『二月の勝者』最終回 柳楽優弥が指し示す新しい教育ドラマの可能性
柳楽優弥主演のドラマ『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』(日本テレビ系にて毎週土曜夜10時~)が今夜、最終回を迎える。
進学塾・桜花ゼミナール吉祥寺校の新しい校長になった黒木蔵人(柳楽優弥)は就任早々、入塾説明会でいきなり全員の第一志望合格を約束すると豪語する。過去の苦い経験から中学校教師を辞め、桜花ゼミナールに転職した講師・佐倉麻衣(井上真央)はそんな黒木に戸惑いながらも、言葉少ない彼の背中から次第に何かを学んでいく。
終始クールな表情を崩さず「中学受験は『課金ゲーム』」「『受験塾』は『子どもの将来』を売る場所」と強弁する黒木。そこまではっきり言われると身も蓋もないが、一理はある。そもそも塾はボランティアでしているのではないのだから、資本の理論から見ればなんら問題はない。興味深いのは、むしろ“受験”に特化している関係だからこそ見えてくるものもある、ということだ。
■柳楽優弥の類いまれなる表現力に脱帽
講師たちは学力の低下や成績の伸び悩みから、生徒の微妙な変化の兆候を読み取り的確にサポートする。少人数の塾だからこそ行き届く部分もあると思うし、たとえ金銭でつながった関係だとしても、相手のことを真剣に考えないとそこまではできない。少々乱暴かもしれないが、それはこれまで学校の「教師」が担ってきた役割とほぼ同じように見える。
また、黒木は経済的理由から塾に行けない子どもたちのために無料塾「スターフィッシュ」を開き、勤務時間外に無償で勉強を教えていた。これも学校関係者からは異論があるかもしれないが、「勉強を教える」という意味では、黒木はもはや立派な「教師」ではないだろうか。
この特異なキャラクターにリアリティと存在感を与えているのが、柳楽優弥の類いまれなる演技力である。現在Netflixで配信中の映画『浅草キッド』でも、まるで生き写しのようにビートたけしを完璧に演じており、まさに彼にしか出来ない演技をこれでもかと見せつけている。本作でもミステリアスだが、それでいて人間的魅力を持った黒木蔵人をパーフェクトかつチャーミングに演じ、私たちを作品の世界へと深く誘う。
■受験という壁に立ち向かう一人一人が「勝者」
古くは『熱中時代』『教師びんびん物語』、さらには『ハガネの女』『女王の教室』など、小学校が舞台のドラマはこれまでたくさん作られてきた。中学校ではあるが『3年B組金八先生』シリーズに代表されるように、長きにわたって「学園ドラマ」というジャンルが隆盛を誇ってきたが、その数も減り、流れは時代とともに確実に変わってきている。
いまや受験に限らず、子どもたちの学力面は「塾」がかなりの部分を担っていると言っても過言ではない。もし「勉強」を通じて登場人物の成長を描きたければ、学校よりも塾を舞台にしたほうがリアルだ。今年4月クールに放送され人気を博した阿部寛主演の『ドラゴン桜』も高校を舞台にしていたが、東大受験を目指す少数精鋭の私塾の物語に置き換えても違和感はないと思う。
これまで幾多の学園ドラマで描かれてきた子どもたちの友情も、本作では同じ中学校を受験する島津順(羽村仁成)と上杉海斗(伊藤駿太)や、直江樹里(野澤しおり)と柴田まるみ(玉野るな)の姿を通じ、しっかりと描かれている。特に第6話のラストで泣きながら互いの考えを伝え合った樹里とまるみの姿に感動した人も多いのではないだろうか。
黒木は冷徹に見えて、残酷な現実を認識した上で目標に向かって努力し懸命に突き進むことの大切さを一貫して子どもたちに教えている。その意味で『二月の勝者』はこれから先の教育ドラマの可能性を指し示しているようにも思うのだ。
もうここまで来たら誰が受かろうが落ちようが構わない。綺麗ごとかもしれないが、たとえどんな結果が待っていようとも、一生懸命に生き抜いてさえいれば一人一人が立派な「勝者」なのだから。