北朝鮮軍から「幹部候補生」たちが一斉に逃亡
朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)といえば、社会的地位が高く、羨望の的だった。新兵も、後備幹部(軍官候補)に選ばれて軍官学校に入ることを夢見ていた。責任は大きいものの、特別配給の対象者となり、衣食住すべての面において、優遇され、安定した暮らしを送れたからだ。
ところが、状況は5年ほど前から一変した。今では、後備幹部に選ばれそうになったら、あらゆる手を尽くして逃れようとするという。一体何が起きたのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の軍関連情報筋によると、朝鮮人民軍総政治局は最近、後備幹部に選ばれた対象者を調査して、理由なく選抜を逃れようとする者がいれば処罰するとの警告を発した。それほど、逃れようとする人が多いということだ。
道内の鏡城(キョンソン)に駐屯する第9軍団では、軍官学校への入学を逃れるために、身体検査の過程で病院にワイロを送り、病気があると虚偽の診断書を作成してもらったが、摘発されたという事例が数件発生した。
同様の事例の報告を受けた総政治局は、朝鮮人民軍の存亡がかかった重大な問題だとし、すべての部隊に対して、入学逃れについて検閲(監査)を行い、厳しい対処を取るように指示した。
地位も名誉も豊かな生活も保証される軍官になることをなぜ嫌がるのか。それは、豊かな生活ができたのは過去の話だからだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
軍官に対する特別配給はかなり前に止まってしまい、食糧と住宅不足で苦しい生活を強いられている。しかし、命令が遂行できない場合には、思い処罰を受ける。
「特権は消えたのに、重い責任だけ残っている。誰が軍官になんかなろうとするものか」(情報筋)
虚偽診断書を作成した容疑で摘発された兵士は、朝鮮労働党への入党や除隊後の大学入学の推薦が全面保留となり、シャバに戻っても、ブラック労働の現場に追いやられる不利益を受けるというのが、情報筋の説明だ。
下手に入学対象に選ばれてしまえば、どっちに転がっても悲惨な将来が待っているとなれば、平素の勤務や訓練に臨む態度にも少なからず影響を及ぼすだろう。
平安北道(ピョンアンブクト)の軍関連情報筋も、現地の部隊が同様の問題を抱えており、幹部部(軍官の人事関連部署)が頭を抱えていると伝えた。
兵士たちの間では、軍官学校を出て軍官になれば、人生の全盛期をすべて軍に捧げなければならず、途中で退役(退職)したとしても、生き馬の目を抜くような厳しい民間社会では商売での競争に勝てないとの認識が蔓延している。
軍を定年退職した後も、かつてのような手厚い福祉は期待できず、貧しい生活を強いられる。下手に出世などせずに、兵役を終えたら民間人に戻るのがはるかマシと考えるのも当然のことだろう。