、 昭和女子大学 客員教授 、 東京大学 大学院情報学環客員研究員
東京生まれ、私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。 2008 年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。2020 年 9 月、中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、 SDGs とダイバーシティ経営などをテーマとする。「働き方改革実現会議」など政府の有識者委員、講演、テレビ出演多数。
山﨑 京子(やまざき きょうこ)
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、日本人材マネジメント協会副理事長
アテナHROD代表
ロイタージャパン、日本ゼネラルモーターズ、エルメスジャポンでの人事実務を経て、アテナHROD設立。社会人大学院で人的資源管理とキャリア・デザインの教鞭を執る傍ら、日本企業での人事コンサルティングや研修講師、さらにJICA日本人材開発センタープロジェクトの教科主任として7か国(ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、モンゴル、キルギス、ウズベキスタン)の現地経営者に対して人的資源管理の実務指導を行う。
2009年筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了、2019年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。