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「帰国命令」に怯える北朝鮮の海外駐在員たちの"最後の手段"

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 北朝鮮当局は、中国に派遣している貿易駐在員に対する監視と統制を強化している。課せられた外貨上納のノルマに耐えかねて、脱北する可能性を事前に遮断するためだ。

 中国のデイリーNK情報筋によると、貿易駐在員は通常週1回、領事館に集められて平壌から送られてきた学習資料を受け取り思想教育を受けるが、それが隔日に増やされた。日々の行動を報告させられ、祖国に対する忠誠を誓わされるのだ。

 当局は同時に、中国に派遣されている保衛員(秘密警察)を通じて、貿易会社幹部の動向を綿密に監視させ、随時報告させている。また、中国の情報機関、国家安全部にも脱北を試みる自国民の逮捕と送還に協力するよう要請した。

(参考記事:美人タレントを「全身ギプス」で固めて連れ去った秘密警察の手口

 別の情報筋は、ラオスなどと国境を接する中国西南部で、北朝鮮旅券を所持した者を発見し次第、北朝鮮保衛部に身柄を引き渡すよう、中国国家安全部に要請し、コロナ対策で国内移動が制限されている中で、中朝当局の二重の監視で脱北が難しくなっていると述べた。

 ちなみに雲南省からベトナム、またはラオスを経てタイに逃げ込むのは、代表的な脱北ルートだ。かつては、これら地域で摘発されたとしても、ワイロを使って見逃してもらうことも可能だったが、今では警備が厳しくそれも難しい空気になっているという。

 彼らにさらなるプレッシャーとなっているのは、コロナ明けには、3年以上駐在している貿易会社幹部は帰国させられるのではないかという噂だ。北朝鮮のコロナ鎖国で、そもそも貿易が完全にストップしてしまい、営業成績も何もあったものではないが、当局はそんな事情は一切考慮せず、外貨上納のノルマを課し続けている。

そんなプレッシャーに耐えかねて、自ら命を断つ者も相次いでいる。

 別の情報筋が今年3月に伝えたところによると、今年に入って情報筋の知る限り、4人が自ら命を絶った。

 彼らがそれほど帰国を嫌がるのは、事業の「総和(総括)」をさせられるためだ。年間の実績を報告するもので、通常は年末に1ヶ月程度かけて行われる。

 成績が悪かったり、駐在期間が長くなりすぎた駐在員には、彼らが最も恐れる完全帰国が命じられる。そうなれば自由で豊かな中国での生活ができなくなるのはもちろん、地方の閑職に飛ばされ、永久に出国できなくなる。最悪の場合、何らかの処罰を受ける可能性すらある。

 情報筋は、当局からのプレッシャーが強くなり、身辺に危害を加えられそうになれば、韓国大使館に駆け込むことを考えている幹部もいるようだと述べている。中には、韓国大使館の電話番号を暗記している者もいるという。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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