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ラベナ兄弟の初対決が予感させるアジア枠選手がBリーグの潮流に変化をもたらす?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
人生初の兄弟対決が実現したラベナ兄弟(筆者撮影)

【国際試合のような雰囲気に包まれた滋賀対三遠戦】

 週末に開幕したBリーグの2021-22シーズン。開幕カードの1つ、滋賀レイクスターズ対三遠ネオフェニックス戦は、これまでのBリーグにはなかった独特の雰囲気に包まれた。

 会場のあちこちをアジア系外国人のグループが陣取り、中には国旗を持参して会場入りしており、あたかも国際試合の様相を呈していた。

 彼らが手にしていたのは、フィリピン国旗。今シーズンから滋賀に入団したフィリピン・バスケ界の英雄、キーファー・ラベナ選手(以下、キーファー選手)のデビュー戦だったからだ。

 しかも対戦相手の三遠には、昨シーズンから同チームに入団している弟のサーディ・ラベナ選手(以下、サーディ選手)がおり、在日フィリピン人にとってはまさに特別な試合だったのだ。

 それを物語るように、滋賀では開幕カードに合わせ、公式サイトでフィリピン人向けに2階席を無料開放する告知を行ったところ、なんと346人の応募があったという人気ぶりだった。

会場のあちこちでフィリピン国旗がはためいた(筆者撮影)
会場のあちこちでフィリピン国旗がはためいた(筆者撮影)

【主力選手として十分に活躍できることを証明した2選手】

 開幕カード2試合を通じて、キーファー選手は改めてその能力の高さを披露した。

 第1戦では25分43秒の出場を果たし、11得点、8アシストの活躍で、Bリーグ加盟以来初となるホーム開幕戦勝利に貢献。続く第2戦では試合自体は延長戦の末敗れたものの、43分06秒間の出場で20得点(チーム最多タイ)、7アシストの活躍をみせている。

 まだチームに合流して日が浅く、司令塔のPGというポジションでありながら、すでにチームの中心選手として機能しており、チーム内のコミュニケーションが進んでいけば、更なる活躍が期待できそうだ。

 弟のサーディ選手も、その才能を遺憾なく発揮した。昨シーズンはプロリーグ初参戦の上、負傷にも見舞われ、18試合の出場に止まっていたが、元々フィリピンで大学ナンバーワン選手との評価を受けており、2年目を迎えた今シーズンに飛躍を目指している選手だ。

 第1戦は31分35秒間の出場で、11得点、6リバウンドに終わったが、第2戦では32分49秒間の出場で、21得点(チーム最多)、7リバウンド、5アシストの活躍で、勝利に貢献している。

 開幕カードの起用法からも明らかなように、今シーズンは兄弟ともにそれぞれのチームの主力選手であることは間違いなく、今シーズンの活躍が期待されるところだ。

【生まれて初めての兄弟対決を満喫した両者】

 第1戦をエンドラインから撮影している限り、試合中の両選手はほとんど会話を交わす様子はなかったが、試合終了後は満面の笑みを浮かべながら抱き合うシーンが印象的だった。

 サーディ選手から話を聞かせてもらったところ、公式戦のコートで対決するのは今回が初めてだということで、それまでは自宅の裏庭で1オン1をやっていただけだという。

 「ついこの間まで裏庭で一緒にプレーしていたのに、海外のコートで戦えるなんて本当にアメージングだ。とにかく楽しかったよ。

 今日の試合もたくさんの人たちが応援してくれた。家族だけでなく多くのフィリピンの人たちが誇りに思ってくれると嬉しい。

 これからもチームに貢献できるようにやれることはすべてやるつもりだし、フィリピンを代表してプレーするという思いを常に忘れない」

 キーファー選手によれば、試合前日に家族を交えてサーディ選手と食事をともにしたという。彼らの言動からも、心温まる兄弟の絆が理解できるだろう。

試合終了後に健闘を称え合うラベナ兄弟(筆者撮影)
試合終了後に健闘を称え合うラベナ兄弟(筆者撮影)

【アジア特別枠の有効活用が成功のカギを握る?】

 現在Bリーグは外国籍選手の起用法に関して「オン3(正式にはオンザコート3)」制度を採用している。

 この制度は、コート上に外国籍選手2人と帰化選手1人の計3人が同時にコートに立てるというものだが、昨シーズンからそこにアジア特別枠(以下、アジア枠)が加わり、帰化選手と同じ扱いを受けることになった。

 つまりラベナ兄弟は2人ともアジア枠の選手なので、彼らは外国籍選手2人と一緒にコートに立つことができるわけだ。

 これまで強豪チームはこの制度を有効に使い、実力ある帰化選手を迎えることで他チームとの差別化を図ってきた。

 例えば昨シーズン覇者の千葉には、ギャビン・エドワーズ選手がおり、同じくファイナル進出の宇都宮ブレックスにもライアン・ロシター選手(現アルバルク東京)がいた。またベスト4に進出した川崎ブレイブサンダースにもニック・ファジーカス選手が在籍するなど、彼らがもたらす戦略的メリットは計り知れなかった。

 もちろん帰化選手には限りがあり、それをリクルートするのは簡単ではない。だがラベナ兄弟のように、実力派のアジア枠選手を獲得していけば、帰化選手に対抗できる戦力を整えられる可能性がないだろうか。

【アジア枠スター選手の獲得で集客にも好影響】

 第1戦終了後に「少しでも長く(日本で)プレーしたい」と明かしたキーファー選手は、同時に非常に興味深い話をしている。

 「僕や弟だけでなく、フィリピン人選手がBリーグに在籍している。これからも我々がどんどん活躍を続け、我々を誇りに思ってくれるフィリピンの人たちが、これからも国旗を携えながら応援してくれることを願っている」

 今シーズンはラベナ兄弟の他に、7選手がアジア枠としてB1チームに在籍している。だが彼らの多くはまだ若く、開幕カードの起用法を見ていても、まだ即戦力という位置づけにはなっていないようだ。

 その一方で、フィリピンはFIBAランキングで日本を上回っており、国民のバスケ熱もかなり高い。今後フィリピンからキーファー選手のようなスター選手がBリーグにやってくることになれば、さらに多くのフィリピン人が試合会場に足を運んでくれることになるだろう。それはランキング上位の中国や韓国にも同様のことがいえる。

 今後はアジア枠選手たちが、さらにBリーグを盛り上げてくれそうな予感がしてきた。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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