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こんな失点では未来がない。柴崎岳と槙野智章に見られる、決定的なミス

清水英斗サッカーライター
アジアカップ2019、トルクメニスタン戦(写真:松尾/アフロスポーツ)

本当に余計だった! あの2失点目―。

あの失点さえなければ、森保ジャパンに対するポジティブな評価は、もう少し増えたのではないだろうか。

アジアカップ・グループリーグ初戦のトルクメニスタン戦は、足場のもろい勝利だった。相手の日本対策に苦しめられ、前半はカウンターを許し放題。それでも0-1で折り返した後半、左サイドで原口元気が大外に張るポジショニングを中心に、戦術を修正すると、一時は3-1と逆転に成功した。

もちろん、諸手を挙げて喜ぶことはできない。森保ジャパンの現状は、選手のコンディションにばらつきがあり、けが人も多く、その穴埋めをするメンバーも整っていない。準備不足が目立つ。また、予想外だったトルクメニスタンの5-4-1システムに対する戦術の修正も、前半のうちには明確な手を打てず、ハーフタイムの修正を待つしかなかった。前半の内容はひどい。

それでも、後半に修正し、巻き返したことについては、一定の評価が可能だった。

ところが、3-1で迎えた後半34分。あまりにも軽率な2失点目を喫したことで、3-2と迫られ、結局タイムアップの笛を聞くまで、日本は緊張状態を脱することができなかった。負傷明けの大迫勇也も、フル出場を強いられることに。

本当に余計な2失点目。「鮮やかな修正」から「薄氷を踏む勝利」へと、試合の見出しは変わっていく。

柴崎と槙野に見られるミス

「スローインは味方が1人外に出ている。むしろ数的不利だ」と警告したのは、イビチャ・オシムだったか。

日本は自陣で長友佑都がスローインを行ったが、それを受けた北川航也がターンした瞬間、2人に挟まれてボールを奪われた。そこからトルクメニスタンのショートカウンターが発動。ボールには冨安健洋が寄せたが、一歩間に合わず、真ん中をスルーパスで割られてしまった。最後はGK権田修一が、一か八かのタックルに行くも、ファウルとなり、PKで2失点目を喫した。

あまりにも簡単に真ん中を割られてしまった。守備陣による中央への集結が、間に合っていない。前半から見られた攻守の切り替えの遅さが、この場面でもハッキリと露呈した。

そもそも自陣でスローインになったのは、トルクメニスタンの猛烈なハイプレスを受け、ボールが外に出たことが要因だ。状況的にショートカウンターのリスクは、当然考えなければならない。3-1とリードした状況で、自陣スローインで、最後まであきらめない相手に対し、早めに中に絞っておく、危険なスペースを潰しておく。状況的に安全かつ慎重な対応を心がけるのは、このレベルでは難しい判断ではないはず。

もう一つ気になるのは、柴崎岳と槙野智章の対応だ。

北川がボールを奪われそうになった瞬間、柴崎の初動対応は、左サイドの11番ヤクシェフに寄せることだった。反対サイドのマークへ身体が動き、中央のスペースへ絞る素振りがまったく見られない。それは、この危険な状況を認知できていない、ということ。

相手は両サイドハーフがロングカウンターの起点だったので、柴崎はそこを潰す意識が強かったのかもしれない。だが、この場面はロングカウンターではなく、ショートカウンター。敵陣ではなく自陣だ。起点も何も、すぐにでもゴールへ直結する仕掛けが出てくる。

しかも日本はポゼッションのために、全員が広がってポジションを取っていた。いち早く中央へ絞り、ゴールにつながる危険なスペースを埋めなければならない。柴崎がセオリー通りにポジションを取れば、ゴールに直結するスルーパスのルートは遮断できていた。

ところが、人に付く傾向が強い柴崎は、このような危険なスペースを管理できないことが多い。それはトルクメニスタン戦以外でも見られる現象だ。ハリルジャパンでも、テネリフェやヘタフェといったスペインのクラブでも、柴崎がボランチを任される試合が少ないのは、特に攻守の切り替えにおけるスペース管理に甘さがあることが、一因ではないだろうか。

一方、槙野智章。

FWの動き出しについて行けなかった。代わって入った17番アンナドゥルディエフは、最終ラインに沿って“↑”と横移動しながらタイミングを図り、スルーパスが出る瞬間、ゴール方向へ“⇒”と急加速。“↑⇒”の動きで飛び出した。

不意を突かれた槙野は、17番とゴールの間にポジションを取れていない。準備ができていなかった。さらに17番の“↑⇒”の動きを、同じ“↑⇒”で追走している。これではたとえ追いつけたとしても、相手の背面になり、ファウルで止めるしかない。どちらにせよPKだ。

本来はポジショニングで遅れを取った時点で、“↑⇒”で追走するのではなく、危険なスペースへ、真っすぐ斜めに下がるべきだった。そうすれば、少なくともシュートコースに入れる。インターセプトの可能性は無いが、予測で遅れた時点で、状況的には不利。人に付くよりも、ゴールを守ることを最優先にしなければならない。

危険なスペースを先に抑える。柴崎に限らず、槙野もこのような状況判断でミスを犯し、裏を取られることが、この試合に限らず散見される。

ロストフの14秒は、果たして一瞬のこと?

『ロストフの14秒』。ロシアワールドカップ・ベルギー戦、最後のコーナーキックを取り上げたNHKのドキュメンタリーだ。

番組中では一つの争点として、フリーでロングドリブルを仕掛けてきたデ・ブライネに対し、山口蛍が下がらず、その場に留まって1対1でボールを奪おうとした状況判断が、注目された。

結論から言えば、山口の判断は間違い。フリーのデ・ブライネからボールを奪える状況ではない。さらにデ・ブライネ以上に危険なスペースへ、左右真ん中から次々と選手が湧き出している。山口が取るべき判断は、ポジションを切り下げ、相手の勢いを吸収しながら、味方のプレスバックを待ち、最後はGKに背後のスペースを任せながら分担して守ること。しかし、山口は勝負するべきタイミングを誤り、失点を招く一つの要因になった。

もっとも、このような瞬間の判断だけを切り取り、手厳しく批判するのは、個人的には好まない。ミスはミスだが、あのピッチに立つ者だけが持ち得る感覚もある。どうしてもデ・ブライネの突進だけは、早めに止めたい―。もし、あの場の山口がそう感じて、瞬間的に動いたとすれば、それはそれ。サッカーは知的ゲームだが、瞬間的な判断は、常に動物的なものだ。それがセオリー破りで成功することもある。判断は一瞬のこと。90分の中で、一つの判断だけを執拗に切り取っても、未来にはつながらない。

ただし、それが一つじゃなかったとしたら?

この手のミスが一度や二度ではなく、その選手がいつも同じミスをしていたら? それは話が別だ。山口は1対1に自信があるせいか、より危険な相手やスペースを優先的に守る判断がうまくいかず、人やボールに釣られることが多い。

一瞬ではなく、習慣だったとしたら、やはり修正しなければならない。柴崎と槙野の判断ミスにも通じること。後半34分の失点場面を修正するのは、今大会、あるいはその先を踏まえても、絶対に欠かせないキーポイントだ。

この課題が初戦から出たことはラッキーだった。一筋縄ではいかないアジアカップ。とはいえ、一筋縄からはじめるしかない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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