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投手転向した元ムネリン同僚がほろ苦デビューも開幕前に待ち受ける“天国と地獄”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
野手時代のアンソニー・ゴース選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ブルージェイズ時代に川崎宗則選の同僚で、運動能力の高い俊足外野手として期待されていたアンソニー・ゴース選手が昨年3月に投手転向を表明し、タイガース傘下の1Aに回り奮闘している事実を、昨年5月に本欄でも紹介している。

 そんなゴース選手がオープン戦ながら早くもMLBデビューを飾ったのだ。現在はアストロズに所属している(その経緯は後述)同選手は、現地3日に行われたナショナルズ戦で3番手として5回からマウンドに立った。しかし先頭から3連続四球を与えてそのまま降板すると、後続が打たれたため3失点(自責は2)までついてしまうという、ほろ苦デビューになってしまった。

 残念ながらMLB公式サイトのボックス・スコアはまだオープン戦仕様なので、ゴース選手の球数やストライク数は定かではないが、1つもアウトを奪えずに3四球で終わっているのだから制球に苦しんでいたことは間違いない。ただスポーツ専門サイトの『The Score』が報じた速報記事によれば、オープン戦が始まったばかりのこの時期にもかかわらず、最速は98マイル(約158キロ)を計測しているという。

 昨年1年間タイガース傘下に所属していたゴース選手は11試合に登板し、0勝2敗、防御率7.59に終わっていた。計10.2イニングで14三振を奪う一方で6四球を与えており、元々制球に苦しんでいたようだが、それでも最速99.8マイル(約161キロ)の速球とカーブを武器に、マイナーでの被打率はわずか.189と打者を圧倒していた。潜在能力の高さは十分に窺い知ることができるだろう。

 そんなゴース選手はシーズン終了後にタイガースを離れ、昨年11月にレンジャーズとマイナー契約を結んでいたのだが、その数週間後に大きな転機を迎えることになった。毎年12月に開催されるウィンターミーティング中に実施される『ルール5ドラフト』でアストロズから指名を受けることになったのだ。

 このドラフトは6月に実施されるアマチュア選手対象のドラフトとは違い、5年間マイナーに在籍しながら一度も40人枠に入ったことがない有望選手を対象に、他チームが引き抜きできる制度なのだ。すでにMLB経験があり、投手転向1年目のゴース選手がドラフト対象になったのか細かいルールは定かではないが、とにかくアストロズが“略奪”することに成功したのだ。

 ただしドラフト指名には厳しい規則がある。あくまで有望選手の引き抜きになるので、指名したチームは対象選手を即40人枠に加えるとともに、さらに開幕からメジャー枠の25人に入れなければならないのだ。もしこれを守らなかった場合、対象選手は前所属チームに復帰しなければならないのだ。

 つまり現在のゴース選手はアストロズで40人枠に入ったメジャー選手の扱いになっている。さらに現時点では開幕メジャー入りも保証されているのだ。だがその一方でアストロズはゴース選手にある程度の期待をかけているとはいえ、その本質は投手転向2年目のマイナー選手でしかない。メジャーで通用しないと判断すれば簡単に切ってしまえる存在なのだ。今回のような投球を続けていれば、再びマイナー選手としてレンジャーズに戻らなければならなくなる可能性は必然的に高まってしまう。

 この1ヶ月間の投球次第で、ゴース選手を待ち受けているのはまさに“天国と地獄”のいずれかしかない。果たして彼が迎える結末とは…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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